13話:見守り潜入作戦!
もう、絶叫するかと思ったら。
私の口を押さえる人がいる。
一難去っていないのに、もう一難ですかー!?
そう思ったが。
「うぎゃっ」
どっかの国の大使が短い叫び声をあげ、ヘナヘナと座り込む。
掴んでいた私の肩からも、手を離している。
どうやら私の口を押さえた人物が、一撃を入れたようだ。手にしていた剣の柄頭で、どっかの国の大使のみぞおちに。
完全に大使は、ダウンだ。
ということは、一難は去りまた一難、でもない?
振り返ると、そこにいるのは……。
髪はオールバック、鼻の下には細い髭、服装としては騎士に見える人物だ。
宮殿を警備している騎士……なのかしら?
ともかく御礼を伝える。
するとその騎士は、クスクスと笑っていた。
レディが御礼を伝えているのに、失礼だわ!
そう思ったけれど!
「今日の舞踏会。君がブルースを見守る姿、見ていたよ。そんなに心配していたとは」
「え……まさか公爵様……ジェラルド、なの?」
「フッ。私の変装は、どうやら完璧だったようだな」
驚いた。
全く分からなかった。オールバックの姿は初めて見たし、髭だって初めてだ。しかも騎士のような装いは、ジェラルドがしたことはない。何より今、外にいて暗いこともあり、完全に……騙されたわ!
「昔の君は、宝飾品とドレスに夢中で、息子の子育てには、興味がないと思った。でも君だって元は、公爵家の令嬢。世の令嬢は、子育ては乳母任せも多かった。何も君だけが特殊というわけではない。それでも君がブルースへの関わり方を変えたのを見て、君のことを見直した。ますます君を好きになったよ」
「ジェラルド……」
「だからもし、ブルースのことを今日みたいに見守りたいなら、わたしに遠慮なく相談してくれ。こうやってわたしも付き合う。何より、こんなドレスを着て……」
ジェラルドが私を抱き寄せ、太ももから脇腹を、撫でるようにして触れる。
驚きと、その手の動きに、熱いため息が漏れてしまう。
「さっきのような愚か者に君が襲われるのは、見ていられない。それにこんなドレス、他の男どもには見せたくない」
掠れるように囁くジェラルドの顔は、キスをできる距離にある。
その吐息を肌に感じ、なんとも気持ちが昂っていた。
「ジェラルド、この生垣の向こうに、どっかの国の大使が気絶しているのよ?」
「気絶しているんだ。……構わない」
「え……」
前世今生初めての星空の下で……となりかけたが、そこはジェントルマンな公爵様。
でも屋敷までは待てなかったようで。代わりに初めての馬車の中で……が待っていた。
◇
「……キャサリン。なぜメイドの変装をする必要が?」
「それは……母親として同席は、さすがにできません。ですからメイドとして、そばにいることができれば、サポートできるかな、と……」
社交界デビューした舞踏会で、ヒロインであるミユと知り合ったブルースは、私の想像通り。
飲み物と会話を楽しみ、そしてもう一度、ミユとダンスをした後。
夢見顔で、ブルースは帰宅した。
その翌日。
ブルースはちゃんと御礼の手紙を書き、花束と共に、ミユに贈った。
こうして文通が、しばらく続く。
そして遂にブルースは、ミユを公爵邸の庭園でのお茶会に、誘ったのだ!
つまりは初デートを、申し込んだということ。
ブルースは、女性慣れしていないわけではない。
ただ、意中の女性に、好きな女性との二人きりの会話には、まだ慣れていないと思うのだ。
舞踏会の休憩室での会話は、立ち話。しかもせいぜい十分程度だ。
でもお茶会となると、二時間半から三時間は話す。
既に文通は何往復かしているため、話題に窮する可能性がある。
さらに自身からお菓子を勧めるなどの気遣いは、普段なら問題なくできるだろう。でも自分も相手も緊張しているとなると、上手くいかないかもしれない。
そこをサポートしたいと思ったのだ。せめて初めてのお茶会だけは。
「なるほど。ならばわたしは執事に変装し、立ち会いたいが……。あいにくその時間は、商会の関係者との会議がある。仕方ないな。ブルースのことは君に任せる。終わったらそのメイド服のまま、報告に来て欲しい」
ジェラルドは、あの舞踏会の日。騎士に変装し、私を見守るために潜入をしていた。その際、ブルースのために見守りをするなら、自分も付き合うと言っていたが。あれは本気だったのね。会議がなければジェラルドは、執事に変装して……。
そこで思わず、執事姿のジェラルドを想像してしまう。
騎士の変装も、本物の騎士に見えるくらい、似合っていたのだ。執事の変装も、絶対似合っているはずだ。間違いなく、カッコイイと思う……。もはや変装ではなく、コスプレ感覚になってしまうが。
今はそれどころではない!
ブルースには、外出すると告げ、バッチリメイドに変装した。髪は、この年齢で!と思うが、三つ編みにして、眼鏡をかけている。これでメイド服を着ていると……鏡に映る私は、女学生みたいに見えた。
これなら絶対にバレないわ。
ということで早速、お茶会の舞台となる庭園に向かった。
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