136話:え……それは本当なの?です!
お茶会の席は、ユズ伯爵夫人の采配のおかげで、ターコイズのネックレスがないことも、ほとんど気にされることなく終わった。さらに私から、クジャクの羽根を使った扇子が販売されるという情報を振ることで、一気に話題はそちらに向かう。
「そのうちクジャクの羽根を使ったドレスも販売されそうね」
「フォード公爵夫人、それは間違いないですわ! トータルコーディネイトしたくなりますわね」
まさにこんな感じで、ターコイズよりクジャクの羽根で盛り上がった後、ユズ伯爵夫人が絶妙なタイミングで『Heart-Giving Day』に言及してくれる。お茶会の場にいた全員が『Heart-Giving Day』を昨年楽しんでくれていた。今年も勿論、満喫するつもりなので、すぐに飛びついてくれる。
「今年はさらに『Heart-Giving Day』に参加する方、お店、商会も増えそうですよね」
「ええ。今年は横顔のシルエットマークのシールに、バリエーションを出そうと思っているの。レアデザインも混ぜようと思って。有名な絵師に依頼も出して、そろそろ完成する頃よ」
「まあ、フォード公爵夫人は商売上手ですわ。貴族の皆さま、コレクターが多いですから、争奪戦で大変なことになりそう! ……それでどんなデザインですの!?」
既にそのレアデザインを手に入れたいようで、皆様、目がキラキラ輝いている。
これは上々ね。
間違いなくレアデザインで盛り上がってくれる。
贈る相手は一人。
でも貴族の皆様は懐に余裕があるので、きっと自分用に購入して、コレクションするだろう。
とはいえ、爆買いは困るので、一日に購入できる個数は制限。
適度な儲けを出しつつも、本来の庶民から貴族までが楽しめるイベントである点からは、ブレないようにするのが肝要だ。
こうしてお茶会は大いに盛り上がり、私は屋敷へ戻ることになる。
この馬車の中では、お茶会の話題の余韻に浸りつつ、例のターコイズのネックレス紛失事件について思いを馳せることになる。モナカが動くことで、何か進展はあっただろうか。
そんなことを思っているうちにも、屋敷に到着となった。
エントランスホールに迎えに来てくれたモナカを見ると、「奥様、お帰りなさいませ。ご報告がございます」と早速言われる。
どうやら何か分かったようね。
でも話は部屋に戻ってからだ。
夕食に合わせたドレスへの着替えをモナカに任せ、そこで話を聞こう。
ということで自室へ向かった。
◇
「え……それは本当なの?」
ラズベリー色のイブニングドレスに着替えながら、モナカから聞いた話に驚きの言葉が出てしまう。
「はい。昨日、サディ夫人はエントランスで見送られ、馬車で出発されました。ですが敷地を出る前に忘れ物に気付いたということで、馬車から降りると単身、屋敷へ戻られたそうです。その時、奥様専属ではないメイドが対応し、事情を聞いたところ『試作品のターコイズのイヤリングの片方を、奥様のお部屋に忘れてきた』ということだったのです」
「それを私の専属メイドに伝え、一緒に私の部屋へ行き、三人で探したのね?」
つまり公爵家のメイド、私の専属メイド、サディ夫人の三人で、ターコイズのイヤリングの片方を探したのかということ。
「はい。最初はソファやテーブル付近を探したのですが、見つからないので、その周辺も探したそうです。それでも見つからないので、三人でクローゼットに向かい、そこで確かにイヤリングが落ちていたとのこと」
サディ夫人は「同じターコイズですから、間違って運ばれてしまったのかもしれません」と言って、そのイヤリングを受け取り、今度こそ馬車に乗り込み、帰ったというのだけど……。
「最後にクローゼットを閉じる時。そこにターコイズのネックレスがあるかどうか。特には確認しなかったそうです。そしてそれ以外で奥様の部屋に出入りしたのは清掃メイド、入浴の準備を担当した奥様の専属達ですが、どれも複数名。お互いの行動は見ていましたが、ターコイズのネックレスが置かれたクローゼットに近づくことは、なかったようです」
公爵家のメイド、私の専属メイド、その二人にモナカは話を聞いた。
二人ともこの屋敷で、使用人として働いていた期間は長い。
信頼もされているし、過去に問題行動もなく、勤務態度におかしなところはなかった。しかもお金に困っていることもないのだ。
「外部の人間という意味では、サディ夫人は怪しいかもしれません」
モナカの言葉に「でもなぜ!?」と思ってしまう。
「そもそもターコイズのネックレスを贈ってくれたのはサディ夫人なのよ。後から取り返すような行動をとるなら、最初から私に贈る必要はないわよね?」
私の髪をアップに結わきながら、モナカは自身の推測を披露する。
「可能性としては、奥様のターコイズがイレギュラーだったからではないでしょうか」
「それは……どういうことかしら?」
「サディ夫人はターコイズの注意点を奥様に手紙で伝えています。ですが奥様のターコイズはその注意事項のいくつかを破っているのに、傷もなければ変色もなかったですよね。つまり通常のターコイズとは違う特性を持っている。よって希少であると分かり、もっとそのターコイズについて調べたくなった。もしくは手元に置いておきたくなったのではないでしょうか」
つまりサディ夫人は忘れ物をしていない。
クローゼットを捜索した際、自身が持っていたイヤリングを、さもここで見つけた演技をしたのではないか――そうモナカは言うのだ。
これは……もし本当なら、実に残念な話。
とても希少性が高く、さらに調査したい。手元に置きたいと言うのなら、相談してくれればいいのに……。
「まだ彼女が犯人とは断定できないわ。サディ夫人を呼び出し、話を聞いてみましょう」