105話:その恋の行方は?です!
オーギーとキャシー。
二人は許されない恋に落ちていた。
これはどういうことなのか。
「二人は身分違いの恋に落ちていた。オーギーは……可能性としては王族だろうな。この古城は昔から王族が所有しているから。そしてキャシーはこの古城で働いていた使用人だ」
身分違いの恋に落ちたオーギーとキャシー。直接会い、気持ちを伝えるのが難しかったのだろう。お互いの想いを手紙に書き、交換することで伝え合っていたようだ。しかも直接手紙の交換をすることも、許されていなかった。あの本に手紙を挟み、やりとりをしていた。
「キャシーは行儀見習いの貴族令嬢というわけではなかった。裕福な平民出身。貴族でもない平民と王族の結婚は、とても難しいことだ。オーギーが王族から去り、爵位を得ることもなく、平民になる。そうすればキャシーと結ばれることも不可能ではないが……。現実的ではない。よってキャシーはオーギーに何度も別れようと伝えているが、彼は違う。キャシーを本気で愛し、身分を捨てでも、結ばれたいと願ったようだ」
手紙にはオーギーの熱い想いが綴られていた。そしてその愛を証明する方法まで、明かされていたのだ。
「オーギーはキャシーのために、ある物を用意していた。それは二人が早朝に逢瀬を行う場所に、用意したと書かれている。つまり湖畔の木に隠してあると。その品を見れば、自分の気持ちが本気であると分かるはずだ――そう書かれていた」
「湖畔の木に隠してある……まさかそれは、昨日発見した婚約指輪、ですか!?」
「そうだろうな。指輪の内側に掘られていたイニシャルも、AとCだ。オーギー (Augie)とキャシー (Cathy)の頭文字とも一致する」
永遠の愛を込めた、イニシャル入りの婚約指輪。
そんなものを贈られたら、彼は自分に本気と思うだろう。
うん……? 待って。
「だがその婚約指輪を、キャシーは受け取らなかったのか。それとも指定された場所に行かなかったのか。はたまた一度受け取り、でも自分が受け取るわけにはいかないと、元に戻したのか。それともその場に行けなかったのか。可能性はいくつも考えられる。だが明らかな事実は一つ。あの樹洞に指輪はあったということだ」
「それは……つまりオーギーとキャシーの恋はうまく行かずに終わった、ということでしょうか?」
ジェラルドはぎゅっと私を抱きしめ、そして大きく息を吐く。
「うまく行っていたなら、この世ならざる者として、キャサリンの目の前に現れることはない気がする。残念だが、オーギーとキャシーの二人は、結ばれなかったのだろう。それはこの後、それこそ図書室で本を見て確認しよう」
「図書室で確認ができるのですか?」
「一つの可能性に過ぎないが、ここは元王家が所有していた古城だ。そして国王陛下は使用人込みで、この古城をキャサリンに譲っている。使用人だけではなく、家具なども全て、だ。よほど重要なものは、キャサリンが来る前に引き上げただろう。だがもしかすると図書室に、歴代城主の記録が残っているかもしれない。それぐらいは新しい城主として知っておく必要があるからな。そこからオーギーが誰であるかのヒントを、手に入れることができるかもしれない」
この世界で家系図は、王侯貴族のルーツを示す、とても重要なものとされていた。ゆえに家系図は家宝とされ、大切に扱われている。不用意に見せることはない。つまり王家の家系図も、私達は見たことがなかった。それでも歴史の勉強などで必要になるため、王族の家系図はほぼ開示されている。しかしそれも直系のみだ。第二王子や第二王女については、他国に嫁ぐなどでもないと、秘匿されている。
とはいえ、城の城主の記録は、家系図とは別だ。似てはいるが、別扱いされているので、確かにその記録、図書室に残されている可能性が高かった。家系図の閲覧は難しい。だが歴代城主の記録なら、新しい城主である私達は閲覧できる。
「指輪に使われていた飾り文字から、おおよそ百年前の城主が誰であるか分かれば、あとは国王陛下に探りを入れるだけだ。百年前の城主、もしくはそのご子息があの指輪と手紙の持ち主であると伝えれば、『ああ、それなら』とうっかり教えてくれるかもしれない。そうなった時、その城主なりご子息の伴侶の名は何だったのか。記録として残る伴侶の名が全てだ。キャサリン――であれば、身分を超えた恋は結ばれた。違っていれば、その恋は儚く終わったことになる」
「オーギーとキャシー、その恋の結末はまだ分かりませんが、儚い結果が正解なら……。何をしたいのかしら? 手紙と指輪を見つけさせて……。私は『見つけた』という声を聞いています。よって見つけて欲しかったのでしょうが、見つけたその後は……? もしや供養を望んでいるのでしょうか。キャシーの墓に、この指輪と手紙を入れて欲しいと」
私が首を傾げると……。
ジェラルドは腕枕を私にしたまま仰向けになり、考える。
「そうだな。見つけて欲しかった。そして見つけることはできた。目的は達成されたのか、まだ何かあるのか……。それはまだ分からないな。だがキャサリンの言う供養を望んでいたというのは、そうなのかもしれない。本来あの指輪は、キャシーの手にあるべきものだからな」
「もしそうであるならば、どうしてもお墓の場所は知りたいですね。国王陛下が供養してくれるならいいですが、きっとそうはならないですよね、さすがに」
「そうだな」とジェラルドは答え、「墓の場所を知るためにも、オーギーとキャシーの正式な名前は、知る必要がある」と締め括った。