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お弁当製造


 一日が終わりホッ……と息を吐き出した芽依は、ベッドに転がりながらふくよかな香りに包まれる。

 どうやら布団に炊かれている香りが変わったようで、甘やかな香りから爽やかな香りに変わっていた。

 ホカホカの体と馨しい香に眠気が襲いかかってくるのだが、芽依にはまだやることがあった。

 

「うん、やっぱりこのままじゃだめだよね」


 芽依は箱庭から見る自動販売機を見た。

 朝に並べたのはワインや乳製品に肉類。

 以前は売れ行きが良かったのだが、野菜が買えない為に料理が偏っていて、前よりも作らなくなったと自動販売機をよく使うお姉さんたちが言っていた。

 肉だけだと油っこくなり、食欲減退している。

 しかし生命維持の為に食事をしなくてはいけないし作り続ける必要がある。

 だから最近はパンのみや、麺類を食べることが多いのだとか。


「このままはまずいよねぇ」


 うーん、と両手をだらりと垂らして天井を見上げた。

 偏った栄養により体調不良者は後を絶たず、子供や年寄りは少しずつ気力が奪われ衰弱してくる者もいる。

 他国ほど深刻ではないが、このドラムストも疲弊してきているのだ。


「せめて何かすぐに食べれるもの……」


 前のように料理キットで売り出すには禁止されている野菜を入れる事が出来ない。

 それならばいっその事。


「作った物を売ればいい」


 起き上がり箱庭をもう一度見た芽依。

 メディトークが作った作り置きのストックが沢山あり、更にまだ増えている最中である。

 野菜そのものは売れないが、作られた物、即ち惣菜なら売れる。


 以前にも話した通りに工場がない為大量に売ることは出来ないのだが、限定で売り出すことは出来るだろう。


「…………あれ、これなに?定食製造……?」


 新しくピコピコと光る場所を見付けてタップすると、浮かび上がる数種類の弁当箱に個数と一日の使用回数。

 そして、メディトークやフェンネル、ハストゥーレが作り置した料理の種類に残量が書かれている。


「…………これって」


 試しにパンにハンバーグ、スパゲティとポテトサラダを押すとハンバーグ弁当! とピコンと表示され、その隣に1と個数が出る。


「………………わーお」


 一日20回と書かれているため、箱庭のお弁当作りは20食分出来るらしい。

 ハンバーグ弁当を作ったから残り19回である。

 時計を確認すると、日付変更まで残り20分をきっていた。

 芽依は慌てて箱庭に向かい合った。


「………………よし。」


 こうして、残り20分の戦いが始まったのだった。


 作ったのは闇市で大量購入した大ぶりの焼き魚が入ったのり弁当。

 海苔はメディトークが買ってあったのを目ざとく見つけた芽依が使ったのだ。

 鮭と鯖2種類で、キンピラやポテトサラダ、ピーマンと那須の煮浸し、しそつくねに厚焼き卵。

 まだ入りますと出る箱庭に合わせて、一番下に敷き詰められたお米と海苔の上に行儀よく乗せられたお弁当の皆様。


 そして、甘辛く味付けされた肉巻きベーコンをメインにした野菜中心のわっぱ飯など様々な弁当を作り20分が経過した。

 残り1個余ってしまい時間切れになったのは残念だが、おかげで美味しそうなお弁当が19個出来たのだった。


 

『……よしメイ。ここに座れ』


 芽依が大人しく指を指した先であるメディトークの足に座る。

 寒さが一段と強い今日、マフラー代わりに巻きついている蛟がチロチロと舌を出しながら一緒にメディトークを見上げた。


『これはなんだ』


 朝恒例となっている自動販売機の確認をして、いざ弁当を出し決定を押そうとした所、後ろからメディトークに頭を掴まれた。

 そのまま見上げると、後ろから箱庭を覗き込むメディトーク。

 

 足に座らせたまたまま尋問となるようで、首に巻きついている蛟をペっ! と引き剥がしたメディトークは芽依とのお話タイムとなった。


『…………なるほどな』


「自動販売機の売れ行きが悪いから、この新しく出来たお弁当製造で作ったのを売ってみようかと思って」


『……まあ、悪くはねぇな』


 ピコピコと箱庭を動かし弁当の作る画面を触るメディトーク。

 一日20個限定だが、悪くは無いと頷く。

 どうやら日付が変わるとリセットされるようで、残り1個は消えていて今は20個作れると表示されている。


「………………野菜をそのままには売れないけど、これなら作る気力が落ちていてもすぐに美味しく食べられるから良いかなって」


 チラリと見上げた芽依の頭を撫でたメディトークはそのまま箱庭を見て何やら操作をしているので、座り直してメディトークの胸あたりだろうか、寄りかかり雪が積もった庭を見渡す。


 芽依の庭の8割は既に今作っているもので埋まっているのだが、フェンネルの庭はまだまだ余白がある。

 更に芽依の備蓄部屋の第2の庭にもまだまだ余白があり、庭を広げることは可能だろう。

 芽依は、肝心の米である稲の作業が出来ていない。

 シロアリ被害があり、シャリダンの方に頼んでいる稲がまだ入手出来ていないのだ。

 弁当に入れたのも芽依がシャリダンの方経由で頼んでいた備蓄からである。


 芽依の知る米の作り方は水田だ。

 芽依の庭の残り2割で作るか、第2の庭で作るか、フェンネルの場所もあるがフェンネルの資質で庭は常に冷気を纏っているので、冷えた水に稲はどうなんだろうと、まだ決めかねている。

 稲が届くのは来年以降のようだから、それまでに何処で植えるか決めておかねばと、芽依は意気込んだ。


『メイ、これを自動販売機で売るんだな?』


「うん……まずい?」


『いや、カテリーデンよりいいだろう。対面だと問題も起きそうだしな』


「…………問題はいやだなぁ」


 こうして、1日限定のお弁当販売が開始した。

 今あまり見られない野菜も含まれた弁当に、自動販売機付近で働くお姉さん達は目の色を変えて自動販売機の入れ替えに注視しているのだとか。

 予め、メディトークから問題が起きた場合は販売中止にすると言われているため、当日の購入者達は厳かにジャンケンをして購入している。

 

 

 

 

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