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パール公国への遠征


 1月の半ば頃の事。

 様々な情報を取り寄せ、現在主犯であるティムソンの捕縛へと向かうためドラムストの精鋭がパール公国へと出発した。

 アウローラの体にティムソンは反魂の魔術を使うと分かり時間が無いとすぐさまアリステアが編成したのだ。

 そこに、重要な情報を掴み報告したシュミットもいた。

 彼は芽依の家族としてそばに居るが、位置的にはドラムスト側から見たら外部の人物となる。

 今回のアウローラ奪還に参加するとなると、莫大な対価が発生する事になるのだが、それを緩和しているのが隣にいる芽依の存在。


「ふっ……くっ……」


「シュミットさん、笑わないで」


「な……んで、……お前……」


「私だってつけたくてつけてる訳じゃないです」


 いま、芽依は艶やかな着物を着ている。

 黒髪を結い上げて簪で飾り、その顔には女鬼の面をして、誰かわからないようにしている。

 かなり不審者な姿をしているが、女鬼の面は、れっきとした移民の民の匂い消しだった。

 誰かわからない上に移民の民ともわからない仕様でこの場にいる。


 芽依が参加する一番の理由は、彼女が持つ最大の力を借りる事だ。

 移民の民は伴侶の力を借入れている。

 さらに、願えば人外者自身が動く事も多々あるのだ。

 芽依達移民の民が国に紐付けられる一番のメリットが、人外者の力の1部、またはそのものを国が借りて使う事。

 多大な戦力になるそれは、過剰戦力になりうるし、逆に不満を持たせたら契約を破棄して刃を向けられる諸刃の剣ともなりえる。

 特に芽依は伴侶と呼ばれる人外者1人の力だけでは無い。

 願えば複数人が簡単に動くだろう。


 だからこそ、芽依が動いているように見えないようにまだ家族としてあまり知られていないシュミットを傍に置き出陣する。

 過保護な家族たちは姿を隠してそばに居るのだが。


 領主館の大広間で、アリステアが全員を見る。


「パール公国は現在、市民から反乱を受け王族や貴族、国に仕える者は城に避難している状態だ。交流がある国とはいえ、国交を樹立してはいない。本来手出無用な状況とはいえ、我が国から移民の民とその伴侶がパール公国にいる為放置も出来ない状況である。したがって、我々の目的は移民の民ミカと、その伴侶アウローラの奪還である。現在アウローラは囚われ反魂の魔術の器として準備されている。一刻を争うこと、肝に銘じて欲しい」


 響くアリステアの言葉に芽依は小さく、え……と呟いた。

 それにシュミットがチラリと見る。


「国交を樹立してない? ……だって、支援とか色々……」


「ああ。メイの世界ではどうかわからんが、この世界では国同士や、領主に親交がある場合はある程度の支援を受けることは可能だ。だがな、国交となると国同士の結び付きになり、損得が発生する。ドラムストは国じゃない、一領地に過ぎないから簡単にパール公国と国交を樹立とはいかないし、なによりパール公国に旨みはない。こちらには損しかないんだ。この国の王族が割って入り国交を樹立したりはしないだろうな。元よりこの国から離れた公国だ」


「…………そうか、そうですよね。アリステア様の一存では決められない。……じゃあ、これってかなり危ないのではないですか? 」


「ああ、失敗したらアリステアの首が飛んでもおかしくは無い。勝手に他国に兵を進軍させるのだからな。上手く連れ戻しても、ある程度の咎めはあるだろう」


「……………………」


 芽依は悩み眉をひそめて俯く。

 とはいえ、険しい女面の着物を着た女が俯いているように見えるだけだが。


「………………ふっ」


「ちゅーしますよ」


「悪い……」


 思わず笑うシュミットに芽依はゆっくりと顔を向けるが、さらに笑い顔を背ける。

 ギュッ……と腰に腕を回して抱き着く芽依をたまたま見ていセルジオの額に青筋が浮かぶ。

 女鬼の面をしていても、最高位闇の精霊に抱き着く女など、芽依以外にいないだろう。


「……では、皆自らの命を大切にしつつ、進軍開始! 」


 一気に全員をパール公国のすぐ側に転移したアリステアは、魔術の痕跡が煌めく場に佇んでいた。

 今回、領主であるアリステアは一緒に行かない。

 大広間にある残された巨大転移の魔術陣を見つめてから胃に手を当てた。


「……はぁ」


「行きましたね」


「ああ、無事にアウローラを奪還できたら良いのだが」


 今回、アウローラ奪還を重点的に動くドラムスト。

 そこにパール公国の紛争に繋がるティムソンを止める事も市民を抑えることも含まれてはいない。

 疲弊し王族の権威が地に落ちたパーシヴァルはどう立て直すのか。

 既に難しい状態に陥っているのだが、そこまで手を出す事は出来ないアリステア。

 どう転んでも現在のパール公国の未来は明るいものではない。


 それは、アリステアもパーシヴァルも分かっている事だ。

 

 歯を食いしばり、ギリギリまで自国の為に奔走していたパーシヴァルを出来れば助けたい。

 だが、そこまで手を出すことが出来ないアリステアは手を握りしめ芽依達が少しでもいい方向に終結させてくれるのを待つしかないのだ。


「………………領主とは言っても何も出来ない……無力なものだ。助けたくても私自身が動くこともままならないなんて本当に不甲斐ない」


「ですがアリステア。貴方のその優しさに支えられて皆着いてきてるのです。貴方が願うから、皆が動くんですよ。貴方は良き領主です」


「……シャルドネ」


「ふふ。きっと大丈夫です。だって、メイさんが行きましたからね。あの方の全勢力を連れて」


「………………そうだな」


 浮かぶのは巨大な蟻に、吹雪く雪の中に佇む美麗な花雪の妖精。 樹木に守られるように緑の髪を揺らす白の奴隷に、闇に紛れ煙草を片手に藍色の髪をかきあげる精霊。

 さらに、ふわりと揺れる金髪に褐色の肌の美女が意識の端に現れた。


「…………過剰戦力だな」


「まったくですね」


「一気に不安がなくなる」


「心強いじゃないですか。帰ってきたら何かご褒美を考えないといけませんね」


「…………ああ」


 国が傾くかもしれない一大事に、最高位が数人行く。

 それは既に、問題が終結するのが確定しているようだった。

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