120話:事の顛末です!
「あっ」
「キャサリン!」「キャシー!」
その声が聞こえたのは一瞬のことで、全身が海面に打ちつけられたと思った次の瞬間には、海中に体が沈んでいく。日中とはいえ、11月半ばの海。とても冷たい。よってすぐに意識を失うことはない。代わりに本能で呼吸を求め、鼻で思いっきり海水を吸ってしまう。
「!」
海水が一気に鼻の中へと入り込む。それに驚き口を開けることで、ぶくぶくと気泡が浮き上がる。耳の中にも海水が入り込み、心臓が急激に激しく鼓動し――。
そこからはもう完全にパニックとなる。
ドレスを着ているのだが、それはまるで鎧を着ているよう。
身動きがとれず、海底へ引き込まれる気がする。
明るい水面がどんどん遠ざかり、でもそこにドボンと何かが連続で飛び込んできたように思う。
小型船の船底も見えた気がしたがそこで意識がプツリと途切れた。
◇
とても温かい。
温かく、肌触りがよく、そしてとても心地がよかった。
鼻を摺り寄せ、満足気に微笑むと。
ぎゅっと抱きしめられた。
額に押し当てられた唇の感触に、意識が一気に覚醒する。
目を開けようとして、眩しくて、一度閉じてしまう。
そうしながらも自分の手に触れる素肌の感触に確信する。
これはジェラルドだわ!
「キャサリン、目覚めたか?」
「……はい」
掠れた声で返事をすると、ジェラルドの体がゆっくり動く。
そこでもう一度目をゆっくり開けると、上半身裸のジェラルドは、カラフの水をグラスに注ぎ、それを口元へ運ぶ。その様子をぼんやり眺めていると――。
ジェラルドが私の顎を持ち上げた。
水を飲ませてくれるんだわ!
こくこくと喉を潤す水に目が覚める。
改めてそこで自分が海に落ちたことを思い出す。
「ジェラルド、私、海に落ちましたよね!?」
水を飲んだおかげで、喉の掠れは収まっている。
「ああ、あの時は本当に驚いた。強奪犯そっちのけで、リック近衛騎士団長と同時に海へ飛び込むことになった。モナカまで飛び込もうとしていたが、それはピアース侯爵家の騎士が止めてくれた」
「え、モナカまで!?」
「モナカの放った矢を受け、あの強奪犯はキャサリンの方に倒れ込んだからな。責任を感じたようだ」
モナカ、あなたは何も悪くないのに!
確かにモナカの矢を受け、強奪犯は倒れこんできた。でも後ろずさった時、甲板で倒れている強奪犯に躓いて、私は海に落ちたのだ。モナカのせいではない!
「大丈夫だ。モナカのせいではないと強く言っておいた」
「そうでしたか……それにしてもごめんなさい。ジェラルドと……リックまで……」
「結局、わたしがキャサリンを助け出した。リック近衛騎士団長は飛び込み損だった」
「もう、ジェラルドったら!」
そこで上半身を起こしていたジェラルドは、ぽすっとベッドに沈み、私を抱き寄せる。
ジェラルドは上半身裸だったが、私もまた裸だった。
素肌と素肌が触れ合うと、急激に気持ちが昂る。
「急いで小型船にキャサリンを引き揚げてもらい、その後は人工呼吸をして……。びしょ濡れだったからな。すぐに倉庫の事務室に運び、服を脱がせ、至る現在だ。体は冷えていないか」
「ジェラルドのおかげでぽかぽかです。でもジェラルドも海に入ったなら、体、冷えていたのでは?」
するとジェラルドはフッと楽しそうに笑う。
「こう見えて鍛えているからな」
それは知っている。触れている胸板もお腹もしっかり引き締まり、筋肉がついていることを。つまりこの筋肉のおかげで、そこまで冷えずに済んだのね。
「ありがとうございます、ジェラルド」
「無事で良かった」
しばし甘いキスを交わした後、私は尋ねる。
「強奪犯は?」
「全員確保した。今頃、海上保安員の屯所に連行され、みっちり取り調べだ」
「海に飛び込んだ強奪犯も全員、捕まったのですね」
「ああ、そうなる。それとわたしが指定した場所に、ラム酒入りの木箱は沈んでいた」
ジェラルドの予想通りで、強奪したラム酒入りの木箱は、水深が120メートルという、訓練された人間が素潜り出来る場所に沈められていた。春になり、温かくなったら、木箱を回収する手筈だったという。ラム酒は珍しい。すぐに売り捌けば盗品と足がつく。半年経ち、貨物船の行き来が活発になれば、盗品のラム酒を流通させても、目立ちにくいというわけだ。
「ではこれでラム酒強奪犯は一網打尽できたわけですね」
「ああ、そう言うことだ。リック近衛騎士団長も大満足。ラム酒の交易に、我が公爵家の商会も、参入できることになった。奇しくもリック近衛騎士団長とは、ビジネスパートナーだ」
「海にリックも飛び込んだのですよね。……彼も大丈夫ですよね?」
「どうだろう? 奴は独り身だ。こうやって温め合うパートナーもいなく、独り暖炉の前で震えているかもしれん」
「ジェラルド!」
でも確かにジェラルドの言う通りだ。
リックもモテるのだから、独身貴族は卒業すればいいのに。
「リック近衛騎士団長は、ビジネスパートナーだ。だがベッドで奴の名を三回以上、口にすることは許さない」
「!? ジェラルド、何を」
そこでジェラルドの唇が重なり、言葉を発することができなくなる。
さらにその手がするりと私の脇腹を撫で――。
「ジ、ジェラルド、ここ、倉庫の事務室の」
「仮眠室だ。だから声は抑え目にするんだぞ、キャサリン」
「ジェラルド!」
止めようと思った。
しかしジェラルドは、どこに触れれば私の力が瞬時に抜けてしまうか、知り尽くしているから……。
抵抗などできるわけがない!
ただ、ベッドがジェラルドの動きに耐え切れず、とんでもなくギシギシ言うから……。
もう絶対にバレている……!と私は必死に声を抑えながら思うしかなかった。
◇
その頃、優秀なモナカは――。
さっきの失敗を挽回とばかりに、公爵夫妻が休む仮眠室の周囲の人払いを、完璧に行っていた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
卒業舞踏会へ向け、また時計の針は確実に進みました~
物語は続きますので、執筆時間をいただけますと幸いです。
読者様の優しい応援に支えられ、「今日の一冊」に選出され
なろうラジオではあらすじを下野紘さんに読み上げていただきました!
累計PVも160万を突破。心から読者様に感謝です☆彡
引き続きよろしくお願いいたします!
【新作】人気シリーズ最新作登場
『 断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!詰んだ後から始まる大逆転』
https://ncode.syosetu.com/n7805jo/
断罪終了後シリーズ第六弾が遂に始動!
まるでジェットコースターに乗ってしまったかのように、怒涛の展開で物語が進んで行きます!
しかも、まさかの推しを●●し、強引にある場所へ連れ込んで……。
果たして詰んだ悪役令嬢は、ここからどうやって逆転していくのか!?
ぜひ最後までお楽しみください!
ページ下部に目次ページへ遷移するバナーを設置済みです☆彡
よかったら本作もよろしくお願いいたします!






















































