21話:真相究明です!
山小屋でブルースとミユが……というのは、あくまで第三者であるスチュアートの推測。ブルース本人に話を聞かない限り、何とも言えない。
そこでスキー合宿に同行していた新任の養護教諭が、ブルースの様子を確認する場に、私は立ち会うことにした。一方のジェラルドはミユの捜索を続け、遂に発見に至る。
ロッジの裏口の扉の脇には、暖炉に使う薪が積まれていた。
そこに隠れるようにして、シュガーピンクのロングケープ、白の耳当てと手袋をつけたミユがいたのだ。
なぜそんな場所にいるのか、ジェラルドが問う。するとミユはこう答えた。
「山頂に近い山小屋では、オーロラが見えるそうです。こっそり見に行こうと誘われました。ブルース様から。そして他の生徒にバレないよう、ここで待って欲しいと、メッセージカードが届けられたんです」
これを聞けて少し安堵できた。山小屋には、確かに向かおうとしていたのかもしれない。でも下心があるわけではなさそうだ。オーロラを見るためだった。ただロッジのスタッフに聞いたが、その山小屋はここからだと、歩いて三十分以上はかかるという。
そこでようやくブルースが目覚めた。
養護教諭によると、理由は不明であるが、一時的に気を失っていただけだという。寒さで意識を失ったか。足を滑らせ転倒した際に脳震盪でも起こしたのか。しかも倒れたのは、硬くなっていない雪の上。ゆえに目立つ外傷はなし。こうなると何があったのか。ブルースに尋ねることになる。
「第二王子であるスチュアート様に、山小屋からなら、オーロラが見えると言われたのです。このロッジは周囲に建物が多い。かつ街灯もあるのでオーロラは見えない。対して山小屋は、周囲の木々を伐採しているため、見晴らしがよいと言われました。しかもその山小屋は、ロッジから歩いて十分足らずだと」
スチュアートの言葉は尤もらしく聞こえる。しかも品行方正で知られる、王族であるスチュアートの言葉。普通なら信じる。
「オーロラが見えるなんて、初耳でした。それにそんな近くに山小屋があるなんて。にわかには信じられません。思わずそれを指摘すると『失礼だぞ、ブルース。王族であるわたしに対して! 侮辱罪に問われたくないなら、今すぐ、山小屋の有無を確認するといい』と言われてしまいました。夜間の外出は禁止されています。でも山小屋が見つからなければ、謝罪し、侮辱罪にも問わないと言われ……」
まさかスチュアートがそんなことを言っていたなんて!
「もしここで教師を呼べば、大事になります。僕は山小屋がそんなに近くにはないと、内心確信できていました。よって教師を呼び、彼らと共に山小屋があるか確認すれば、スチュアート殿下は恥をかくことになります。それは……避けた方がいいと思いました」
ブルースはなんて心優しいのだろう。私だったら教師を呼ぶと思った。
「公爵家は王家への忠誠を誓っています。そこで僕が確認し、スチュアート殿下の勘違いだった……それで終わらせることができればと思ったのです。規則を破ると分かっていましたが、外に出ました。すると森の中へ入ってしばらくすると、何か薬品を嗅がされ……。気絶しました」
ブルースの判断には王家を敬う気持ちに溢れていた。
それに咄嗟の判断なのに、とても冷静だと思う。
こうなるとブルースは、嵌められた気がした。第二王子であるスチュアートに。
なぜなら山小屋は、徒歩で三十分以上かかる。そうロッジのスタッフは言っている。それに山小屋は勿論、この辺りでオーロラが見えたなんて話、聞いたことがないと言われた。
スチュアートが勘違いしている可能性は、ゼロとは言わない。でも勘違いの可能性は、限りなく低く感じる。
それに礼儀正しく、勉強もできるスチュアートであれば、言わないと思う。侮辱罪を持ち出したり、外出禁止を破ることを推奨する発言なんて。敢えてそう言ったとしか思えない。
しかもミユを呼び出すカード。ブルースはそんなカード、書いていないという。
つまりこのカードも、スチュアートが用意したのでは?
カードを確認したかった。だがそこには禁止されている夜間外出を誘う内容が書かれていた。そして読み終わったらすぐに処分するようにと書かれていたのだ。よって既にそのカードはミユにより、暖炉にくべられていた。
スチュアートは、ブルースに夜間外出禁止を破らせた。さらには校長や教師陣に、信じ込ませようとしていたのだ。保護者にまで注意喚起されている、一線を越える行動をしようとしていたと。
禁止されている夜間外出を破るだけでも、お咎めはある。一線を越える行動を試みたとなると……。最悪、退学も余儀なくされるのでは?
なぜスチュアートは、こんなことをするのか。
小説でスチュアートは、いきなりプロポーズをしている。婚約破棄されたミユに対して。
だがそれは、婚約破棄され、フリーになった令嬢が目の前にいた。だからプロポーズしてみた……というわけではないだろう。登山家が、そこに山があるから登るのと同じ――ではない。
以前からミユのことを知っており、スチュアートは好意を持っていたのでは?
その以前というのが、まさに今なのではないか。