119話:最強コンビ!です!
「どこにも怪しいところはない」と言い、「ラム酒の瓶だけ隠しても、大量の木箱が残るわけだ。でも船内を確認したところ、空の木箱はない」と、もはや完敗をジェラルドは宣言したと思った。
だがリックに海図を求め、それを広げ、眺めたジェラルドは――。
「ここだ。ここにラム酒入りの木箱が沈んでいる」
そう指摘した瞬間。
離れた場所で、私達の様子を見守っていた船長と船員たちの顔色が変わる。
「ここは水深が120メートル。訓練された人間が素潜りできる深度として妥当の深さ。さらにこの辺りの船の航行は禁止されていない。つまり盗んだラム酒の入った木箱は海に一度遺棄する。そして後日別の船が回収。それが強奪犯の手口だ」
「なるほど! だからこの船に、強奪されたはずのラム酒が入った木箱が見つからないのですね!」
リックが興奮気味に叫ぶと、ジェラルドは頷く。
「今すぐ、確認してみるといい。ここの海は透明度が高いから、訓練された人間なら、少し潜るだけで確認できるだろう。今は初冬だから120メートル潜らせるのは酷だ。それは止めた方がいい。短時間、ある程度潜らせ、確認するといいだろう」
「分かりました、そうします!」
リックはすぐさま商会のスタッフに指示を出す。
スタッフはすぐに海上保安員がいる建物へ向かい、同時に別のスタッフがピアース侯爵家の騎士を呼びに行く。
この様子を見ていた船長と船員は「ちっ」と叫んだその次の瞬間。
腰に帯びていた剣を次々と抜く。
貨物船は海賊に襲われる危険があり、騎士ではなくても帯剣が認められていたのだ。
「おっと、君たち。その剣を抜いたこと、後悔しますよ?」
リックの瞳が煌々と輝く。
普段の訓練で剣の手合わせをしても、リックは加減が必要だった。
でもこの強奪犯に対し、遠慮はいらない。
勿論、裁判があるから、害することはないはず。
ただ、思いっきり暴れてもいいわけだ。
「リック近衛騎士団長。さすがに敵の人数が多い。わたしも助太刀しても?」
ジェラルドの瞳も猛禽類のように鋭くなっている。
これを見た船員の何人かは、なんと剣を捨て、海に飛び込んでいる!
でもその気持ちは分かる。
以前、デイヴィス伯爵の商会に乗り込んだジェラルドは、いかつい男たちを「おい!」の一言だけで凍りつかせている。その「おい」と同じくぐらい、この一瞥には殺気が込められていた。
「フォード公爵のお手を借りることができるなんて、光栄です。……そうですね。せっかくですから賭けをしましょう」
リック! こんな場面でもあなたは何を!
「より多くの敵を倒した方が、勝利の女神であるキャシーから祝福のキスを頬に受けられる。どうでしょうか?」
挑まれたジェラルドの口元に、フッと笑みが浮かぶ。
その瞬間、ジェラルドの全身から一気にアンタッチャブルなオーラが放たれた。
「ひぃぃっ」と叫んだ強奪犯の何人かが腰を抜かし、さらに数名が海に飛び込んだ。
「く、こいつら、何者か知らないが、ふざけやがって!」
船長が悪態をつき、さらに「野郎ども、敵は男二人と女一人。怯む必要はない! 女から先にやっち」と叫んだ。
多分、この船長は「やっちまえ」と言いたかったのだと思う。でも「やっち」以降が続かないのは――。
「ここにいるレディに指一本でも触れたら、腕と足を切り落とします」とリック。
「キャサリンに手を出したら、大事なものを失うと思え」とジェラルド。
つまり船長は、いきなりリックとジェラルドから、首元に剣先を突き付けられていたのだ。
まさに最強コンビだわ!
剣の手合わせをするわけではない。
「では始め!」の挨拶なんて待つ必要はなかった。
さらに今、敵は多勢、こちらはリックとジェラルドのみ、先手必勝というわけだ。
ということで秒で船長が甲板に沈むと、さらに船員が海に飛び込んでいく。
そこからはもう、大乱闘!
私は……馬に乗ることはできるが、剣は嗜んでいない。
ここは二人を応援するのみ。
「くそ、この女を――」
無謀な勇気で私に向かって来た船員は、ジェラルドにあそこを蹴り上げられ、悶絶したところで手首を……。自業自得です。
「貴様ーっ!」
仲間の船員を助けようとジェラルドに向かった男は……。
こちらは腹蹴りを喰らい、吹き飛ぶと同時に気絶した。
もはや剣を使うまでもなく、ジェラルドは次々と強奪犯の船員をノックアウトしていく。
「キャシー、伏せろ」
リックの声に素早くしゃがむと、リックの放った短剣が、私に襲い掛かろうとした強奪犯の右胸に突き刺さる。「くはっ」と男は両膝を折り、倒れこむ。
そうこうしていると「リック様ー!」の声が聞こえてくる。
海上保安員とピアース侯爵家の騎士、さらには待機していたモナカたち我が家の使用人も、こちらへ駆けつけてきた。よく見るとモナカは手に弓矢を持っている!
援軍が来たと、私は気が緩んでいた。
「ふざけやがって!」
そんな私に剣を振りかざす強奪犯。
だがその胸に、矢が突き刺さる。
モナカ!
そう思った瞬間。
男が私の方に向かって倒れてくる。
それを避けようとした私は、既に伸びていた強奪犯に足が躓き……。
「あっ」
「キャサリン!」「キャシー!」
最愛と幼なじみの叫び声を聞きながら、私は――海へと落下していった。
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