福袋の準備と地下室の不穏な様子
毎年お節と共に恒例となった福袋。
ある程度内容は決めていて後は袋詰めだけの状態だった。
今年も肉、野菜、その他乳製品やワイン等のおつまみ系。さらに、果物の詰め合わせも用意する。
量が増えそうなので、各福袋先着50名様とした。
芽依は久々の庭にテンションが上がりメフィスト達にお土産を渡した後に福袋を作り出した。
「あ、まって……希少種野菜めっちゃ入ってる……」
「いーの、福袋だから! まだ在庫あるから! 」
「ハンサム入れるの? 」
「うん、だめかな? 」
フェンネルと一緒に福袋の中を見ると、くるりとした髪に見立てたツルをビョン! と動かしてハンサムゥゥゥ……と言っている。
芽依は静かに福袋を閉めると、フェンネルの吹き出す声が聞こえた。
「ね、ネタ枠? 」
「何が当たるかわからないから楽しいよね」
このハンサム入り福袋は、まさかの教会の人が買っていくのだが、後にハンサムファンが教会内に増えていくのだった。
こうして手分けして福袋を作り終えた芽依は、果物の51個目を作り出した。
中はぶどうが主に入っている。
「ご主人様、果物は終わりましたよ? 」
「うん。これは少年専用にね」
数種類のぶどうを潰れないように入れて、さらにぶどうゼリーとぶどう飴も入れる。
芽依がハストゥーレに言って作ってもらったパリパリの飴でコーティングされたフレッシュなぶどう飴。
芽依用だが、ニアにもお裾分けだ。
「ご主人様に……作ったのです……」
シュンとしたハストゥーレに気付いて、作って置いた肉まんを1つ出して持たせる。
「ごめん。凄く美味しいからぶどう飴だったから食べてほしくて」
「…………わかりました」
はむっ……と肉まんを食べるハストゥーレはすぐに蕩けるような顔をする。
ああ、可愛いと芽依も蕩けていると、視線を感じた。
それは遠くで椅子に座っていたシュミットが目ざとく気付いている視線で、早歩きで近付いてくる。
「メイ」
「はい」
「……………………」
何も言わず肉まんを見ているシュミット。
すぐに気付き、にっこりと笑った芽依がシュミットの指に指を絡ませる。
「なんですか? どうしましたか? 」
「…………分かるだろう」
「わからないので言ってください。メイが作った肉まんを手ずから食べさせて欲しいと」
グイグイと近付いて目を細め笑いながら言う芽依に、うっ……と数歩下がる。
芽依はその分前に進むから距離が開かない。
腕を引いて、シュミットの腰に腕を回して顔を近付ける芽依に押されて眉を顰める。
「ねぇ、言ってください……食べさせてって……」
温泉でのイチャイチャモードが抜けないのか芽依は攻め手を緩めず困ったように表情を歪めるシュミットをニヤニヤと見る。
その2人の間に大きな手が現れシュミットを芽依から守った。
「お前は本当にシュミットに迫るの好きだな」
「大好きだからね! 」
「大好きなら俺にも迫れよ」
「…………よーし、福袋作ろう」
「それで逃げられると思ってねぇよな? なぁ? メイちゃん? 」
「うわっ! メイちゃん?! こわっ! 」
「あ? 」
いつもの庭の、いつもの様子にパピナスは幸せそうに笑みを浮かべる。
家族ではないがその胸に溢れる愛は家族たちにも負けていないと自負しているパピナス。
ただ芽依が幸せならそれでいい。
そこに、少しでも一緒に入れるなら更に幸せ。
そんないじらしい気持ちで芽依を見る。
「ん? どうしたのパピナス……あ、ごめんぶどう飴はあげられないからカフェオレボールをあげるね」
「まあ! 幸せです! 」
両手でしっかりと受け取り笑うパピナスに芽依も笑いかける。
今では同じ庭で働く大切な人に変わりは無い。
赤の奴隷として虐げられていたパピナスはもうここにはいなかった。
後ろから羽交い締めのように抑えられている芽依を見ながら、芽依の大好きなカフェオレボールを食べるパピナス。
いつもの日常が庭にも帰ってきた。
芽依が帰宅してから数日後、パール公国ではさらに貧困が進みアリステアからの支援ではもう持ち直すには難しい状態に陥っていた。
そんなパール公国の最深部では、探し続けていたアウローラが鎖に繋がれていた。
「………………はぁはぁ」
「まだ意識があるのか。随分粘るね? 」
「私を……解放しなさい」
「何馬鹿なことを言ってるの? 君はね、大事な器なんだよ? そんな事するはずない」
薄暗い部屋の片隅に、壁にかかっている手錠で繋がれたアウローラが今にも途切れそうな意識を必死につなぎ止めながら目の前の男を睨みつける。
汚れた肌や衣服は、既に数ヶ月放置されているのを物語っていた。
部屋の持ち主でしか入り込めない地下室で薄らと笑う男にアウローラは顔を歪める。
動く度に手首の手錠が擦れて痛みがはしる。
カシャン……と首からなる金属音、首輪がされていてとても希少な人外者の能力を極限まで下げる魔術具だ。
ただ、使用期限がありそろそろ使えなくなる時期に差し掛かる。
「……首輪が使えなくなるか、お前が力尽きるかどちらが先だろう……どちらにしても器になる未来は変わらない……あぁ、早く満ちないかな」
恍惚とした表情でアウローラの体内に何かの薬を打ち込む。
それにぐわり……と頭が揺れて目を瞑った。
クスクスと静まり返る地下室に響く笑い声を不快感でいっぱいなアウローラは静かに聞いていた。
しばらくして居なくなった部屋の主を目の端で見てから、自分の伴侶の名前を呟き意識を飛ばした。
「………………ミカ」
呟きは誰にも聞き届けられない。
そう、誰もが思っていたのだった。
「………………なるほどな」
闇から現れたのは、芽依の大切な家族であるシュミット。
アウローラの肌に触れ、打たれた薬の解毒薬をすぐに打ち込む。
意識はないが、暫くしたら解毒薬も効いて来るだろう。
「……予想通りか……胸糞悪いな」
呟いてから、すぐにアウローラの首に付けられた首輪を触る。
付けたものしか外せないそれは、いくらシュミットであっても取ることは出来なかった。
だが、ある程度の理由が分かったシュミットは、もうじきこの問題も解決するだろうと息を吐き出して姿を消した。




