147話:終わりと始まり、です!
「ミユ・マリア・ロイター男爵令嬢。僕達の婚約、終わりにしよう」
ブルースの言葉に呆然として、フリーズしてしまう。
頭の中では「なぜ、なぜ」という言葉がぐるぐるしている。
終わりにする……!?
なぜ……?
そこで気合を入れ、私は椅子から立ち上がる。
止めないと。
婚約を終わりにするなんて、ダメだから!
「キャサリン」と押し殺した低い声で、ジェラルドが私の手を握った。
そこでハッとして彼の顔を見る。
落ち着いていた。
怒っていたり、困惑していたり、呆れていたり。
そんな表情をジェラルドはしていなかった。
ただ、ブルースとミユの方を見ている。
ジェラルドにつられるようにして、私も再び二人を見ると……。
ブルースに「僕達の婚約、終わりにしよう」と言われた当事者であるミユは、なぜか頬をうっすらとピンク色に染めている。こちらもまた、慌てた様子もなく、どちらかというと……。
嬉しそう……?
ま、まさか。
ミユは本音ではスチュアートが好きだったとか!?
婚約が終わることを喜んでいるの!?
衝撃でスチュアートを見ると、こちらは興味津々という顔でブルースを見ている。
ミユではなく、ブルースを見ていると思う。
分からない。
ここでスチュアートが動くのか。
やはり私が「待った!」をかけないといけないのでは!?
再び口を開きかけたまさにその瞬間。
「ミユ、君との婚約期間。学生なのだし、妥当なものだと思う。でもそのうち半年間は僕が留学していて、遠距離でもあった。君に会えない時間は……とても寂しい時間だ。学園を卒業することで、婚約者同士でも、毎日会うことは難しくなるかもしれない。それなら婚約は、もう終わりだ。半年以内に僕達は結婚しよう」
これにはもう、盛大に騙された!と思ってしまうが。
ジェラルドがサプライズ好きなように。
ブルースもまたサプライズ好きに育っていたようだ。
「ええ、ブルース。そうしましょう。私も一日も早く、あなたと結ばれたいわ」
「本当に? それは嬉しいな。では明日にでも君の両親に話しに行くよ。結婚式の準備のために、僕の屋敷で一緒に暮らさないかって」
そう言ってブルースがミユを抱きしめ、こちらを見上げる。
しかも「お父様、お母様、いいですよね、ミユが屋敷へ来ても」とその目が言っていると思う!
ジェラルドは「フッ」と口元に笑みを浮かべ、私を見る。
私は「構わないわ! むしろウエルカム!」を示すべく、首を縦に何度も振った。
ジェラルドはそれを受け、片手を軽く上げる。
ブルースが安堵する表情になり、会場内からは口笛やら拍手やら歓声が起きた。
「おめでとう!」「お幸せに!」
皆、大変好意的。
見るとスチュアートも笑顔で拍手を送っている。
これを見た私はまさに腰が抜けた状態。
ストンと椅子に座り込む。
ジェラルドはそんな私を見てクスッと笑う。
「親にこんなサプライズを仕掛けるなんて。随分と大胆になったものだ。なんだか昔の自分を見ているような気持にもなる」
「ジェラルド……」
私はそう答えるので精いっぱい。
一方の会場ではブルースが「今日はみんな、僕の結婚宣言の立会人になってくれてありがとう! 結婚式にはぜひみんな、来て欲しい!」と言うので、さらにやんややんやと盛り上がる。
楽団がウェディング行進曲という、この世界でお馴染みの結婚式でよく流れる曲の演奏を始めた。そしてこれはダンス曲でもある。皆、一斉にブルースとミユの周囲に集まり、ダンスを始めた。
◇
顔全体に感じる生温さ。名状しがたい匂い。
ねっとり、ベチャベチャしたものが、顔中を覆っていると思った。
いきなり、な、なんなのよー!
カッと目を見開き、そこに見えたのは……。
え、何!? エイリアン!?
「パオーン!」
パオーン!?
「わあ、お母様、すごーい! ゾウにチュウされたぁ!」
異世界に転生したと自覚したのは、まさかのゾウからの熱烈なキス。
そしてそれを見て喜ぶをブルースを見てからだった。
そこから小説の流れに抗うように、ブルースを素敵な令息に育て、最愛のジェラルドの死を回避した。
ブルースとミユが夢のような恋に落ちるようサポートし、ビッチな子爵令嬢を撃退、スチュアートの悪だくみを潰して……。そこから思わぬ出来事に巻き込まれたり、ムッチリンのような変態に絡まれたり、宰相であり女好きの伯爵に襲われそうになったり。時にはゴーストに憑依されたこともあったけれど。
全部、乗り越えることができた。
それはジェラルドだったり、ブルースだったり、ミユだったり。
時には幼なじみのリックやスチュアートの助けを得て、乗り越えることになった。
モナカやチャーマンだって頑張ってくれている。
人生は長い。
特にブルースとミユの物語は、まさにこれから始まる。
平坦で平凡な人生。
それもいいだろう。
でもたまに起きるハプニング、それもまた人生のスパイスだ。
人生山あり、谷あり。
これからも何かあったとしても。
安心してください。
何が起きても“家族の力”と“仲間の力”で軌道修正し、ハッピーエンドにして見せます!
お読みいただき、ありがとうございました!
これにてキャサリンが転生した小説のエンディングまで、駆け抜けることができました~
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
思わずうるっとするのは筆者だけでしょうか(泣き虫)
キャサリンとジェラルド。ブルースとミユ。リックやスチュアート。
物語で大活躍した彼らに、エールの気持ちで感想や評価をいただけると嬉しいです!
もしかしたらまた波乱万丈の物語が始まる……かも?
ちなみに二つのコンテストで一次選考を通過し、140万PVを突破した
『転生したらモブだった!異世界で恋愛相談カフェを始めました』
本作の第八章がスタートしました!
恋愛・結婚・夫婦の悩みに主人公が答えつつ
乙女ゲームのモブとして様々な出会いと出来事に遭遇し……。
章ごとで読み切り。ぜひご覧いただけると嬉しいです!
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