122話:二人でそわそわです!
「キャサリン、今晩の会食はキャンセルしたから、夕食はわたしと食べよう」
「!? いいのですか、キャンセルなんて……」
「ああ。わたしがメインの会食ではないし、代わりに補佐官を行かせる。ブルースもいないから、たまには外で食べよう」
つまりレストランでデートをしようということだわ!
考えてみるとジェラルドとは、ほぼ毎晩のように愛し合っているが。
デートらしきデートをする機会は、本当に少ない。
特に夕食はブルースと三人、もしくは私とブルースで屋敷で摂ることがほとんど。
勿論、社交シーズンが始まれば、晩餐会もある。しかも晩餐会は、たいていパートナーがいれば、同伴するもの。でもこれは外食は外食でも、デートとは程遠い。あくまで社交。甘い雰囲気など皆無だ。
というわけで。
この日は夜が待ち遠しくて仕方ない。
それはブルースも同じようで。
乗馬の練習をしたり、剣術の訓練をしたり、勉強もしたりしていたが。
ミユとのデートが待ち遠しくて、そわそわしている。
ブルースと私で日中、ずっと落ち着かなかったのだ。
だがやがてその時間が近づく。
ブルースは濃紺のスーツに着替えた。
前髪はいつもとは違う分け目にして、バッチリ決めている。
そして私に見送られ、屋敷を出発した。
ジェラルドはまだ会議中だが、それが終われば外出できる。
元々会食の予定があったのだから、会議もちゃんと終わることになっていた。
ということでブルースの見送りを終えるとすぐに部屋に戻り、モナカに着替えを手伝ってもらう。
選んだドレスは……前世で大好きだった『ティファニーで朝食を』で、オードリー・ヘップバーンが着ていた黒のドレスにそっくりのデザイン。いわゆるマーメイドラインのドレスだ。
デコルテを見せるデザインなので、大ぶりのパールのネックレスとイヤリングをつけ、髪はアップでまとめる。鏡に映る私は……自分で言うのもなんだけど、オードリー・ヘップバーンっぽい!
前世日本人では無理だった。
転生し、完璧ボディのキャサリンだから、実現できた姿だと思う。
これに白のファーのロングコートを着て、エントランスへ向かうと……。
ジェラルドはチャコールグレーの細身のロングコートに、白のロングマフラーを首にかけ、黒革の手袋つけている。キリッとして、痺れる程、カッコいい!
ブルースはフレッシュで若々しく、王子様のように素敵。対するジェラルドはダンディで、大人な魅力に溢れている! 変な話、今すぐ抱かれたい……と思ってしまう。
「キャサリン、ワインの専門店を予約した。食事は、ワインとのマリアージュで店が選んでくれる。特にシャンパンと一緒に出されることが多いチーズフォンデュが、今の季節は絶品と教えてもらった。十一月にオープンしたばかりの、紹介制のお店だ。個室を押さえたから、ゆっくり楽しもう」
このジェラルドのチョイスも最高!
ブルースと三人で外食することもあるが、その時は必ずレストランで、食事がメインだ。お酒をゆったり楽しむようなお店にジェラルドと二人で行くのは……久々だった。
そういう大人のお店を知っていて、さらりと予約をして案内してくれる。
しかも紹介制。
こういうところが余裕があるというか、通というか。
とにかくご機嫌で馬車に乗り込み、その時点でジェラルドともラブラブ状態。
「ジェラルド、キスマークはダメよ。デコルテが見えるデザインのドレスだから」
「では背中ならいいか?」
「もう、ジェラルドったら!」
そんな調子でお店に到着すると、対面ではなく、横並びのソファ席の個室に案内された。
ここで極上のワインと、そのワインに完璧に合う料理を用意されたら……。
胃袋も満たされ、酔いも回り、もうキスマークがつくことも忘れ、ジェラルドといちゃいちゃしてしまう。
私達、ブルースのような息子がいる夫婦なのに。
これではまるで、新婚ほやほやみたいだわ!
でも。
酔いが完全に回っているのは私で、ジェラルドは冷静に「いくら個室でもさすがにここではまずいか?」なんて言っている。私としてはもう最高に気分も良く、このままジェラルドにもっと甘えたいので、彼の耳元でささやく。
「公爵様、もう屋敷へ戻りましょう……。お預けは、我慢できません」と。
これを聞いたジェラルドは……。
ソファに押し倒され、そのままとなりかけたが、なんとか思いとどまらせる。
そして手早くお会計を終え、馬車に乗り込むと……。
またもジェラルドが衝動的になるので、そこはストップをかける。
ここまで焦れ焦れにさせてしまったから、部屋に着いてから大変かもしれないわ……。
そんなこんなで屋敷に戻り、寝室に着くと。
もう扉の前で濃厚なキスをして、ジェラルドはタイを緩め、シャツのボタンをはずす。その上で私の太ももを、ぐっと持ち上げる。
え、まさかここで!?
え、この姿勢で!?
洋画でよく見るけれど、これって、これって……。
そんなことをまさに思っている時。
扉が遠慮がちに。
でもハッキリ音が聞こえる強さでノックされる。
エントランスホールには、チャーマンやモナカを始めとした使用人達が、迎えに来ていた。そこでジェラルドは「呼ぶまで部屋に来なくていい」と告げている。
それなのにノックするということは。
何かあったわけだ。
ジェラルドは荒い息を、深呼吸一つで落ち着かせると。
低い声で尋ねる。
「なんだ?」と。
すると、チャーマンが扉越しに告げる。
「ブルース坊ちゃまが切りつけられ、病院へ運ばれました」






















































