123話:何が起きたのか!?です!
「ブルース坊ちゃまが切りつけられ、病院へ運ばれました」
チャーマンのこの一言で、私の酔いは吹き飛ぶ。
ジェラルドもシャツのボタンを留め、タイを直すとすぐに扉を開ける。
「一体、どういうことだ!?」
「馬車を用意してありますので、歩きながらお話しします」
エントランスまで歩きながら、チャーマンから聞いた情報によると……。
ブルースとミユは、問題なくホリデーマーケットが行われている、街の中央広場に到着した。学生達もホリデーシーズンの休暇に入っており、人出は多い。にぎわう中、ブルースはミユをエスコートし、散策を始めた。マーケットには屋台、スタンドショップ、歩き売り販売と、様々なスタイルで商品が売られている。
ブルースはその歩き売り販売をしていた女性に、切りつけられたというのだ。
「知らせてくれたのは、ミユ様の侍女です。ミユ様とブルース様、ブルース様に従っていた従者は、病院へ向かいました」
夜の外出なので、二人にはそれぞれ侍女、従者がついていた。護衛で騎士をつけることも考えたが、それでは物々しくなってしまう。
それにホリデーマーケットは人も多い。ゆえにスリや窃盗の犯罪が圧倒的だ。酔っ払いによる殴り合いの喧嘩もあるが、剣による事件なんて聞いたことがなかった。よって腕に覚えがある従者をつけたのだけど……。
まさかあのブルースが切りつけられるなんて。
ミユの侍女と一緒に馬車に乗り込み、より詳しい状況を教えてもらうと……。
「私もお二人の後をついていたので、その状況を見ていたわけではないのですが、その歩き売りをしていた女は、ミユ様を刺そうとしたようなのです。ブルース様はそれに気が付き、ミユ様を庇うことで、短剣が腕をかすめたようで……」
侍女の話を聞いたジェラルドは「では傷は深くないな」と安堵の表情になる。私もそれを聞き、一安心だ。
「ブルースの剣術の腕は、騎士団の上級指揮官に匹敵するレベルと言っていい。それでも不意打ち、奇襲。ましてや庇う相手がいると、怪我を負うこともある。それで犯人の女は?」
「はい。ブルース様は、ミユ様の身を優先されました。襲って来たのは女一人だけなのか。周囲に仲間がいるのではないか。ミユ様を置いて犯人を追うより、その身を守ることを優先されたのです。代わりにご自身の従者に、犯人を追うよう命じました」
「適切な判断だ。自身も浅いとは言え、怪我を負っている。従者に追わせたのは正しいだろうが……。とにかく人が多いだろうからな。勿論、王都警備隊も巡回しているだろう。それでも逃げられた可能性が高いな」
悔しいが、ジェラルドが言う通りだと思う。群集心理も働く。逃げる者がいた時、自身が捕らえようと思うより、これだけ沢山人がいるのだから、誰かが捕まえるだろう……と傍観者になりがち。よく分からない出来事に関わりたくないという気持ちも、生じるだろう。捕らえようと思っても、咄嗟に動けないことも多い。
「犯人の目的が、ミユを襲うことだったのなら……屋敷からずっとつけていたのだろうか。どうなんだ? 屋敷周辺で、何か目撃情報はなかったか」
ジェラルドに尋ねられたミユの侍女は、即答する
「ミユ様の周囲で怪しい者が暗躍していたかというと……。そんなことはなかったと思います。屋敷には警備の兵もいるのですが、不審者の情報は報告されていません」
そこで侍女は少し考え込み……。
「つけられていた……。そこはなんとも言えません。ホリデーマーケットの会場は人も多いですし、尾行されていたかどうかまでは……。私が素人いうこともあり、つけられていても、気づけなかった可能性があります」
人は意識していないと、つけられていたかどうかなんて分からないだろう。相手がプロなら、尾行がバレないよう工夫をするだろうし、なおさらだ。
「ブルースはどうだ。周囲を気にしている様子はあったか? ブルースなら尾行されていれば、気が付く可能性が高い」
「そうですね……。ブルース様は、周囲の様子を気にしていました。ですがそれは通常の範囲と申しますか……。尾行者がいれば、特定の方向を気にすると思います。尾行者がいるであろう場所を見るかと。ですがブルース様は、人出が多いホリデーマーケットの全体を、気にしているように思えました」
「ならば間違いない。尾行はされていなかったのだろう。つまり突発的な犯行の可能性が高いな」
これには私が思わず「通り魔的な犯行、ということでしょうか?」とジェラルドに尋ねてしまう。
「その可能性は高い。通り魔的な犯行となると、その犯行動機を解明するのは、本人に話を聞くのが一番だ。……貴族に対する偏見があった。売れ行きが好ましくなく、イライラしていた。ミユに声をかけ、断れてカッとなった……いくらでも想像できてしまうからな。それでもミユやブルースと話せば、動機は絞り込めるかもしれない」
そんな会話をしているうちに、ブルースが運ばれた病院に到着した。






















































