皆でピクニック
暖冬という言葉に相応しい最近、雪は降るがあまりにも溶けるのが早いドラムスト領。
最近はドラムストだけではなく、その近辺の街も暖冬の影響を受けているようだ。
とは言っても、庭に受けたダメージは雪が積もる冬より春以降の暖かな気温の方が回復しやすいらしく、喜ばれているのだとか。
「でも、ちょっと尋常じゃないよね」
「うん、僕の雪山溶けてきてるのはびっくりしたよ」
復旧作業も終盤に差し掛かってきた芽依の庭では、新年を迎え半月が経つ頃には以前と同じような大ぶりの野菜が収穫出来るようになってきた。
広大な敷地内での収穫は手分けしても手作業では追いつかない為、箱庭をフル活用しての庭の手入れをしている。
まだ他の人の庭復旧が追いついていない為、野菜不足解消に務める芽依は、備蓄を増やしていた。
ドライフルーツの売れ行きが良くなってきて、これに合わせて野菜も加工し、干し野菜を作った。
野菜販売は春頃を予定しているようなので、1度無料配布をしようと思っている。
「ドラムスト以外にもこの現象が出てきているようです」
『それについてはアリステアからも報告が来てたな。庭の復興がかなり捗っているってよ』
「それは嬉しいんだけどね」
『…………お前の戻り呪の事が気がかりだな』
「あれねぇ、アリステア様が地面が熱くなってるって言ってたからね。あんまりにもタイミングが良いのが気持ち悪いよね」
うぅーん、と首を傾げながら話す芽依に皆が頷いた。
まだまだ寒い季節のはずなのに、またじんわりと雪が溶けていく。
降る雪の量は変わらないから、やはり地面が熱を持っているようだ。
「このままなら根腐れが心配ですね」
「それねぇ」
「根腐れ? 」
『地面が熱くなりすぎて根が腐るんだよ。メイの向こうの庭はどうだ?』
「あっちも雪溶けてきてるから変わらないと思う」
『厄介だな』
はぁ……と息を吐き出すメディトーク。
そんな4人はというと、何故か巨大なお弁当制作中だ。
忙しく動き回っていた4人はここに来て休憩をしようと明日1日ゆっくりとする事を決めたのだ。
雪の中の閑静な森が素敵だったと話す芽依に、ならば雪の中のピクニックにしようと立ち入り禁止区域の森で堂々と遊ぶ予定を立てている。
もちろん、お酒も持参だ。
「…………たのしみだなぁ、お酒……これね、新作なんだって」
うへへへ……と笑いながら箱庭から出したのを見て、フェンネルがガタリと音を鳴らした。
前のめりに体を傾けて芽依の持つお酒をマジマジと見る。
「…………これ、年間10本しか出荷しない幻のお酒だよ!メイちゃんどうやって手に入れたの?! 」
「ふっふっふっ!前の仕事の時に世話になったからってハンバーグ店のお姉さんから好きなのをどうぞって言われて選んだのがこれだった!! …………そっか、顔が真っ青だったのはそれが理由かぁ」
酒好きだと聞いたハンバーグ店員の女性が選んでと出した中に、入れる予定じゃなかった酒が混じってしまっていたようだ。
酒好きの芽依は目ざとくそれを見つけて選んだ。
もちろん幻の酒など知ってるわけがない芽依は、上手に嗅ぎ分けたのだ。
「……いいの? かなり貴重だよ。一人でゆっくり飲んでもいいんだよ? 」
「んー? 一緒に飲んだ方が楽しいでしょ! それに私、多分フェンネルさん齧るからお相子だよね」
「え? そのお相子意味わからないんだけど……」
あはははは、と笑いながらお弁当とは別に作った肉まんやあんまんをお重に入れる。
作りだめしていたごま餡や、肉まんの具材をこれでもかと使い作った渾身の出来である。
好きこそ物の上手なれ、である芽依の肉まんあんまんの完成度は高い。
「…………どうして混ぜるだけで食器を吹き飛ばせるメイちゃんが、こんなに上手にまんじゅうをつくれるの?! 」
「大好きだからさ!! 」
胸を張って言った芽依は、別に用意した2段ケースにそれぞれ4つずつ入れて蓋をする。
メディトークに頼んで時間停止してもらい箱庭に入れると、ハストゥーレは首を傾げた。
「ご主人様……今のは? 」
「ああ、これはシュミットさんの」
「え?! なんでシュミット? メイちゃんどういう事?! 」
予想外の名前が出てきてフェンネルは芽依の肩を掴んでガクガクと揺する。
対価だよ、と伝えても、フェンネルには納得が出来ないようでブツブツと文句を言っていた。
それはハストゥーレも同じだったようで頬を膨らませている。
「…………やーだぁー可愛すぎぃ」
『阿呆』
芽依の興味が他人に向かった事で、芽依の可愛い奴隷達はプープーと怒りを表し頬をふくらませる。
そんな我儘な感情を隠すこと無く主人にみせる2人が愛おしいと、芽依は2人をムギュッと抱きしめた。




