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ハンバーグとナポリタンの仁義なき戦い 2


 今日も2人はいがみ合っていた。

 睨み合いギリギリと歯ぎしりしている。


「…………これ、毎回なんですか?」


「毎回だねぇ」


 歪んだ顔をしている芽依の質問に頷く客。

 騒がしいこの日だが、味のいい料理が並ぶ金の日のキッチンカーは魅力的で客足は途切れない。

 この喧嘩さえなかったらと、ため息を吐くのだ。


「………………なんでこんなに仲悪いの」


「昔は仲良かったのにねぇ」


 別のキッチンカーから買ったらしい焼き鳥を食べながら話す女性。

 なかなかにダイナミックな食べ方をしているその人は昔からこの2人を知っているようだ。


「え、そうなんですか」


「うん、あの二人幼馴染だからね」


 この2人の近所に住んでいるらしい女性は、昔から2人を知っているのだとか。

 子供の頃は手を取り合って一緒に遊んでいたらしい。

 今では信じられない過去に芽依は、はぁ……と言葉を濁した。

 今でも2人の言い争いは続いていて、芽依はパチクリと瞬きをする。


「君たち、領主館に苦情が来てるよ、もう何回目かわかっているかい?」


 オルフェーヴルがズカズカと歩いていき2人の仲裁をすると、まるっきり気付いていなかった2人はビクリと肩を震わせた。

 バッ!と仲よく振り返ると、微笑むオルフェーヴルを見て、ヒッ!と声をあげる。

 芽依には背中しか見えない為、一体どんな顔をしているのだろうと首を傾げながら芽依もオルフェーヴルの隣に行き顔を覗き込むが、その時には穏やかな笑みで芽依を見てくれる。


「…………あぁ、騎士さん……悪かったよ」


「まさかその服……領主様付きの騎士なんじゃ……」


 男性が後頭部を掻きながらぺこりと頭を下げ、女性は震える手でオルフェーヴルを指差した。

 街を見回る騎士と領主様付きの騎士の服は違うので、まさか領主様付きの騎士が来るなんてと全身ブルブルと震えている。


「今は騎士が動けないんだ。そんな時にこんな喧嘩で呼ばれるのは困るからな? 」


「……す、すみません」


「ごめんなさい……」


 2人が頭を下げて謝るが、ちらりとお互いを見ると目つきは険しくなる。

 そんな二人を見た芽依は、あー……と声を出した。


「ん? どうした? 」


「今オルフェーヴルさんが来てしおらしくなってますけど、またすぐに喧嘩しますよ。そもそもなんでそんなに喧嘩してるんですか? 」


 芽依が腰を少しおり、オルフェーヴルを下から見上げながら話したあと2人を見ると、言いずらそうに口をモゾモゾとしている。


「おふたり幼馴染なんですよね? 仲良かったって聞きましたよ?」


「……それは昔の事だ」


「今はライバル店よ」


 ふいっと顔を背け合い言う2人に芽依は、めんどくせぇ……と内心つぶやくと、2人を知ってる女性が話に割り込んできた。


「お隣同士のお店なんだけど、昔……いつだったかしら、2人で喧嘩して以来なのよね」



 どうやら、ガヤに昔からある大衆食堂らしく、2人が子供の頃から繁盛していたらしい。

 お互いの父母が元気に仕事をしている姿は何者にも変え難い素晴らしい時間だった。


 そうと言うのも、女性の父母を亡くし14歳で店を次ぐ決心をした女性には、そんな優しい時間は一瞬で消え失せたからだ。

 仲良かった少年と少女はある日を境に顔を見合わせたらいがみ合う関係性に変わってしまった。


 それからは、謝るタイミングを逃しズルズルとこの関係を続けている。

 周りから見れば、あれはお互い初恋だと分かっていたのに、なんて残念な事だろうとため息をついていたらしい。


「とりあえず、気に入らないのよ。うちのハンバーグがこんな麺に負けるなんて」


「俺だってだわ。うちのスパゲティがこんな肉の塊に負けるなんて」


「なんって似た者幼馴染……」

 

「「似てない!! 」」


 この2人、どうするべきなの……と頭を抱えると、1人の客が話し出した。


「そもそもどっちも好きだからなぁ、選べないっていうか」


「わかる、毎回買うの悩むからな」


「時間開けて食べるようにどっちも買うことあるし」


 それを聞いて、芽依は叫ぶ様に言った。


「もう! キッチンカーでは2人でパックに詰めて売ればいいじゃないの!」


「…………どういう事だ? 」


「だから、半々入れてどっちも食べれるようにしたら? それなら喧嘩にならないし、キッチンカーだからこそ出来るんじゃないの? もう大っきいキッチンカー用意して一緒に販売したら? 」


 無理矢理感満載の芽依の言葉を、全員が黙って聞いていた。

 そして、顔を見あわせる。



「………………一緒に?」


「………………こいつと? 」


「喧嘩するくらいなら、同じだけ売ればいいじゃない。 お客さんもどっちも食べれる方がいいみたいだし。喧嘩を見ながらご飯食べさせられるよりよっぽどいいでしょ」


 はぁ、と返事をする2人をとりあえず納得したかな、と無理矢理本日の仕事はおしまい! とハストゥーレと手を繋いで公園を出ていった。



 

 販売者である芽依の出した答えはどうやら受け入れられたようだ。

 アリステアに事業計画が提出され、2台のキッチンカーを大きなキッチンカーになおし、今後は2人で販売するらしい。

 これには客も喜び、金の日は今まで以上の集客に繋がったのだとか。

 まだたまに喧嘩をして客に迷惑をかけるが、比較的穏やかに笑みを浮かべて販売をしているらしい。

 あの子供時代に手を取り合っていた2人が、時間を経てまた、別な形で手を取りあったとお互いの家族や従業員はとても喜んでいたらしい。








 

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