102話:古城で舞踏会です!
思いがけず、宝物庫にありそうな指輪を発見してしまった。
人の姿が見えたように思えたが、それは気のせいだろうと思うことにした。
指輪を発見後、休憩を終えると、そのまますぐ古城に戻ることになった。
ジェラルドは指輪発見について国王陛下に手紙を書き、その指輪は書斎の金庫で保管することになる。その間、私はイブニングドレスへ着替えていた。ロイヤルブルーのシルクの光沢が美しいドレスに。
そう。この日の夜は、舞踏会を行うからだ。
といってもこれは完全に身内で行う舞踏会で、仕事を終えた使用人も参加可能にした。
新しい城主と使用人の交流も兼ねた舞踏会だ。
主に若い使用人が、年配使用人の配慮で舞踏会へ参加することになり、皆、大喜びだった。
というのも若い使用人の中には、男爵家の令息令嬢、裕福な平民の息子や娘もいたのだ。彼らは行儀見習いを兼ね、この古城で使用人として働いていた。当然だがダンスもでき、マナーも身に着けている。問題なく舞踏会の場に立てた。
ちなみにモナカにもドレスをプレゼントし、侍女としてではなく、普通に舞踏会へ参加させている。本人は恐縮するが、たまには息抜きをしてもらいたかったのだ。
ということでこの古城の宿泊客は六名だが、使用人たちが参加することで、それなりの人数になっている。結果として、実に華やかなものになっていた。
「公爵夫人、ありがとうございます!」
バトラーとしてこの城で働く男爵家の令息が、私に深々と頭を下げた。
ダンスを丁度、彼と終えたところだった。
ダークグレーのテールコート姿のジェラルドも、この城でメイドとして行儀見習いをする男爵家の令嬢とのダンスを終え、何やら話をしていた。
黒のテールコート姿のブルースやパステルピンクのドレスを着たミユも、年齢の近い使用人と打ち解け、ダンスを楽しんでいる。
「公爵夫人、こちらヴィンテージワインとして人気の赤ワインです。いかがですか?」
「そうなの。さすが王家が利用していた古城だけあるわね。いただくわ」
給仕の男性から受け取ったグラスを揺らし、滓の具合を確認。グラスを口元に近づけると、熟した果実の香りに、深みのあるスパイシーさを感じる。一口飲むと、熟成されたブドウの甘味と酸味が絶妙なバランスで口の中に広がっていく。豊かな味わいが抜けると、後味に残るのは、程よいタンニンの渋み。
前世では安物のパック入りの赤ワインしか飲んでいないので、正直「赤ワイン? 渋くてあまり美味しくない」だった。だがジェラルドがチョイスし、一緒に飲む赤ワインはどれも美味しいのだ。
渋みは同じようにある。でも安物赤ワインはそれが頭痛につながる渋み。でもジェラルドが選んだ一級品の赤ワインは、その渋みさえ心地いいのだ。かつ添加物なんて入っていないから、少し多めに飲んだところで悪酔いもしない。
覚醒してからもう十年以上、ジェラルドとワインを楽しむことで、私の舌も肥えている。そして今飲んだヴィンテージワインは、間違いないく当たり!
ということで声をかけてくれる使用人とおしゃべりをしたり、ロイター子爵とダンスをしたりしながら、私は着々とその美味しい赤ワインをお代わりしながら楽しんだ。
「あ、ジェラルド……」
ほろ酔いで気分がよくなった私は、ジェラルドに甘えたくなっていた。
彼の姿を探していると、ホールから出て行くのが見えたのだ。
レストルームかしら?
追いかけて、出てきたところを驚かせてしまおうかしら?
そんな悪戯心に火がつき、私はジェラルドの後を追う。
古城の廊下は、煌々と明かりが灯っているわけではない。
前世風に言えば、間接照明のような明るさだ。
そして今日のジェラルドは、テールコートに濃紺のマントを羽織っていた。
ヒラリと揺れるマントが、廊下の突き当りの角に消えていくのが見える。
私はドレスをつまみ、慌ててその後を追う。
ジェラルドはいつも私をエスコートする時、歩く速度を調整してくれる。
でも一人で歩く時は、割と速足だった。
これでは追い付かないかしら?
そう思いながら、その後をかなり追ってから気が付く。
どこへ向かっているのかしら?と。
レストルームはとっくに通り過ぎている。
「!」
ジェラルドが扉を細く開け、中へと入って行く。
あそこは確か――。
かなり速足で進むことで、ようやくジェラルドが入って行った扉の前に辿り着いた。
扉には黄金製のプレートが飾られており「LIBRARY」の文字。
図書室だわ。
なぜ舞踏会を抜け、図書室に?
なんだか密会でもするように思えてしまうが……。
もしかして。
私が追ってくると分かり、ここを選んだのでは!?
もう、ジェラルドったら!
図書室は学びの部屋よ。
そんなことしたらいけないのに!
急に心臓がドキドキして、全身が熱くなってきた。
扉の前に着くと、胸を高鳴らせながら、中へ入ることになる。
「ジェラルド……」
最愛の名を呼びながら、図書室の中へ入った。
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『森でおじいさんを拾った魔女です~ここからどうやって溺愛展開に!? 』の第三章:すれ違い編がスタートしました!
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