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シナリオ屋

シナリオ屋7

作者: 縁ゆうこ


 さて、大変なことになってしまいました。


 え? なにがそんなに大変なんですって?


 いやね、あっしがジルベールと一緒に苦労して綺麗にした娑婆とは別に、またひとつ生まれたチキュウという星があったんですがね。

 その星がどんどんおかしな事になっちまって、もう、にっちもさっちも行かなくなっちまったんでさあ。

 でね、大神さまが苦渋の決断をされて、破壊することになったんです。

 有無を言わさず。

 今回ばかりは、誰ひとり助かりやせん。

 助けたいお人もいたみたいですがね、何十億分の1かは。

 ただ、そんな方にも今回は我慢していただくことにして。

 で、なんとまあ。

 あちらこちらの宇宙や次元からお集まりになった大神さまがたの、

「せーの」

 のかけ声で、おしまいにするんだそうです。

 これを聞いたときには、さすがに驚きましたがね。

 まあ、大神さまがお決めになった事。致し方ありやせん。


 ただ、そこのチキュウに住まれているお人が。

 なんと、80億人だったので、ごさいやす。




「シナリオ屋、いるかい?」

「へい、いるのはわかってらっしゃるでしょ」

「はは、ほんに」


 その日も、如来さまがひょいと店においでになりました。

 あっしはいつもの通り、お茶とお菓子など用意して、さて、今日はどんなお話をお聞かせしようかと嬉しくなっておりやした。

 ですが。

「ああ、ありがとうね。けど、今日は……、うーん、今日も、かな」

 何かを言いよどむ如来さま。

 いや、いけねえな。これはきっと、よからぬ頼み事を持ってこられたに決まってます。

「お断りします」

「ええ? 私はまだ何も話していないよ」

「あっしの勘がそう言っておりやす」

「あっははは、なんと勘がするどくなったねえ」

「え? やっぱり! 嫌ですよ!」

「だから、まだ、何も話していないって」


 本当に可笑しそうに笑う如来さまに、どんなやっかいごとを持ってこられたのか、聞きたい気持ちをグッとこらえて、あっしは明後日の方を向いて、口を堅く閉ざしておりました。

「おやおや、意地っ張りになったねえシナリオ屋。本当はどんな話か聞きたいんだろう?」

「いいえ」

「でも、聞きたくなくても、私が頼まなくても、結局引き受けることになってしまうんだよ?」

「へ? なんで?」

そんな言い方をなさる如来さまに、あっしは思わず聞き返してしまいました。

「80億」

「80億?」

「そう、このあと、80億の人間が、いっぺんにあちこちの中間世界に来る事になったんだよ」

「え、ええーー?!」



 そして、最初の話に戻るんでやんす。

 まあ、生まれも生まれたり、80億。

 箸にも棒にもかからないくらい乱れてしまったチキュウに。


「でね、これは1人のシナリオ屋に頼むには多すぎるという事で、各次元、各宇宙の精鋭たちに振り分けることにしたんだよ」

「へ?」

「ん?」

「今、精鋭と仰いましたか?」

「ああ、お前もそのうちの1人だよ」

「そんな馬鹿な」

「おや、私を馬鹿呼ばわりかい?」

 如来さまはわかっていらっしゃるのに、そんな風に仰います。

「いえ! 馬鹿になんかしてやせん! あっしが精鋭というのがどうにも嘘くさくて」

「ははあ」

 そう言いながら如来さまは空を見上げて思案顔。

 こういうときの如来さまは、なんと申しましょう、本当に神々しい……

 あ、いけない、思わず見とれて丸め込まれるところでした。

「じゃあ、精鋭でなくても良いからさ、引き受けておくれよ」

「……」

 むっつりと黙り込むあっしに、如来さまはそれ以上押しつけがましく言ってきやしやせん。


 対峙してしばらく。


「ええっと、……わかりやした。お引き受けいたしやす」

「本当かい? ああ良かった。これで奴に怒られなくて済むよ~」

「奴?」

「うん、地蔵菩薩、じゃなくてこの場合は閻魔大王、にね」

「あ!」

 あっしはきっと引き受けてしまうのだろうと、はじめからわかっていたんです。

 ですが。


「閻魔大王様も関わられるんですか?」

「もちろんだよ、色々振り分けもしなくちゃならないからね。80億と聞いてさすがに嫌な顔してたけど、私がシナリオ屋を連れてくるよって言ったら、何も言わなくなったよ」

「そう、だったんですか」

 なんだかやる気が出てまいりました。

 また、ジルベールと仕事が出来るんでやんすね。でも今回は閻魔大王様ですが。

「あ、それからね」

「はい」

「お前さんと仕事する間は、ジルベールの姿になってあげるってよ」

「え? ……は、はい! ありがたき幸せでやんす!」

 思わず勢い込んで言っちまってから、あ、と口を押さえましたが後の祭り。

「ふふ、奴にはシナリオ屋の気持ち、ちゃんと伝えておくからね」

「如来さまあ~」

 あっしはフシューっと真っ赤になっちまいました。




 そんないきさつがあって、しばらくしてから呼び出しを受けまして。

 さて、これからおしまいが始まります。



「シナリオ屋たち、久方ぶりよの」

「「ははー! 閻魔大王様にもつつがなく!」」

 楽しみにしていたジルベールとの再開でしたが、打ち合わせの場所には、なんと! いきなり閻魔大王様のお姿がありました。そりゃあそうですわな、他から来たシナリオ屋も大勢いるんですから。

 仲間たちも皆、びびって伏せっております。

 あっしももちろん恐ろしくて伏せまくりでやんす。

 そのうち、「ご挨拶が終わりましたので、閻魔大王様ご退場です」の声がして、すっと場の空気が変わりました。皆はホッとして顔を上げたのでしょう、ザワザワと話し声も聞こえてきました。


 …………

 けれどあっしは、まだちょっと震えが収まらず、もうしばらく、と、その場に伏せっておりました。

 すると。

「いい加減に顔を上げられてはどうですか」

「へ?」

 上の方からかけられた聞き覚えのある声に、そおーっと顔を上げてみると。

 そこには、執事姿でつんとすました表情のジルベールがいたんです。


「ジルベール!」

「おっと」

 あっしは嬉しくなって、つい飛びついてしまいやした。難なくあっしを受け止めるジルベール。

 いやあ、これがあの閻魔大王様と同一人物なんて、いったい誰が信じるでしょう。

「浮かれている場合では、ありませんよ」

「あ、申し訳ありやせん」

 と言いながら、にやける顔は隠せませんな。

 ジルベールは珍しく、一瞬困ったような笑いを見せたあと、表情を引き締めました。


「始まります。貴殿はわたしの後ろで、なるべく大神さまを直視されませんように」

「……はい」

 ゴクリとつばを飲み込んでジルベールの後ろに回り、目を伏せます。


 すると。

 目を伏せていても、いやいや、思わず目を閉じてさえ感じる存在感。

 そんな存在感と威圧感の大神さまが幾人も集まられるのですから、そりゃあもうあっしらみたいな下っ端は、ガタガタと震えているしかありやせん。

 手を握りしめて震えていると、誰かがそっと手を包み込んで下さいます。

 ああ、如来さまが来て下さったんだなと、目を開けなくてもわかりやした。




《みな、はじめようぞ》

 魂に直接響き渡るお声に、他の大神さまが頷いたのが感じられました。





【せーの!】





 その後、程なくジルベール、もとい閻魔大王様が、さすがの采配で80億の人々を振り分けられました。

 その早いこと早いこと。

 伊達に閻魔大王さまのお名前をお持ちではありませんな、などというとお叱りを受けそうですがね。

 で。

 そこからは、あっしたちシナリオ屋の出番です。

 あっしなんかとは違って、さすがは腕に覚えのある精鋭たち。関係各所の後押しを受けつつ、粛々と誠心誠意シナリオを書くことに励まれました。

 とは言え、すべてのお方のシナリオを書くわけじゃあ、ありやせん。

 自分で書きたいと仰ったお方が3割ほど。

 しばらく中間世界で考えたい、休みたいと仰る方がこれまた3割ほど。

 なのでシナリオを必要とされる方は4割ほどになりやした。

 とは言え、それでも40億。

 目の回る忙しさでしたが、それはそれは貴重な経験をさせて頂きやした。

 

 とうとう最後のお一人のシナリオが完成した暁には、皆で手を取り肩をたたき合って大喜びしたものです。

 やりきった清々しさと、それまでにはない経験から、皆、顔つきまで、より精悍になったんじゃあないかと、思わずほれぼれと見入ってしまいましたよ。

 そのあとはささやかな打ち上げなんぞのあとに、皆、三々五々自分の宇宙へ帰っていきました。


 そんななかで、あっしも帰還の準備をしていますと、「シナリオ屋」と呼ぶ声がします。

 声のした方を見ると、そこにはなんと地蔵菩薩さまがおられました。

「地蔵菩薩さま、お久しぶりです」

 ついそんな風にご挨拶すると、地蔵菩薩さまは、ガッハハハと豪快にお笑いになって、

「おう、そうだな、いやあ久しぶりだなあ」

 とからかうように言われました。

 いや、あっしだってわかってるんですよ。ついこの間、ジルベールにも閻魔大王様にもお目にかかっていたのは。

 ですがねえ、地蔵菩薩さまはやはり地蔵菩薩さま。

 豪快なしゃべりとは裏腹に、その慈愛は周囲を圧倒的に包み込んでしまいやす。

「で、どうなさいましたか?」

「いやあ、今回はさすがにさすがだったんで、ちと休暇なんぞ取ろうかと思ってな」

「はあ……」

 そりゃあ80億をあっという間に捌かれたんですから、さすがにお疲れでしょう。

 そうは言っても、振り分けにお休みなんぞあるんでしょうか。あっしは心配になって、つい聞いてしまいました。

「でも休暇を取ってその間のお裁きは大丈夫なんでやんすか」

「大丈夫だから休暇を取るなんて言ってんだろ。まったくいつまでも融通の利かん奴だ」

「へえ、それは失礼しました。すみませんね、頭の固い奴で」

「ハーッハハハ、自分でわかってりゃ言うことないな。でな、休暇のついでに旅にでも行くかと思ってんだが、どうだシナリオ屋。お前も一緒に来い」

「へ?」

「たーのしいぞー」

「ええー?!」

 なんと、地蔵菩薩さまは、あっしを旅行にお誘い下さいました。

 ですがねえ、地蔵菩薩さまは常日頃から六道を行ったり来たり、それこそ旅から旅へのお暮らしなんですがねえ。

 それを言うと、

「はあ? まあそうだがな、いつもは一人旅なんだが、たまには二人道中も楽しかろうと思ってなあ、なあ、どうだあ?」

 なんだか楽しそうに仰るのですが、あっしも娑婆の中間世界に一度帰っておきたいと思っておりました。

「一度あっちへ帰ってからでもよろしいですか?」

「ん? あー、まあお前にも都合はあるさな……。よし! 良いだろう。けど帰ったらすぐに出発だぜ」

 なんとまあ、遠慮のかけらもない。

 ですが、次のセリフに、あっしは二つ返事でOKしちまいました。

「言っとくが、旅の連れは、ジルベールだぜ」



 ですが、これが地蔵菩薩さまの作戦だったとは。


 休暇旅とは名ばかり、この旅が大いなる人助けの旅だったと気づいてあっしが大騒ぎするのは、また別のお話。





 あっしはしがないシナリオ屋。

 今回、ちと経験を積ませて頂きやしたので、いや、今までも手を抜いた事なんぞありやせんがね、あなたの人生、山あり谷あり平地あり、お望みならば宇宙の果てまで飛ばして差し上げやしょう。

 へい、いらっしゃいませ、まいどありい。








ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

さて、またまた筆者の得意技、せーので消えるチキュウのお話です(笑)

ですが、シナリオ屋もいろいろなところに駆り出されて大変ですね。自分では認識していない精鋭なのだから、まあ仕方がないでしょう。

さて、と言うわけでシナリオ屋もまだまだ健在でしたので、またどこかでお目にかかれれば幸いです。


ところで、ひとつ質問です。

あなたは地球がなくなったら、どうします?


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