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おにぎり祭り 3


 2日目、食料フェスティバル改めおにぎり祭り開催中。

 本日も用意された数種類のおにぎり弁当を前にむふん! と息を吐き出す。

 右側の飲み物を売っていた店は初日だけだったのか、今日は別の人が立っていた。

 随分と綺麗な女性だが、その美しさに人外者かと思ったが羽はない。

 幻獣の人型? とも思ったが人間のようだ。

 フェンネルへの熱い視線が激しく、芽依はなるほど……と頷く。

 昨日の美女から一転して今日はかっこいいうちの子たちなのだ。


「メイちゃん、お腹すいてない? ジュースは? 」


「ご主人様、昨日気になっていたカツサンドを買って参りました。如何でしょうか? 」


 2人は販売の合間にせっせと芽依のお世話をしている。

 2種類の果実水が入ったボトルを振って見せるフェンネルに、両手で持ってカツサンドを見せるハストゥーレ。

 そのシンクロした動きがもう可愛い。

 ありがとうございます、もう可愛い。


「貰おうかなぁ」


「はい!! 」


「味はどっちがいい? 」


 手渡されるカツサンドは、かなり大振りのが複数入っている。

 パッケージに皆でシェア! と書かれていてパーティ用みたいな感じなのだろうか。

 芽依は1つ取り出しメディトークに差し出すと、体を縮めて頭を下げ、口に入れる。

 甘辛い独特のソースが舌の上でまったりと広がった。


『…………うめぇ。いいな、カツサンド』


「作る?! 」


『今度な』


 楽しみになった芽依はピョン!とジャンプして酒を手に取り


「ちょっ!! だめ!! 」


 フェンネルに止められたのだった。







「あの……良かったら食べませんか? デザートにでも」


 カツサンドを食べている途中、隣の女性から渡されたのは、こし餡が入ったパイ。

 薄皮のパイに甘さ控えめのこし餡がたっぷり入っているようで、気に入ったら買って下さい! なのかな? と首を傾げる。

 女性が芽依ではなくフェンネルに差し出しているから。


「…………いや、僕はいらないよ」


「あの……美味しいですよ ? 」


「いらないったら」


 少し冷たいくらいの言い方に目を見開いていると、フェンネルが芽依に気付いて笑った。

 どうやら奴隷になる前の顧客らしく、気に入られてかなり粘着されていたらしい。

 しかもこの女性、平民に紛れて偽っているが貴族の奥様のようだ。

 フェンネルが奴隷落ちした事で、フェンネルを手に入れようと動き出したのだとか。

 そんな事は知らない芽依、チラリと見てくる女性にへらりと笑いかけると、物凄く顔を歪ませ睨まれた。

 何故……と釈然としない芽依は庇われるように抱き締めてきたメディトークの腹部に収納された。


「……………………お姉さんなにしてるの? 」


「きゃー!! しょうねーん!! 」


 パッ! とメディトークから離れてぐるりと周り客側にいるニアの方のそばに行き、ギューっと抱き締める。

 嫌がらないとわかったから、芽依はニアに遠慮する事はなくなった。


「ぶどうはないんだね……」


「うん、ごめんね。持っていくなら準備しようか? 」


「欲しい……あと、おにぎりも」


「おにぎり食べてくれるの? 」


 思いもしないぶどう以外の注文に目を丸くすると、首を傾げて芽依を見るニアから予想外の言葉が返ってきた。


「…………お姉さんの好きな食べ物だから」


「撃ち抜かれた…………」


 ニアの体に捕まったままズルズルと地面に座り込む芽依の頭を撫でる。

 そんなニアに相変わらずハストゥーレはギリギリしていて、睨み付けている可愛らしい1面は相変わらずだ。


「羨ましいの? 」


「そんな事ありません! ご主人様は昨日も私を抱いて下さいました!! 」


「それは随分誤解を招く言い方だよ! ハス君?! 」


「……………………抱く? 」


「ぎゃあ!! なんでここに居るんですかセルジオさん!! あ! シャルドネさんも! 」


「抱く……とは、どういう意味ですか? メイさん」


「え、いつも優しいシャルドネさんがうっすら怖い……」


「こいつが優しい? ないだろう」


「なんですかセルジオ、随分気に触る言い方をしますね」


「あ? 事実だろう。図星を突かれてイラついたか? 」


「貴方にだけ優しくないんですよ」


 あっちこっちでバチバチしだした事に芽依が慌てていると、青筋を浮かべたメディトークの怒りが炸裂した。


『テメェら、いい加減にしやがれ!! うるせぇぞ、営業妨害だ!! 』


 1番まともな反応である。

 五月蝿いと言われた4人はハッ! とし、ニアは大人しく購入する。


『メイ、戻ってこい』


「は、はーい」


 すごすごと戻った芽依をメディトークがフェンネルに預けて黙ってろ、と言われ大人しくなる。

 怒られた……とフェンネルを見上げると、眉を下げて苦笑する美しい花雪。

 うん、今日も綺麗だ。


 そんな私たちをじっと見ている女性。

 若い子が好きそうな最近の流行りの服装に化粧をしているが、よく見たら年齢はそれなりにいっている。

 貴族だからお手入れはしっかりしているのだろう。流石に20代とまでは言えないが、若々しく見えるのだ。


 しかし、そのねちっこい眼差しはどうにかならないのだろうか、と居心地悪く最終日を過ごす事になる。


「フェンネルさんに執着……かぁ。フェンネルさん、刺されるような事はしないでね? 」


「え?! 僕をなんだと思ってるの?! 」


「…………女ったらし? 」


「メイちゃぁぁぁぁん!! 」


 お城で食べるのだと芽依のおにぎりだけじゃなく、他にも多量に買っていたらしいセルジオたちも満足そうに帰っていき、売上はガンガンと増えていく。

 出費もあるが、収入がガッポガッポな芽依は、もうすぐ買えそうな工場を思って期待に胸をドキドキとさせていたのだった。

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