98話:秋の古城へやってきました!
天空の城。
前世では一時、大ブームになった。
朝靄が一面に広がり、そこに浮かび上がるお城が、まるで天空に浮かぶ城のように見えると。
今回、国王陛下からプレゼントされた土地に建つお城、その名はアストミスティア城。
コバルトブルーの湖の中央に、ぽっかりと浮かぶ島。
そこにそびえ立つ古城は、メルヘンな海外アニメ映画に登場しそうな姿をしている。
精巧な彫刻で飾られた石造りのファサード(正面の外観)。
湖の青さと同じスレート(石板)の屋根。
アクセントのようにそびえたつ大小の尖塔。
そして早朝に湖の桟橋に到着した時、まさに湖面を覆うように朝靄が広がっている。
その結果、アストミスティア城は“天空の城”のように見えた。
「ブルース、なんて幻想的なのかしら。まるで天界に存在するお城みたい」
イチゴミルクのような色合いのドレスに、クリーム色のローブを羽織ったミユが、感動で目を輝かせていた。そのそばに立つ、柔らかなスカイブルーのセットアップ姿のブルースも「本当だね。夢のような景色だ」と感動している。
ロイター子爵夫妻も「こんな景色を見られるなんて。これもフォード公爵夫人のおかげです」と喜んでくれていた。そしてジェラルドも。
「こんなに美しい景色までプレゼントされるとは。どうやらキャサリンは、国王陛下からも寵愛を受けているな」
そんな冗談を言って、私の頬にキスをする。
私はもう、ただこの景色を目の当たりにして感動だった。
朝靄が消えるまで、桟橋に併設された建物で朝食を摂る。
王族がたまに利用するだけの古城。
そうであっても湖のすぐそばにあるその建物には、ちゃんとレストランがあり、料理人もいるのだ。
出来立ての卵料理や焼き立てのパン、熱々のソーセージなどを食べていると、いつの間にか青く輝く湖面がその姿を現わす。
「船の準備が整いました。お城へ向かいましょう」
係員の案内でボートに乗り、湖の真ん中に浮かぶ島の古城へ向かった。
◇
島に上陸すると、馬車が待機しており、すぐに城へ向かい、出発だ。
既に森の木々は紅葉が始まっており、赤・黄・橙と秋の色合いに染まっている。
「キャサリン、城の城門が見えて来たぞ」
堅牢な石造りの城門を抜けると、左右に広がるのは整備された庭園。
こんもりと丸く刈られた植木、美しい花が咲き誇る花壇が見えている。
いくつもの彫像も並び、噴水も見えていた。
エントランスに到着すると、そこにはズラリ使用人が並んでお出迎え。
「ようこそいらっしゃいました、フォード公爵ご夫妻、ご令息。ロイター子爵夫妻、ご令嬢。私、この城の留守を預かるヘッドバトラーのマーコットでございます」
テールコート姿のマーコットに続き、メイド長のカラが挨拶して、城内へ案内されることになる。二人とも初老に近く、まさにベテランという感じ。動作にも無駄がなく、他の使用人も二人の指示にきっちり従っている。
こうしてまず、古城の中へ入った。
エントランスホールは、そのまま舞踏会ができそうなぐらいの広さだ。
「それでは、まずそれぞれのお部屋へご案内いたします」
そこからは、ジェラルドと私とブルースは、ヘッドバトラーのマーコットに、メイド長はロイター子爵夫妻とミユを案内し、歩き出す。我が家から連れてきた数名の使用人と分担し、この城の使用人がトランクを手に、後へ続く。
モナカとジェラルドとブルースの従者は、客人扱いで個室が用意されている。
こうして案内された部屋は、扉を開けた瞬間に眩しい!
正面は一面が窓になっており、そこからは美しい庭園とその先に湖が見えていた。湖面が陽射しを受け、キラキラと輝いている。
窓のそばにはソファがあるので、これは美しい景色を存分に堪能できそうだ。
さらに左右に寝室へ続く扉があり、右側はジェラルドと私、左側はブルースということで案内された。
荷解きは使用人に頼み、モナカと従者を連れ、城内の案内をしてもらうため、エントランスに再集合。
そこからはまさに専属のツアーガイドがついての城内探索ツアーだ。
リビングルーム、ダイニングルーム、応接室など、日常的に使う部屋から、図書室、娯楽室、大小のホール、そして厩舎、乗馬場、菜園、温室……。
午前中があっという間に過ぎ、ランチとなる。
湖が一望できる、最上階の部屋の窓際での昼食は、もうセレブ感が半端ない。
今更前世でのボンビーな日々を思い出し、しみじみしてしまう。
スーパーの特売品と、見切り品ばかり買っていた日々が、嘘のようだ。
「キャサリン、どうした? そのキャビアが口に合わなかったか?」
「そんなことないわ、ジェラルド! 美味し過ぎて言葉を失っただけよ」
「そう言えばフォード公爵の商会では、オイルサーディンの缶詰の製造を始めるとか」
「ええ、そうなのですよ、ロイター子爵」
和やかに会話し、昼食は無事終了。午後も引き続きお城見学ツアーが続く。
主塔、礼拝堂、そして広大な庭園!
途中、庭園のガゼボ(西洋東屋)で休憩をとる。
「後は地下にワイナリーや貯蔵庫、倉庫などがございますが、そちらは……」
ヘッドバトラーのマーコットに問われたジェラルドは、即答する。
「さすがにそこはいいだろう。まだ庭園も半分残っているし、地下の案内は不要だ」
古城滞在一日目は、スケール満点のお城の見学で終了した。






















































