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今年の戻り呪も危険がいっぱい


 今年もあと数時間で終わり新年を迎える。

 昨年に引き続き、大広間には戻り呪を開く為のカーテンで区切られた一角に顔を強ばらせて並ぶ様子が早い段階からみられていた。

 今日中には終わらせないといけないのだからと早くから並び、後は萎びた心を酒と料理で優しく撫でてあげようとドキドキする胸を抱えて並んでいるのだ。


 そんな様子を芽依は13枚の手紙を握りしめて眺めていた。

 ジリジリと後方に下がりたくなる足を叱咤して、1杯景気付けにお酒を飲み干す。

 今回も円卓にはサングラスなどが並び、これから悲鳴をあげて出てくる人が手探りに探し出すのだろう。

 

「………………どうしよう、もうゴミ箱に破り捨てたい」


 ぎゅっ……と真っ白な封筒を握る芽依は、2杯目の酒のグラスを握る。

 美味しいはずなのに味を感じられないくらいに緊張しているのだ。

 勿論、酔える筈がなく、また酒に手を伸ばすを繰り返す。

 そして5杯目を飲み終えた時、隣に人が立ち芽依を見た。


「……飲みすぎだろう」


「セルジオさぁん! 飲まないとやってられません!! 」


 去年の事もあり、芽依はセルジオかシャルドネが来るまで待機命令が出ていた。

 しかしその間に必死な形相で並ぶ人達をずっと見続けなければならず、恐怖がジワジワとくるのだ。

 今回は、メディトーク達3人からこれでもかと守護を掛けられたのだが、自ら対応しなくてはいけない芽依は必死である。

 どうしても保護者同伴で入らなくてはいけない赤ん坊や幼児のようにメディトークにもお願いと頼んだのだが、見た目年齢の魔術に引っかかる為それは出来ないのだとか。

 シャルドネが過去の文献をさらってくれたのだが、そこにも大人が2人で入る事は記されていなかったようだ。

 推測として書かれていたのは、2人分の呪いが一気に来て、むしろ死亡事故が起きるのではないかという内容に、アリステアからやめてくれと懇願されたくらいである。


「死にはしない。メディトーク達から守護魔術を掛けられているんだろう?」


「そうですけど……ぐうぅぅ」


「唸るなよ」


 6杯目の酒に手を伸ばしたが、流石にそれは止められた芽依は美味しいお酒を心のままに堪能できず、それにもイライラとしてしまう。

 早く終わらせたいけど、またあの恐怖に立ち向かうのかとガクガク震えてしまいそうだ。

 それくらい、去年の戻り呪の衝撃が今でも忘れられない。


「…………行くか? 」


「嫌な事は早く終わらせるべき……行ってきます!! 」


 芽依は、セルジオの声に背中を押されて歩き出した。

 丁度シャルドネもこちらに向かってくるのを見たからこそ、セルジオが促したのだ。


「……大丈夫でしょうか」


「大丈夫だろう、戻り呪用の魔術防御の重なりは凄かったぞ。良くあれだけ重ねて喧嘩しないように調整してる」


「まあ、彼らが居ますからね。頑強に守りを固めるでしょう……私達には出来ないことですから、羨ましいですね」


「…………」


 芽依に重ねられた幾重にも連なる魔術は戻り呪が終わると飛散されてしまうが、それ用にメディトーク、フェンネル、ハストゥーレの3属性が完全に芽依を抱えるように守りの守護を与えていた。

 個人に向けた守りの守護は相手を殺さないための愛を交えた守護。

 それは、確かな繋がりのある相手からしか与えられない特別な魔術だ。

 外装を守る為の物ならセルジオでもシャルドネでも出来るが、体も魂も守る為の深部まで届く守護は、奴隷契約という魂の繋がりがあるフェンネルとハストゥーレ達にしか出来ない。

 あとは、夫婦や親子、兄弟姉妹という家族間の繋がりにもそれは該当する。

 芽依とメディトークはすでにお互いが家族相当の存在だと認識している為、それがギリギリ魂で紐付けられている状態だと今回の守護の際に気付く事が出来た。

メディトーク単体では魂まで侵食するほどの守護は与えられないが、フェンネルとハストゥーレを重ねる事でそれを可能にする事ができ、メディトークは安心して頭を項垂れさせる一幕があったのだった。


あと、他にももう1つ方法はあるが、それはあまり推奨されていない血を持って繋がる方法である。




 芽依はずらりと並ぶ最後尾に立った。

 前には美しい妖精がいたが、芽依をチラリと見てから直ぐに目をそらす。

 人外者の好き嫌いはハッキリキッパリとしていて、それはひと目見て直ぐにわかってしまうようだ。

 美しい女性の妖精は、どうやら芽依を好ましくは思わなかったようだ。

 こういった人外者からは、ズバンと切られても仕方ないといった認識なので芽依は常に相手の様子も見ながらの対応を余儀なくされるのだが、流石にカテリーデンで慣れてきたし、領主館で移民の民をズバンとする人はいない。


 頑張るんだ、大丈夫だと自身を奮い立たせている芽依。

たまたま後ろに来た妖精と話す為に前の妖精が振り返った時、芽依のふーふーと息をする様子にあからさまに嫌そうな顔をされた。

 見下される冷たい眼差しから放たれる整った顔面偏差値の高い妖精からの攻撃力は高く、芽依はしゅんとしながら静かに自分の順番を待つ事にしたのだった。



 分厚いカーテンが重なり合い、2度目ましての真っ暗な室内で13枚の手紙を見る。

 これは1年のうちに溜め込んだ芽依の負の感情からくる呪いだ。

 重たい空気の中、その手紙をそっと開いた。


 ぶんっ……


「ぎゃん!! 」


 どこからともなく飛んできて後頭部に当たったのは、まさかのさつまいもだった。

 はっ! と目を見開きさつまいもを見るとそれは消えてしまい、残ったのは後頭部のコブとズキズキする痛みだけだった。


「……痛い」


 スリスリと撫でるが、これもしっかりと防御魔術は発動している。

 もし外にいてこの豪速球なさつまいもが頭に当たっていたらコブどころではなかっただろう。

 パァン! と音を鳴らして当たったさつまいもはやる気満々だったのだ、あやうく頭が弾け飛ぶところである。

 戻り呪である為死にはしないのだが。


 それから芽依の開く手紙から飛び出すさつまいもは6回連続となり、頭を目掛けて来るため途中から大根を召喚してフルスイングすることにした。

 しかし、それならと今度は枝豆の連続遠距離発射が芽依を襲う。


「痛い痛い痛い痛い!! 」


 今度は桂剥きで防御するが、結構被弾して皮膚を赤くし痣が出来る。

 さつまいもは作りたい為に無闇に量を増やしてじゃがいもだらけにしたから、怒りに荒ぶっているのだろうか。

 枝豆鉄砲の合間から飛んで来る豪速球なさつまいもが顔面にヒットしてバタリと仰向けで倒れた。


「…………大丈夫?顔ある?潰れてさよならしてない……?」



 痛みにうめいた後、芽依は顔を触って確認してから息を吐き出した。

 手紙13枚のうち11枚がまさかの野菜攻撃とは、どういう事だと起き上がり、残り2枚の手紙を見た。

 また野菜かな……とため息を吐く芽依の予想を裏切る呪いが返ってくるのは、この後すぐの事だった。

 








 

明日の更新はおやすみとなります。


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