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皆でピクニック 2


 翌日、また箱庭を使い庭の手入れを終わらせた芽依は、チラチラと降る雪を見上げてから口端を持ち上げた。

 ふわりと広がる厚地のワンピースにポンチョを羽織った芽依は、ほぅ……と息を吐き出した。


 今年も暖冬だと思われているが、雪は変わらず降り注いでいる。

 不思議だ、暖冬と言う割には毎日変わらず雪は降る。

 暖かければみぞれや雨に変わるはずなのに。

 体感温度は寒い、でも、足元からじんわりと暖かい感じもする。

 まるであの、戻り呪のように。


『準備は出来たか』


「大丈夫だよ」


「あ、メイちゃんスカートめくれそう!」


「なんですと?! 」


 一瞬強く風が吹き、厚地のスカートは空気をはらんで頑張ってふわりと持ち上がる。

 ぶわりと持ち上がらず上品に持ち上がったスカート、その姿を見てハストゥーレが頬を染めた。


「…………ご主人様が可愛らしい」


「あ、わかるー。僕らのご主人様、今ベストショットだよね」


『撮んじゃねーよ』

 

 いつの間にか取り出していた画像停止書、所謂この世界のカメラに芽依のスカートがふわりと持ち上がった姿が映し出されていた。

 スカートだけじゃなく、ポンチョや髪も空気をはらんで持ち上がり、籠バックを持つ芽依が振り返った姿だ。

 背景は芽依の庭の雪景色、その端には真っ黒な蟻が紛れ込んでいる。

 そのアンバランスさえも魅力的な1枚になっていた。


「被写体があまりいい出来じゃないんだから、いきなり撮るのはやめましょー」


「被写体は素晴らしく可愛いよ……盗撮には怒らないの?」


「そんな堂々と撮って盗撮とか言っちゃうの? 」


 えー? と笑いながら話す芽依を眩しそうに見ながらフェンネルとハストゥーレは見つめた。

 ご主人様最高……と思っているのは、2人の美しい微笑みからは予想も出来ない。




「おお、相変わらず綺麗だね」


 メディトークの背中に乗り、見上げたのは森の木々が重なる場所から入ってくる光。

 そこからハラハラと雪が落ちてきて幻想的だ。

 寒さの中でも凛として佇む森の中、駆け抜けるウサギやリスに良く似た幻獣。

 立ち入り禁止区域であるこの森だが、シャリダンの人達は良く狩りに訪れる場所である。


 無理をしない程度に森に入る人は実はかなり居る。

 大体はシャリダンの人や人外者なので見逃されるが、たまに子供が度胸試しに入り帰ってこなかったり、大怪我をする事もある場所である。


「蛟様はいらっしゃらなかったのですね」


「うん、冬の森はあまり餌がないからって来なかったよ」


 首に巻き付く事が多い蛟は、今日はアリステアの執務室にいるらしい。

 常に一緒にいる訳では無い蛟、自由な生き物である。

 しかし、彼女が来たことによって庭の土がとても良くなっていた。

 水と土に強い影響を与えるようで、蛟が1度芽依の土に潜り込み縦横無尽に動き回った結果、キラキラと輝くふかふかの土に変わっていた。

 かなり有益な生き物であり、芽依の危機に対応出来なかった蛟はメディトークに軽く絞められただけで終わった。

 それも仕方ないだろう、蛟にしてみれば芽依は少し気に入った人間にすぎない。

 アリステアを呼びに行っただけ十分な出来である。


「どこで食べましょうか」


 ニッコリと笑って聞いてきたハストゥーレ、奥に行けば鬱蒼とした森に変わってしまうので、この美しい森が堪能出来る場所が良いと希望すると、胸に手を当てて頭を下げた。


「かしこまりました」


 静かに目を瞑るとハストゥーレか、よく分からない雰囲気に圧倒されてメディトークの背中に爪を立てた。


『爪立てんな』


「…………これ、なに? 不思議な感覚がする」


『ハストゥーレは森の妖精だからな、手前側のいい場所を探してんだろ』


「な……なるほど? 」


 ぶわりと何かを探られているような感覚にメディトークの背中を引っ掻いた芽依だったが、ハストゥーレが目を開けるまで指に力は入ったままだった。


「………………ここから10分程歩いた所にいい場所が有りそうです」


 振り返り芽依を見上げて微笑んだハストゥーレに頷きつつ、力の入った体をゆっくりと抜いた。





 到着したのは小川が流れキラキラと光を反射している美しい場所だった。

 入口から少し森の深い場所へと向かって歩いた場所だが、まだまだ強い幻獣と遭遇するには浅い場所である。

 

「おー、ハス君お手柄だね、凄い綺麗」


 フェンネルが周りを見渡しウキウキで芽依からバックを預かりゴソゴソと中を触っている。

 その間にメディトークの背中から下ろして貰った芽依は、小川に駆け寄った。

 降る雪が小川に溶けて更に煌めいている。

 透明感の高い水らしく、底が綺麗に見えていた。


「わぁ、凄い綺麗。魚も……い……る……」


 流れていく魚の多くは普通に見えるが、時々ギョロリと目をむいて芽依を見る魚がいる。

 その魚は全て蛍光色で鋭い歯をガチガチと鳴らすのだが、なにより体にあるヒレが全て網タイツを履いているような黒い綺麗な模様がついている。

 まるで刺繍だろうかと言うような、大輪の薔薇だったり雪の結晶だったり、はたまた犬が舌を出してハァハァとしていたり。


 芽依は口を閉ざし、流れてくるおかしな魚を静かに見送った。

 そして無言で小川から離れた芽依はメディトークの足にしがみつき、まるで足の1部みたいに動かなくなる。


『どうした』


「………………世の中の魚の不思議を紐解いてるから、ちょっとまって」


『何言ってんだ、お前』


 芽依の様子に首を傾げながら小川を見るメディトークだが、至って普通な様子に芽依は戦慄した。


「…………あの魚は通常仕様なのか」


 また知る新たなこの世界の常識に慄くが、後からフェンネルが高級魚! と喜びあの魚を乱獲する姿を見て卒倒しそうになった。


 なるほど、高級魚。理解できません。


 

 

 

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