あかさんの成長速度をなめるなよ
「あかあさま、おとーさま」
どーも、クロム、クラリッサが息子ファフェーニアです。フェニアとよく呼ばれています。
どうやら俺はいわゆる異世界転生というものをしてしまったらしい。気が付いたのは生後半年ほどだった。
どうしてこんなにも気が付くのが遅かったって?
そりゃあ、転生する前の世界じゃあ異世界転生ものは流行ってたし、俺自身も一読者ではあったよ?
でも30歳にもなってそんなそろそろ結婚相手を探さないとって考える時期の男が異世界転生なんて信じられると思う?
それに生まれ変わったばかりなのか理性よりも本能が強くて体が勝手に動くときのほうが多かったからね。夢だと、思うじゃん?普通。
そうしてずいぶーんと長い夢だななんて3,4か月は思ったよ、あの時頭ふわふわしてたし、倒れて寝たきりで夢を見続けてるのかと考えたんだよ?でも、ベットの角に足ぶつけると随分と痛みがリアルなんだよ。それにオムツの感覚と来たらもう酷い、気持ち悪いったらあらしない。
それでもうこれは現実なんだと受け止めることしたんだ。
そうだよ。異世界転生しちまったんだよ。あの時の感覚は言い表せないほどのものだった。何というか絶望?歓喜?色々混ざった感情で「わけがわからないよ」状態だったよ。
とにかく俺はこの世界に生まれたってわけ。
そうしていま俺はこの世界の核心に迫ろうとしてるわけで。
「まほーをおしえてください!」
シーンと静まり返った部屋、そこには父であるクロムと母であるクラリッサがいた。
「フェニア。魔法はあぶないからもっと大きくなってからにしなさい」
「そうだぞフェニア。魔法は痛い痛いなんだぞ~!だから使い方が理解できるぐらいの歳にならないとだめだぞ~」
「やーだ!やーだ!まほー使いたい!」
そう、いま駄々をこねる元30歳、冷静に考えてはいけない。
しかし今は無理矢理にでも魔法について学びたいと考える。こうして異世界転生して、有り得ないと思っていたことが実現できると知り、そしてこの世界に魔法があると知ったときから使いたいと考えてきた。前世では出来なかったことができるようになる。
それがどれだけ心が踊るか、だからこと必死に頼み込んでいるわけだが。
魔法、この世界においてごくごく自然なこと、この世界にはいわゆる魔力が満ちあふれており、魔力があることによって魔法が使えるのだ。しかしながらただ単に魔力を使おうとしてもどうすることもできないらしい。父が言ってた。
だからこそ学びたいと思った。どうしたら魔法になるのか、どうしたら魔力を使えるようになるのか、しかしながら父と母は魔法はあぶないからといって全然教えてくれないのだ。
「フェニア。お前は物覚えがいいから直ぐに覚えることもできると思う。でもあまりにも好奇心旺盛で、心配しているんだ。
だからこの本で我慢してはくれないか?クラリッサ?これなら大丈夫だと思うんだが」
「ええ、その本ならフェニアの知りたいまほーについて知ることができると思うわ。よかったわねフェニア。お父様からのプレゼントよ」
「ぷぅー………。ありがとーござーます」
両親を説得は難しいか。仕方ない。この本で我慢するか………。
本は本でも絵本だけど。しかしこの絵本分厚いな。広辞苑ぐらいあるぞ?この世界ではこれが普通なのか?まあとことん読んで見ますか。
そうして俺は両親からテリオス・ガイス作「世界冒険の絵本」を貰った。
この本がこの世界での人生を左右するほどの代物だと俺はまだ知るよしもない。
――――――――
世界冒険の絵本
―――第一章~冒険の始まり~―――
とある村のユーマという少年は、冒険に憧れを持っていました。
ユーマの父は世界に名を馳せる有名な冒険者で、そんな父に憧れるユーマは、父の背中を追いかけていつか父と同じぐらい有名な冒険者になろうとしていました。
しかしながら冒険者になるためには、魔法が使えなければいけません。
しかしユーマは魔法の使い方なんて誰にも習っていないので魔法は全く使えませんでした。
父は冒険者だから、家にはいませんでした。
さて、ユーマはどうすれば魔法を使えるのでしょう?
ユーマには先生はいませんが家には沢山の本がありました。
ユーマの父がよく読んでいた本です。ユーマは真似をして本を読むことにしたのです。
それがユーマにとって冒険の第一歩だったのです。
――――――――――――――――
ふむふむ。
どうやらこの絵本はこのユーマが冒険をする物語のようだ。冒険者は魔法が使えないとなれないと。それで本を読むこととどう関係してるんだ?なるほど、第2章を読む限り、魔導書ってわけではなさそうだな。とりあえず物は試しだ。お父様にありったけの本を借りてこよう。
夜遅くまで世界冒険の絵本を読んでいたため次の日にお父様の本を借りることにした。
次の日、メイドのシュリアを連れてお父様の書斎へ向かう。
「しつれーします!」
「どうぞ。どうしたフェニアよ。魔法はだめだぞ~」
「おとーさま。ほんをかしてほしーです」
「ん?ここにある本か?でもフェニアには難しくて読むのは難しいかもだぞ?」
「えほんでかいてあったの、ほんをよむとぼうけんのはじまりだって」
「ああ、そうかそうか、フェニアあの絵本を読んでくれたのか。偉いぞ~よしよし。わかった。父さんの部屋には沢山本があるから好きなのを持って行っていいぞ~」
「シュリア!てつだって!」
「承知いたしましたファフェーニア様」
「だからフェニアってよんで!」
このように会話をするのはライフロール家に務めるメイドの一人、フェニアお気に入りのメイド、シュリア・フォースである。
シュリアは赤ん坊のときから一緒で(生まれ変わってから)世話をしてくれるいい人だ。しかしながらこの屋敷内でシュリアだけ頑なにフェニアと呼んでくれない。こんなにも愛らしい子供なのに。
「なりませんファフェーニア様、私はあなたに仕えるものですので、愛称で呼ぶなど畏れ多いことです。それよりもどちらの本をご所望でしょうか」
シュリアは凛とした眼差しで真面目に答える。
「もう!とりあえずこれとこれ、あとこれもおねがい。おとーさま、これかりていくね」
「ああフェニア、読み終わったら返しに来るんだぞ~」
「はい!」
元気な返事をして部屋を後にする。シュリアは力持ちで頼んだ本を軽々と持っており、自分の部屋まで楽々と持って来て貰った。
「シュリアありがとう!」
「それではご夕食にまたお部屋をお尋ねします。失礼致します。」
そうしてシュリアはほかのメイドの作業に行くのだった
さてさて、まずはどの本から読もうかな?持ってきた本はえーと。
「ヴェルツ国歴史書」「生物図鑑」「アヴァン大陸の始まりと終わり」etc………
ほかにもいろいろ持ってきた。
まずはヴェルツ歴史書から行くか。歴史書には1200年までの出来事が載っていた。発行年月日は1201年某日となっている。
ヴェルツ歴史書をざっと目を通した感じヴェルツ国の成り立ちやら、戦争の数々が書かれたいわゆる日本史ならぬヴェルツ史だな。俺が転生したのがこのヴェルツ王国、アヴァン大陸にある一つの王国で、長い歴史があるらしい。どうやら今はヴェルツ暦1203年のようだ。
そしてこの世界では1年は360日と前の世界とほとんど一緒らしい。そして月の概念でいうと1年が4分割されており一季が90日換算。またこの世界でどうして一月あたり90日なのかというと季節で区切られているからだそうだ。この世界は前の世界に比べて季節がはっきりとしており、90日間同じような気候となる。したがって1年=4季=360日となるのだ。前世の日本と近くて、理解しやすくて助かる。
歴史書を簡潔にまとめるとこうだ。この国を作ったのは初代国王ウェスカル・ヴェルツ。王国はウェルフ山の下にあるウェルフ湖の周りに作られたらしい。元々周りには小国が点在していたが長い月日をかけてヴェルツ王国が治めていった。そうしていま大国と呼ばれるほどの国となった。
そしてここライフロール家のある場所は隣国に接する場所にあり、歴史書によると1190年ほどまで戦争がありライフロール家についても書かれていた。どうやら今は休戦状態らしい。物騒なものだ。歴史書をざっと感想だが戦いの歴史という印象を受けた。
どの世界でも人間は変わらないらしい。まあそれも人間か。とりあえず今日はこんなものか。歴史書に多少の違和感を残してパッと閉じた。
そしてちょうどシュリアが部屋に呼びにきた。
「ファフェーニア様、ご夕食の準備が整いました」
そうして夕食に向かうのだった。
―――数日後―――
「ふぁーあ」
ようやく数冊読み終えた。さすがに一気に読んで疲れた。それにしてもこの世界、というかこの世界の人?国の認識というか倫理観に戸惑いを隠せなかった。
歴史書を読んで違和感を覚えたものの正解は「生物図鑑」を読んで分かった。違和感に納得がいったのだ。ん?なにがわかったかって?
前世のラノベや漫画などで度々出てくるエルフ、ドワーフ、獣人などの、いわゆる亜人種の扱いがこの世界では家畜同然の扱いであった。良くて奴隷、人に似ているが生物として劣っていると「生物図鑑」には書いてあるのだ。歴史書の違和感はその亜人種を道具として扱っておりそれが違和感の正体だった。
実際に亜人種を見てみないとわからないがどうにも納得がいかない。しかしながら今、父に聞くのは、藪蛇の可能性が高い。とりあえずこの件については保留、とりあえず絵本通りに本を沢山読もう。にしても絵本から歴史書か。とんでもない子供だよ我ながら。多分だが父は歴史書なんかまだ読めないと思って貸したのだろう。
いまはとにかくこの世界の知識を付けよう。倫理観とかは後で考える。早く魔法にたどり着きたい。それでいいのだ。
Copyright(C)2023-アバルト