18話:平和な日々が続いています!
ブルースとミユの学園生活は、平和に流れて行く。
体育祭の後は、テストもあり、その時は屋敷で二人、勉強に励んだ。問題を出し合い、懸命に学ぶ二人の姿は、実に微笑ましい。
バカンスシーズン、前世で言うところの夏休みが始まると、フォード公爵家が所有する別荘に、ミユの家族と共に滞在した。湖畔に建つその別荘で、ボート遊びをしたり、釣りをしたり。美しい湖を眺めながら、絵を描いたり。近くの街で行われるサマーフェスティバルにも足を運んだ。そこで花火大会も楽しみ、ブルースとミユは、初めて二人で過ごす夏の思い出を、積み重ねて行く。
秋になると、勉強は忙しいが、イベントも多い。
領地で行われる収穫祭に遊びに行ったり、野外学習では、狩りの大会も行われた。そう、あのホワイトフォレストで、ブルース達は、狩りも楽しんだ。主に女生徒は、男子生徒を応援するわけだが……。
ブルースはとても立派な雉を狩ることに成功。その羽根を使い、羽根ペンを作り、ミユに贈っている。ブルースは剣術だけではなく、弓も扱えるようになっていた。
続く文化祭、建国祭、合間にテストもあり、二人は大忙し。
街路樹は色づき、そして季節は冬が始まる。
ホリデーシーズンに入り、二度目の長期休暇となったが、ここで宿泊を伴う学校イベントが行われることになった。
それはスキー合宿だ。
前世でスキーは、一昔前以上に流行したスポーツだった。昨今では外国人観光客が、スキーのために来日している。だから私からすると、レトロなイメージのスキーであるが、この世界では最先端。貴族のウィンタースポーツとして、じわじわと人気が高まりつつあった。
そのスキーの合宿ということで、生徒は楽しみでならない。
それはそれでいいのだけど。
保護者向けに送られてきた、学園からのお知らせ。そこに書かれていたことは……。
『宿泊を伴う合宿となります。教職員一同、注意をしていますが、ご家庭での再教育を、今一度お願いします。この国では、王侯貴族の令嬢・令息は、婚姻関係を以てして、男女の関係になることが推奨されています。学生のうちに妊娠や出産となりますと、学業へ多大な影響を及ぼします。婚約関係にあっても、婚姻前であることを踏まえ、今回の合宿で一線を越えることがないよう、令嬢・令息への家庭でのご指導を今一度、お願いします。』と、いうような内容が、それはそれは遠回しに言葉を選びながら、書き連ねられていた。
これには「まあ!」だった。
こんな通達が来ると言うことは。
過去に一線を越える生徒がいたのかもしれない。
うちの子に限って、そんなことはないわ……と思ってしまうが。
これはブルースに、女性の立場から、男性の立場から、つまりは私とジェラルドで、それぞれ話すことになった。
貴族社会では、未婚の妊娠はタブーに等しい。婚約者がいても、婚姻前にそうなったと知られれば、それはもう醜聞として、社交界で後ろ指をさされることになる。当事者は勿論、家族も親族も。非常に肩身の狭い思いをすることになる。そのプレッシャーに母体が耐えるのは、とても厳しい。結局、学校を退学し、地方領でひっそり子供を産むことになる。子供を産み、王都に戻っても、未婚で出産したという事実はずっとつきまとう。生まれてきた子供も、生涯そのことを言われ続けるのだ。
ということでブルースには「どんなに好きでも、一線を越えてはなりませんよ」と伝えることになった。
子を持つ親としての役目を果たした!と思い、自室に戻ると、既にジェラルドが部屋に来ていた。
今日は黒のバスローブ姿で、いつもよりシックなジェラルドは、自身の座るソファに私を手招く。
既に私も入浴を終え、ラベンダー色のネグリジェに厚手バニラ色のガウンを羽織っていたので、そのままソファへ向かった。
「キャサリン。ちゃんとブルースには話した。あの子もちゃんと聞いていたよ。問題ないだろう」
「そうですね。ブルースは真面目です。それにミユも。あの二人なら、過ちは起こさないと思います」
ジェラルドが私を抱き寄せるので、その逞しい胸に身を預ける。
「ところでキャサリン。今回ブルース達がスキー合宿で向かうラヴィークの地は、温かい泉が湧くことで有名だ。スパ施設に加え、宿のロッジでも、温かい泉の湯に入れるそうだ」
! それはつまり温泉があるということだわ。温泉なんてこの世界に転生してから、一度も入ったことがない。というか存在していることすら知らなかった。それだけブルースの子育てに、夢中になっていたのね。
「ホリデーシーズンの数日くらい、わたしも執務を休める。……温かい泉の湯に入りに行くか? ブルースのことも遠くで見守ることができる」
「それは名案です! 温かい泉の湯に入るのも、楽しみでなりません」
するといきなりジェラルドが、鎖骨の辺りに唇を押し当てる。さらに首筋を絶妙な加減で撫でるので、変な声が出そうになってしまう。
「ミルキー色の温かい泉の湯に入ると、肌が潤い、すべすべになるそうだ。だがキャサリンの肌は、今でも十分な触れ心地だ。ベルベットのような肌触りで、吸い付きたくなる」
そう言うと肌の感触を楽しむように、首筋にキスのシャワーが降って来る。
「もっとキャサリンの肌に触れたい。……ベッドへ行こうか」
艶っぽい微笑を浮かべたジェラルドが、私のことを軽々と抱き上げた。