138話:名案です!
「フォード公爵夫人のおかげで、偽物ターコイズは、人工ターコイズとして受け入れていただくことができました……!」
サディ夫人から報告が上がって来たのは、2月に入ってすぐのこと。
私のターコイズのネックレスは、サディ夫人により、本物のターコイズに替えてもらった。そしてこのことは誰かに明かすことなく、モナカ、サディ夫人、私の三人しか知らない。
そしてサディ夫人の名誉を守り、損失を減らすために私が提案したのは、人工ターコイズとして、大量の新作を売り出すことだ。
ドレスやカバン、靴、扇子などに本物の宝石が使われることもあるが、失くすと大変。さらに沢山飾りたい時、それだけ宝石を用意するのは並大抵のことではない。そんな時に使われるのが模造宝石だ。人工真珠もよく使われる。皆、それが本物ではないと知り、採用しているのだ。
同じように。
偽物のターコイズも、偽物=人工ターコイズと言った上で、本物のターコイズより気軽に手に入る。しかも劣化しにくく、傷もつきにくいとなれば、売れるのではないか。そう思い、サディ夫人に話したところ……。
「名案です、フォード公爵夫人! 本物と思い、買い付けを行いました。人工ターコイズとして売る場合、利益は出ないでしょう。でも損失にはなりません! それに土台や付属するゴールドやシルバーは本物なので、そちらで多少の利益を出せるかもしれません。何より、新作が無駄にならなくて済むので、その案、採用させていただきます!」
サディ夫人は瞳を輝かせ、人工ターコイズとして販売を始めたのだ。本物のターコイズは交易で入手するので、時間がかかるが、人工ターコイズなら、今すぐ手に入る。しかも本物のターコイズより劣化が少なく、傷もつきにくい。見た目は大変美しい。しかも今年の流行は間違いなく、ターコイズ。いち早く舞踏会や晩餐会で身につけたいなら、本物よりお手軽に手に入る人工ターコイズはいかが?――こんな形で売り出したのだ。
本物は交易品なので、なかなか手に入らない。それなら人工ターコイズでもいいのではないか。しかも値段も手頃であり、デザインは良く、傷もつきにくく、劣化しにくい。本物はフォード公爵夫人しか持っていないのだ。あとのみんなは人工ターコイズなのだから、マウントを取り合う必要もない。
ということでいち早く美しい色合いの宝飾品を手に入れたくなった令嬢マダムが、こぞって人工ターコイズを購入した。そして購入と同時に、付け替えの予約もしたのだ。つまり本物のターコイズが入手したら、差額を払い、付け替えてもらうということ。すぐすぐに利益は出ない。だが本物のターコイズが手に入れば、間違いなく利益は後からついてくる。
今度こそ本物のターコイズが手に入るよう、サディ夫人も慎重に交易の相手を見極めるだろう。
そして実際に。
サディ夫人は、フィグ帝国の王家とも取引のある商人と、契約を結ぶことに成功したのだ。念のため、ジェラルドに頼み、その商人について調べてもらった。結果、健全であることが確認できている。それをサディ夫人に伝えると……。
「フォード公爵夫人、本当にありがとうございます! 夫人のおかげで、大損失と名誉失墜の危機を乗り越えることができました。よければ今後、ターコイズの新作は、まずフォード公爵夫人に無償でお届けします。ターコイズの広告塔になってください!」
貴族の令嬢マダムにとって、宝飾品とは切っても切れない。フォーマルな場のみならず、家族との夕食でも、正装するぐらいなのだ。宝飾品を身につけないで済む日なんてない。流行の最先端となる新作を無償でもらえるなんて、お断りする理由がなかった。
それに広告塔。
社交界の中心人物が身に着けるなら、無償で提供してもペイできるのは事実だ。よって、これはwin-winの提案なので、快諾だった。
すると早速、既に手持ちであったターコイズで作ったネックレスを進呈されたのだけど……。
それはバックネックレス!
正面から見た時、それはターコイズが埋め込まれた普通に美しいネックスレス。
だが大きく背中の開いたドレスを着て、このバックネックレスをつけると……。
背中にもターコイズが垂れ下がる。
まさに背中美人になるネックレスなのだ。
背中がV字型に大きく開いたドレスは、イブニングドレスで人気がある。だがこれまでこのタイプのネックレスは、この世界では見たことがなかった。でも前世では見かけたことがあり、人気が出そうと思ったら……。
「キャサリン、こんなデザインのネックレス、初めて見た」
家族での夕食の席で試しにつけたところ、ジェラルドがまず反応。ブルースも褒めてくれた。思いがけず男性も気に入るデザインのようだ。これなら次の舞踏会へ付けて行こうと思っていたら……。
その日、寝室へやって来たジェラルドは、下着姿でこのバックネックレスをつけることをリクエスト!
そして――。
「下着とバックネックレス。実に妖艶な組み合わせだ。このデザインのネックレスを、いくつかオーダーメイドしよう」
ジェラルドの嗜好にハマったようで、この日の夜は……。
いつも以上に盛り上がって過ぎて行った♡






















































