14話:ヒロインとのお茶会大成功です!
お茶会の会場となった庭園には、ガゼボ(西洋風東屋)があった。
今日のお茶会のために、シンプルなガゼボに美しい布や花や葉を飾り、最高にロマンチックに仕上げてもらっている。アイアン製のテーブルには白いクロスを敷き、そこには既に甘いお菓子がズラリと並んでいた。アイアン製の椅子には座り心地のいいクッションを敷き、背もたれにもカバーをつけている。これで長時間のお茶会も、問題なしだった。
使用人に話はつけてある。しれっと他のメイドと共に並び、ブルースとヒロインであるミユの到着を待つ。
来たわ!
ブルースは爽やかなセルリアンブルーのセットアップで、足が長く見える! エスコートされているミユは、パウダーピンクのドレスで、お人形さんみたいだ。社交界デビューしたとはいえ、まだ十五歳。実に二人とも初々しい。
ちゃんとエスコートし、ミユが着席すると、ブルースは合図を出す。
基本的に給仕は、その道のプロである本物のメイドの皆さんに動いてもらう。
初夏のこの季節に人気のチェリーティーが用意できると、二人は早速、おしゃべりを始めた。
どうやら話題に困っている雰囲気はない。
ただ、ブルースは話すことに夢中で、ミユにスイーツを勧めることができていない。
一方のミユは、テーブルのスイーツに度々目を向けている。
舞踏会の休憩室と違い、お茶会では用意されたスイーツを食べて問題ない。ただしそれは主催者が「スイーツもどうぞ」と勧めてから。今のところブルースは、ミユにチェリーティーしか勧めていない。ゆえにミユは……スイーツは気になるが、我慢しているようだ。
ならば。
「ブルース坊ちゃま、こちらのレーズンサンド、王都で人気の『レーズン・ガーデン』のものですよ」
さりげなく紅茶のお代わりを注ぎながら、そう伝えると、頭の回転が早いブルースは、ハッと気づく。
「ロイター男爵令嬢。ぜひスイーツも召し上がってください。おススメは、レーズンサンドのようです」
「美味しそうですね。ありがとうございます!」
これでミユもスイーツを食べることができ、緊張も一段階、緩んだはずだ。
しばらくは二人とも、スイーツを食べながら、紅茶を飲み、そして会話を続けていた。
すると。
なんだかミユが少しそわそわし始めた。
「ブルース、気が付いて」と念じるが、話に夢中でダメだった。
長時間に渡るお茶会では、令嬢がレストルームへ行ける雰囲気を作るようにと、ブルースには教えていた。だが今のブルースは、そこを忘れている。
ならば。
「ブルース坊ちゃま。日傘の用意もあるので、庭園を少し、散歩されてはいかがですか?」
これは、「令嬢のレストルームを気に掛けよ」の合図だ。
さすがにこの一言に、ブルースはそれを思い出す。ミユに、散歩とそのついでで、よかったらレストルームに行かないかと提案した。
これにはミユの目が、感動で輝いている。こんな風にスマートに、レストルームを利用することを提案されたら、それは恥じらうお年頃の令嬢。嬉しいはずだ。
そんな感じでささやかなサポートを行い、ブルースとミユのお茶会は、大成功で終わった。
◇
夕食の席でブルースは、ジェラルドと私に嬉しい報告を行う。
「本日、ロイター男爵令嬢とお茶会をしたのですが、大成功でした。お母様が庭園をしっかり整備し、ガゼボを飾りつけ、そして美味しいスイーツを手配してくれたおかげです」
「そうか。よかったな、ブルース。キャサリン、ありがとう」
ジェラルドは、実に清々しい笑顔をしているが。
お茶会が無事終わり、彼の執務室に報告へ行った時のことを思い出すと……。
「メイド服のキャサリンというのは……なんだか非日常で、たまらないな」
そんなことを言い出したジェラルドは、私にお茶会の様子を報告させながらも、本棚に私の背を押し付け、スカートをたくし上げ……。執務机に積まれた書類は絨毯に散乱し、補佐官を震撼させることになってしまった。
「実はロイター男爵令嬢に、次は自身の屋敷のお茶会に来て欲しいと言われました!」
ブルースの言葉に我に返り、慌てて応じる。
「まあ、そうなのね。では庭の花で花束を作り、王都で一番人気のチョコレート店の限定品を、手土産として用意しましょうか」
「お母様、お気持ち、ありがとうございます。ですが今回は僕、自分で選んでみます」
これにはビックリ。まさかブルースが女性に関することで、自分で選ぶと言い出すなんて!
「そうか。ブルース。花選びは、花言葉も重要になる。限定品は事前に日時を指定し、取りに行く必要もある。その辺りは大丈夫か?」
ジェラルドの言葉にブルースは「!」と驚いた表情になるが、すぐに頷く。
「花言葉、まだ学びが足りません。ですがお茶会は来週なので、勉強します。チョコレート店にも使いを出し、予約しますね」
この受け応えにジェラルドと私は、アイコンタクトで確信する。
ブルースは、巣立ちの時が来たのだと。
ミユとのお茶会、きっとブルースは、自身の采配で上手くやれるわ。
結果として、ブルースは自身の服選びも、理髪師の手配も自力で行った。素敵な花言葉に溢れるブーケを用意し、令嬢に人気の限定チョコレートも準備できた。そしてそのお茶会の席で、ミユに告白。二人は交際をスタートさせた。
初めて会った舞踏会から三か月後。
ブルースとミユは婚約が決まった。
そのプロポーズは、公爵邸の夜のテラス席で行われた。ランタンで照らされ、大変ロマンティックな中、ディナーが行われる。そして食後の紅茶を飲み終え、まさに幻想的な雰囲気の中で、ブルースがプロポーズの言葉を口にしたのだ!
私の読んだ小説のプロポーズとは全く違う、素敵なものだった。
良かったと安堵するが、勝負はこれから。
来年の春、いよいよブルースとミユは、婚約破棄の舞台となる王立レーモン学園に入学となるからだ。