104話:なぜ私が!?です!
以前、ジェラルドと二人で、カギのかかった貯蔵庫に忍んだことがあった。その時、カギを開けたのはジェラルドだ。幼少期の経験で、カギ開けがジェラルドは得意だった。そして今回もその技で、書庫のカギを開けることに成功。書庫に入ると、便箋を握りしめて気絶した私を発見することになる。
「キャサリン、書庫でカギをかけ、何をしていたんだ?」
ジェラルドはベッドに横たわり、私を抱き寄せて尋ねる。
「ジェラルド。私は自分の意志で書庫に行ったのではないわ」
「? 誰かに呼び出されたのか? ……まさか書庫に間男でも」
いつもの逆。
私がジェラルドの唇を、キスで塞いでしまった。
「キャサリン……」
ジェラルドのスイッチが入りかけたので、慌ててその逞しい胸板を両手で押さえ、ストップをかける。
「ジェラルド、聞いて。私はあなたに導かれ、あの書庫に行ったの」
「!? わたしが? わたしはキャサリンを捜索したが、導くようなことはしていないぞ」
そこで私は自分が見たままを説明することになる。
ホールからジェラルドが出て行ったように見えた。
テールコートとマントから、それはジェラルドに違いなかった。
古城でドキドキした時間を過ごすため、図書室に導かれたのだと思い、その後を追うことにしたこと。そして――。
「書庫とは知らずに入り、入ってから書庫だと分かり……。扉はパタンと自然に閉じましたが、鍵はかけていません」
「!? そうなのか!?」
書庫の中にいるはずのジェラルドの姿が、急に見えなくなったこと。
さらには棚から突然本が落ち、恐怖を覚え、書庫から出ようとした際。
落ちていた本を蹴っ飛ばしてしまい、その結果、本から便箋が出てきたことを話した。
「私が見たジェラルドは……幻覚だったのでしょう。ではその幻覚、私がジェラルドに甘えたい気分になり、見えてしまったのか? その可能性もあると思うわ。でもそれなら最後まで、幻覚を見ていると思うの。あんな中途半端ではなく。そうなると意図的にジェラルドの幻覚を私に見せ、図書室へ向かわせた。そして本に挟まれていた便箋を拾わせようとしたのではと、思ったの。何者かが」
「なるほど。そこで便箋を拾い、なぜ悲鳴を上げることに?」
「湖のボートの時と同じよ。『見つけた』という声が聞こえ、悲鳴をあげたの。二度目は、ジェラルドが救出に来てくれたとは思わなかったから……。ガタガタ鳴る扉に、ゴーストが現れたのかと思い……。悲鳴を上げることになったの」
これを聞いたジェラルドは、私をぎゅっと抱きしめ「すまなかった」とささやく。
「何かその身に危険が迫っているなら、カギを取りに行っている場合ではないと思った。力任せで開けようとしたが、さすが王族が利用していた古城だけある。簡単には開かない。驚かせてしまったな。結局、例のカギ開けを行い、書庫に飛び込むことになった」
「心配をおかけして、ごめんなさい」
「そんなことはない。むしろ今回、キャサリンを書庫へ誘ったのは……この世ならざる者なのだろう。空耳や幻覚で片づけてきたが、そうはいかないのだろうな」
今の言葉にドキリとする。
つまりは私が見たジェラルドの幻覚……これはゴースト(幽霊)で確定では!?
ゴースト……なのだろう。
でもどうして私がゴーストを見ることに!?
こんなにホラーが苦手なのだ。
そんな私にゴーストなんて、見せないで欲しい!
「キャサリンがこの世ならざる者の声を聞き、見ることになったのには、理由がある」
「! そうなのですか!?」
「キャサリンが握りしめていた便箋。何が書かれていたと思う?」
私は考え込み、ジェラルドを見上げる。
「全く分かりません」
「あれはラブレターだった」
「!」
私が握りしめていた便箋に書かれていたこと。
それをジェラルドから聞き、私は……自分があの場に導かれた理由を、何となく理解することになる。
「相当古い手紙だ。そしてあの手紙は、オーギーという男性からキャシーという女性に向けて書かれたもの。そしてこの名前、おそらくニックネームだと思う。オーギーは多分、オーガスティン、オーガスト、オーガスタスという名だろうな。そしてキャシーと言えば、もうこれは分かりやすいキャサリンだ」
「え……、あ、え? 名前が同じだけで、私がゴーストの声を聞き、見ることになったのですか……?」
するとジェラルドは「ちゅっ」と私の額にキスをして、ぎゅっと抱きしめる。
「キャサリン。名というのはとても強い意味を持つ。キャサリンという名で呼んでくれる者が沢山いれば、それが呼び水になる。『キャサリン、キャサリン、こっちへおいで』とこの世ならざる者は導かれ、かつての自分の名と同じ女性、キャサリンの前に現れたわけだ」
「そう、なのですね」
「それにキャサリンはホラーが苦手なのだろう? 苦手ということは、その存在を信じている。だからこそ怖いと思い、苦手になるのでは? そんなキャサリンに対し、わたしは一切信じていないからな。この世ならざる者の存在を。よって何も感じない。結論としてキャサリンは、この世ならざる者の存在を信じているため、わたしに比べたら彼らが見やすくなるし、その声も聞こえるのだろう」
これには「なるほど」と納得するしかない。
だが今回の件を通じ、ジェラルドもこの世ならざる者の存在を信じたのでは?
そう思い、尋ねると「この目で見たわけではないからな。キャサリンが見たり、聞いたりしたことは、信じる。だが自分自身が見るまでは、完全に信じることはできない」と笑う。
そしてジェラルドは、「オーギーとキャシーの二人は、許されない恋に落ちていたようだ」と明かしたのだ。