121話:ホリデーシーズンです!
ブルースとミユは、学園でのテストも終了。
後はテストの返却を待ち、ホリデーシーズンの休暇が始まるのを待つ状態だった。
ジェラルドは兼任している校長の職務と、商会経営と、長期休暇前は、忙しさが加速する。さらに会食の機会も増えているのだけど……。
普段は酔わないジェラルドだが、この時ばかりは違う。
とにかくお酒を勧められるので、普段より飲むことになる。するとラム酒以外では酔わないジェラルドなのに、帰宅するといい感じで酔いが回っているのだ。ほろ酔いだけど。
普段、キリッとした表情のジェラルドが、この時は目元をほんのり赤くして、実に妖艶になる。しかもその外見に違わない言動までとるのだ。
「キャサリン、わたしが準備している間に、アレを着るように」
酔っている自覚があるジェラルドは、お湯で温めたタオルで全身を清め、そしてガウンへ着替える。その間に私にはアレ……つまりはハッサーク国の、あの露出多めの伝統衣装を着るようにリクエストするのだ!
そこで気遣いも忘れない。
「モナカ、キャサリンの寝室は、暖炉の火力を上げ、暖かくしておくように」
本当に必要な箇所しか隠してくれない、あの衣装でも寒くないように。
室温を上げるよう、指示を出す。
モナカは「かしこまりました」とすぐに暖炉を調整してくれる。
その間に私は、あの衣装へと着替えることになるのだ。
ドレスと違い、布の面積が少なく、ただ宝飾品は多い。
もはや水着みたいなものなので、一人で着替えることもできるのだ。
ということで既に着ていた寝間着と厚手のガウンを脱ぎ、ハッサーク国の伝統衣装へ着替えた。
心得ているモナカは、白ワインと葡萄、リンゴ、ナッツの盛り合わせを部屋に届けてくれる。
全ての用意が整ったところで、ジェラルドがやって来た。
一目私を見た瞬間に。
ジェラルドの碧い瞳に、欲情の炎が灯った。
それを見た私は、ゾクリと体の芯が震える。
「まずはキャサリン、あの素晴らしいダンスを見せて欲しい」
ジェラルドは私の腰を抱き寄せると、スリットからのぞく太腿を、するりと撫でる。
ただそれだけで下腹部が疼いてしまい、既にこれからを期待してしまう。
ソファに座ったジェラルドは、その長い脚を組み、白ワインを片手に私を見る。
その視線の熱さもあり、今はもう12月だというのに、暑くさえ感じてしまう。
完全に今はジェラルドが、優位に立っているが。
これから踊るのは、一夫多妻制の国で、夫の寵愛を競うために誕生したダンスなのだ。
腰の動きは煽情的。
手や指の動きは官能的。
胸の揺れさえ振りつけになるが、こちらはもう扇動的だ。
殿方の目を釘付けにするダンスなのだから……。
このダンスの際、ダンサーが使う楽器を用意していた。
ジルという、指につけるコインサイズのシンバルのような楽器だ。
さらに鈴のついたスカーフベルトも調達していた。
楽団がいなくても、ジルと鈴により、リズムがとれる。
私は早速ダンスを始めた。
全身を使い、誘うように。
表情も蠱惑的に。
流し目を送り、煽るようにダンスを続けると……。
ジェラルドが白ワインのグラスをテーブルに置き、ソファから立ち上がる。
「降参だ」と掠れた声で言うと、ジェラルドは私をあっという間に抱き上げ、ベッドへ運んでしまう。
「私も白ワインを飲みたかったわ」
「そんなこと言って、焦らさないでくれ」
普段と違い、余裕がないジェラルドを見ると、もっといじめたくなる。
と、思ったが。
ジェラルドは私をうつ伏せにすると、背中へキスを始めた。
普段、自分で背中に触れることが少ないので、ベルベットのようなジェラルドの唇でキスをされると……。
とても感じてしまう!
その上で脇腹を指でなぞられたら……。
私が焦らしているはずだったのに!
今は形勢逆転。
散々甘い声を漏らすことになり……。
ホリデーシーズンを控えた冬の夜は、熱く溶けるように過ぎて行く――。
◇
「お父様、お母様、ホリデーシーズンに入りました。今日はミユとホリデーマーケットに行こうと思います」
白シャツに青のセットアップ姿のブルースが、朝食の席で爽やかに告げる。
「ああ、行ってくるといい」
明るいグレーのスーツ姿のジェラルドは、ハムステーキにナイフを入れながら、即答する。
「……夕方から出掛け、そのままミユと外で食事をしてもいいでしょうか」
ブルースが少し頬を赤くしてジェラルドに尋ねた。
前世と違い、婚約しているとはいえ、まだ学生。
放課後デートも、夕食前には屋敷へ帰るのが当たり前。
夕食を共にするデートは、学生にはまだ早い……というのがこの世界での常識だった。
その一方で、フェスティバルやお祭りでは、食べ歩きという形で夕食を伴うデートも許容されている。ホリデーマーケットもそられの一環と考えれば、許してもいいのではないかしら。
そう思い、ローズ色のドレスを着た私は、ジェラルドを見る。
「再三、宿泊を伴う学園行事で、男女で一線を超えることがないようにと学んでいる。そしてブルースもそれを理解しているのだろう。きちんと節度ある行動をとるのなら、夕食を外で摂ることは許可しよう。ただし、ミユのご両親にも許可を取ること。帰りは屋敷までミユを送ること。時計塔の最後の鐘が鳴るまでには戻ること。守れるか?」
時計塔は特別な日を除き、毎日21時が最後に鳴らされる鐘だ。それまでには帰宅しろということだが、まだ学生。十分だろう。ブルースも「はい、お父様! その約束を守ります」と答えている。
こうしてブルースはミユと、夜のホリデーマーケットで、デートをすることになった。
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卒業舞踏会へ向け、時計の針が進みます~