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害獣 ガウステラ


 朝、4時頃だろうか。

 まだ冬の時期で明るくなるのが遅い時期だが、領主館で働く人達は既に動き出していた。

 いつもはその動き出す人の気配は、居住区にあまり影響はなく芽依はぬくぬくと暖かな睡眠を取っているのだが、今日は少し違うようだ。

 バタバタと走る音が聞こえ、何か騒いでいる。

 男性女性、関係なく走っているようで、たまに用があり泊まり込みで来ている貴族の金切り声も響いていた。


「………………ん」


 うっすらと目を開いてぬくぬくの布団を引っ張る。

 口元まで来た布団の温かさに目をトロリと閉じそうになるが、騒がしさが止まらず少しずつ覚醒してくる。


「…………うるさ」


 目を擦りながら体を起こす。

 部屋の温度調節はしっかりされているので、朝早くても部屋は暖かい。

 モコモコのスリッパに足を入れて、廊下に繋がる扉を開けると、凄まじいスピードで何かが走り去っていった。

 なんだったのか分からず首を傾げる。黒い残像にしか見えなかった。


「メイ!! 」


「はい!! 」


 急に呼ばれた声に反射で大きな声で返事をすると、セルジオに抱えられた。

 そのまま鋭い眼差しで部屋の中を確認してからバタン! と音を立てて扉を閉めて何か紙を貼る。

 険しい顔をしたセルジオは珍しく水色の緩やかな上下を着ていて、髪型は緩やかなウェーブは何もセットされていない。

 引っ掛けたように履いた靴で芽依を抱き上げて走っりだす。

 

「ど……どうしたんですか」


「ガウステラが出た」


 舌打ちしながら死ぬほど嫌そうに言った。

 ガウステラ、それはこの世界に来て少ししてから言われた幻獣の名前であり、セルジオが芽依の汚部屋を清潔に片付けている元凶だ。


「えっ! ガウステラって、あの……」


「ああ、片付いてない部屋に出る幻獣だ。アイツが巣を作ったら厄介だ」


 ガウステラ。

 それは、片付いてない部屋を餌にして現れる害獣指定されている幻獣。

 1匹でたら100匹いると、あの黒いヤツのような繁殖力を持っているので出ると駆除が大変な害獣である。

 普通な家でも大変なのに領主館は広く重要書類から道具武具など様々ある。

 それを食い荒らされる訳にはいかないのだ。


「私の部屋綺麗でしたよ?! 」


「それはそうだろう! 俺が片付けているから……ここもか! 」

 

 芽依の部屋から1番近い部屋を開けて中を見ると、そこには50cm程の白くてモコモコした丸いのがいた。

 それが一心不乱にカーテンを貪っている。

 可愛らしい薔薇柄のカーテンは、害獣ガウステラがガジガジとカーテンを食べている。物理的に。


「えっ……カーテン食べてる」


「まだカーテンで良かったな」


「え」


「アイツらにも個体で好みがあるんだが、食い尽くすと周りの結界も食いだすぞ……勿論、お前もな」


「……セルジオさん、私暫くここに居ますから離さないで下さい」


「……頼まれても離さないから安心しろ」


 ぐっと抱き上げている手に力を入れて、青白い光が輝く火を出しガウステラを燃やした。


「燃やした……」


「コイツは切っても魔術を使っても殺せない。殺すのはこの炎のみだ」


 どうやらほとんどの人がガウステラ対策で走り回り青白い炎を灯しているようだ。

 燃やして部屋の中を確認してから、またすぐに廊下に出て札を貼る。

 ガウステラが侵入しないようにする為らしく、出入口のどこかに札を貼り、ガウステラが入れない結界を作っているようだ。

 だが、部屋の中に巣を作っているとそこから無数に増えるため必ず確認が必要なのだ。


「1箇所に集めるとか、無理なんですか? 」


「ガウステラは食べ物にしか興味がないんだが、それを餌にしても全部は集められない」


「好みが違うから、ですか」


「ああ」


 廊下にいるガウステラを見つけてすぐに燃やす。

 また次の部屋で2匹、ピンクと水色のガウステラを見つける。

 燃やし尽くしたセルジオは小さく舌打ちした。


 各場所に散開した人達は、皆ガウステラを探している。

 広いのだ、数人でやっても意味が無い。

 だが、早朝だということもあり、日中通いで来る人が居ない為人数は限定されてしまうのだ。

 この居住区にはセルジオの他3人の人達が端から囲い込むように動き部屋を封鎖していってる。

 他の場所もそうなのだろう。特に機密情報を置いてある場所は真っ先に確認に行っていて、既にガウステラが侵入していて真っ青になったアリステアによって3匹のガウステラは討伐されていた。


 他にも沢山ガウステラは発見されて討伐されたが、肝心の巣が見つからずセルジオはイライラしていると、不意に芽依を見た。


「………………メイ」


「あ、嫌ーな気がしますよ」


「そうか、良かったな」


「良くないですよねぇ!! 」


 セルジオは良い餌を見つけた。

 どんな人外者にも好まれる餌だ。それは勿論ガウステラにも。

 芽依は引き攣った笑みを浮かべてセルジオを見るか、何かを考えているのか部屋を見回り見つけたガウステラを倒しながらは走り続けている。


「………………よし」


 そして、何か決めたのかセルジオは足を止めて丁度向かいから来る人を見た。

 あれはシャノンでは無いだろうか。


「シャノン、ガウステラを大広間に集める。手伝え」


「えぇ?! 集めるってどうやって……ねぇ! セルジオったらー!! 」


 いきなり言われたシャノンは、走り去るセルジオの背中に向かって叫んだ。

 しかし、聞いていないセルジオはそのまま走り去って行き、シャノンは普段しない舌打ちをする。


「説明しなさいよー!! 」

 

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