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蛟の捕獲


 数日前の事、魔力を探知出来ない芽依は気付かなかったのだが、森から急激に膨れ上がる魔力を感知したらしい。

 メディトーク達が一斉に立ち上がり、同じ方向を睨み付けていた時があったからその時なのだろう。


 その魔力がうねり、森から広範囲に広がり大事な魔道具や魔術具を壊して大変恐ろしい状態になったようだ。

 街を守る魔術の核となる魔道具や魔術具を尽く破壊して、一時ドラムストは完全な無防備の状態となった。


 隠居した騎士や魔術師、シャリダンの力自慢も一斉に現れ駆り出される出来事となり、芽依は庭から1歩も出る事を許されない状態となった。


 そんな芽依がシャルドネと森に行き採取する幻のきのこは、破壊された魔術を根本から立て直す為に必要な材料の1つらしい。

 少ないきのこなのに、その利用価値は高いので芽依自らが取りに向かうことになったのだ。


 手鏡で通信したアリステアも、壊れた領主館の魔術を根底から支える石版が壊れた事で修復に力を注いでいるのだ。


 そして、ドラムスト全体を守る魔術結界が壊れた事により、外部から野生の幻獣が街に入ったり、悪意ある人外者が来る可能性がある為、騎士や魔術師は昼夜問わず街や領主館を駆けずり回っていた。


 そしてその原因は、今目の前にいる縄でグルグル巻きになった巨大なミミズモドキの蛟であるのは明白だろう。


「………………で、どうすればいいんでしょうか」


「そうですね……貴方、空腹なんですよね」


『うん、私お腹空いた。貴方食べていいの?』


「シャルドネさん食べるなら容赦なく串刺しにするよ」


『それは嫌だなぁ』


 クネクネしながら盛大な腹の虫をならす蛟に、シャルドネは少し考えてから芽依を見た。


「直ぐに戻ります、お待ちくださいね」


「え? ……あ、シャルドネさん……」


 ふわりと笑ったシャルドネが芽依の腕を撫でてから転移したようで、取り残された蛟がウニョウニョしながら見つめてきた。


「………………えーっと、私も食べれないよ」


『そうかな、貴方程美味しそうな人いないよ。ちょっとだけ味見していい?』


「…………ちなみに、どうやって」


『頭だけ丸かじり?』


「死ぬわ!! 」


『えー、軟弱ー』


「頭無くなったら誰だって死ぬよ?! 」


『……えぇ、私頭ちぎれたくらいじゃ死なないよ?』

 

 おかしいな?と首を傾げる蛟に芽依はクラリと頭が揺れる。

 それは正しく土の中でウニョリウニョリと動くミミズの生体ではないか。


「普通は死ぬの、いい? わかったかな? 」


『……わかった』


 雪景色の中にまるで映画のような巨大な蛟はウニョウニョと動くつるんとした頭を上下に揺らした。

 しかし、完全に納得していないのだろう頬に空気いっぱい溜めてシュッとした顔がまん丸になっている。


「お待たせしました」


 ふわりと芽依の斜め後ろに現れたシャルドネに芽依は見開いた瞳で抱えられている幻獣を見た。


「……それは」


「餌ですよ」


 肩に乗せるように持ち運ばれた巨大なイノシシに似た幻獣。

 身長は高いが細いシャルドネだが、メディトーク程ある巨大なイノシシモドキを軽々と運んで来て芽依はポカンと口を開けた。

 生きてはいるのだろう、目がグルグルしている。

 それを見た蛟は目を輝かせてヨダレを垂らし舌をチロチロとしている。

 やはり、見た目は大蛇だ。


『た! 食べていい?! 食べていいの?! 』

 

「ええ、どうぞ」


『いただきまぁぁぁぁんぐ』


「……………………え」


 メディトーク程の巨大なイノシシを見た蛟は、絡まったままビタンビタンとジャンプして、シャルドネの許可が出た瞬間、ガコン……と音がして口を開いた。


「ええぇぇぇぇ…… 」


「これはまた……」


 蛇のように顎の骨を外したのだろう、ガバリと開けられた口に吸い込まれるように幻獣が入っていく。

 一切噛むこと無く丸呑みした蛟に顔が引きった。

 先程味見で頭を……と言っていたが、味見どころか一呑みでは無いか。


『……うん』


「不満そう!」


『味が微妙だし、足りない』


「……足りないんだ」


 カクンと頭を下げた芽依に首を傾げてチロチロと舌を出す。

 見た目ミミズなのに、舌が蛇みたいだ。


「体のサイズ的に足りそうなのに」


『2割くらいしかお腹いっぱいなってないよ』


「嘘でしょ?! 」


 底なしかよ……と頭を垂らす芽依に首を傾げてチロチロする蛟。


「……困りましたね、このまま放置して放っておくのも危険ですが、連れ帰るのも難しいですし……今の状態でこの食事量も問題です」


「せめてもっと小さければ持ち運びが楽なんですけど、難しいですよね」


 芽依がシャルドネを見上げて言うと、蛟は首を傾げて芽依を見る。


『小さくなればいいの?』


「え? なれるの?」


『……………………これくらい?』


 ふわりと柔らかな風が吹き、一瞬で体が小さくなった。

 グルグル巻にされていた縄から抜け出して地面に着地した蛟のサイズは芽依の腕よりも少し長いくらいで、太さも立派な大根程である。


『……あれ、縄から出れた』


「のんびりか!」


 ニョロニョロと動き芽依の前に来た蛟は首を左右にユラユラさせながら芽依を見上げ、足を伝って上がり首に纏わりつく。


「うわぁぁぁぁぁ! 」


『……うん』


「うんってなに……」


「……まあ、いいでしょう」


 これで一応確保となった蛟。

 元は調査のみだったが、調査対象を連れ帰れるなら問題は無い。

 芽依の依頼通りに収穫して3倍になった幻のきのこを籠にいれて領主館に戻る事になったのだった。


「ではメイさん、行きま……」


「んぐぐぐぐ……」


「やめなさい!! 」


『……甘噛みじゃない』


「頭丸ごと口に入れる事を甘噛みとは言いません!! 」

 

『けちー』


 芽依の首に巻き付いた蛟は舌をチロチロしながらちょっとあむっとしただけなのになぁ、と呟きながら、大人しく転移されていった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] また変な生物が増えましたね。 大食漢でもメイさんの箱庭ならなんとかなりそう。 あ、でもミミズが肉食なら進化しても肉食のままかな? それなら厳しいかなー。でも牧場もやってるしなんとかなるかな…
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