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シュミットという精霊


 カナンクルのミサにあるまじき事件が3つ重なった。

 ひとつはシロアリの被害によって腹部に卵を植え付けられたミチル。

 

 シロアリによる呪いの効果であり、伴侶であるレニアスが体調を崩しだした半月前に対処するべきで事であった。

 ミチルの体調を気にするが対処をしないレニアスの怠慢が今回を招いたとして、アリステアと話をしたレニアスは泣きながら謝りメディトーク達にも謝り倒していた。

 ミチル自体の体の状態はツルが体内に残っている事も含め、シロアリの卵があったのでこれから詳しく調べられる事になる。


 2つ目はシーフォルムの祈り子による移民の民の集団強奪。

 これについては祈り子自身に悪いという意思は微塵もなく、シーフォルムの掟にそって移民の民はシーフォルムに居るべきと行動に移したようだ。

 この件については後日、シーフォルムから連絡が来て諸々の対応をする事になる。

 今はミサの途中であり、一般人は端に身を寄せているのだ、放置は出来ない。

 すぐさまシーフォルムに連絡がされ、祈り子と司祭の監視を行ってもらい強制送還となる。


 元々ドラムストのミサには去年に引き続き祈り子として訪れるのはカゲトラだけであった。

 そこにアデラーシュが無理やり着いてくる状態だったのだそう。

 カゲトラには会場入りしてから会いに行ったようで、カゲトラは驚きシーフォルムの本拠地がある教会に急ぎ連絡をしているのだが、他の地域にもミサを行っているので手が離せないとの答えであった。


 アデリーシュもドラムスト含むここら一体の担当ではあるが、今日、別地域のミサに出席予定だったはずとカゲトラは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。


 さらに、今目の前にいる精霊、シュミットは人に心を寄せない仕事を楽しむ精霊である。

 そこはかとなく仄暗い笑みを浮かべて容赦なく相手を手玉に取り報酬をもぎ取る。

 その代わり、相手の望む物を提供する数少ない闇の最高位精霊である。


「………………シュミットさん」


「なんだ」


 やっと本人の名前の確認が出来た芽依は、にっこり笑って服を見る。

 口には出さないが、パンダのパジャマももふふわで可愛いとニヤニヤしていると、片眉を上げて見てくる。


『…………メイ、助けられたなら対価は渡すべきだが……コイツは何を要求するかわからん』


「……頼んでいない事でも対価は発生するの?」


「それが命に関わるものや、相手……つまりメイちゃんにとって必要な事だったら例えシュミットが頼まれていなくても対価は発生しちゃうんだよね。もうー、シュミットが相手なんて、メイちゃん厄祓いした方がいいかな……」


「おい、厄とはなんだ厄とは」


 失礼な反応をするフェンネルに不機嫌になるシュミット。

 今みんなで壊された大広間の中を片付け、食事の準備をしているのだ。

 芽依達が此処で話を続けるには不釣り合いだろう。

 何より並び出した酒に意識を持っていかれそうになる。


「………………そうだな、今お前が所持している1番品質が良く極めて希少な物はなんだ」


「………………大根?」


「それはやめとこっか!」


 慌てて止めるフェンネルに、うぅん……と悩み箱庭を出す。

 そして指を滑らせてピタリと止まった。


 メディトークとフェンネルに挟まれ後ろにハストゥーレがいる完璧な布陣に居るのに、気付いたら隣にシュミットが居て腕を組んで覗き込んでいる。


「………………ほぉ、枝豆か」


「わぉ!びっくりした!いつの間に!!」


「ほんっと、気付かれないように近付くの上手いよね!」


 フェンネルが慌てて芽依の腕を掴むと、芽依は高身長のシュミットを見上げる。


「これどう?一応枝豆の妖精がくるのなんだけど」


 箱庭をタップして取り出すと、束になった枝が現れる。

 それに周りがざわりと騒がしくなった。

 枝豆の妖精が現れ生き残った幸運の枝豆は、鮮やかな緑色をしていて祝福が煌めくのだ。

 希少価値のある枝豆は甘く美味しく、食べてから1週間は全ての料理が美味しく感じる祝福付きである。

 祝福内容は料理下手な人にとってはどうにかして手にいれたい魅力があるが、何より美味しいのだ、物凄く。

 そして、野菜不足の今、取り出されたツヤツヤの枝豆に周囲の人達はゴクリと生唾を飲んでいる。


「………………良いな色艶が良く大ぶりだ。もう無いのか?」


「え?まだあるけど……」

 

「出せ」


「強奪?!」


 ええぇぇぇ……と言いながらも素直に出す芽依を静かにメディトークが見ていた。

 更に枝豆で作ったずんだ餡が乗った餅がパック詰めされているのも渡しているのを見てため息を吐く。


『…………メイ』


「はぁい?」


『こっちこい』


「ん?」


 振り向き箱庭をしまった芽依がメディトークの前に行くと、足で顎を抑え上を向ける。

 ジッと芽依を見るメディトークにシュミットはため息を吐いた。


「何もしていない」


『……そうみたいだな』


「今回は負けといてやる。いいか、もう来るなよ」


 芽依を指さして言うシュミットの言葉を聞き振り向いた時にはシュミットの姿はなくなっていて、そこにいた痕跡は一切残っていなかった。


「メイちゃん、気を付けてね。シュミットは決して優しい精霊ではないから。取引に対価を払わないで形をなくした人間や人外者は数多いし、言い方は荒いかもしれないけど、能力や交渉術、頭の回転が早いから懐に入るのが上手いんだ」


「…………懐に入るのが上手い」


「うん、メイちゃんシュミットに嫌な感じとか不快感はあった?」


「なかった……むしろ」


「穏やかな気持ちになった?」


「…………うん、どうしてだろう」


 会ったのは今回を含めて3回、そのうち初回は殺そうと考えるくらいだったシュミットなのに、彼に対しての不快感や恐怖心は一切なかった。

 むしろ好意的で、メディトーク達同様に聞けば何でも教えてくれるような感じすらしたのだ。


『セルジオと同じくシュミットも闇の最高位精霊だが、その性質は違う。穏やかでいて他者を静穏に導き意のままに動かす……だからこそ、初対面のシュミットに好意を寄せるヤツが多い。不快感を抱かせる前にシュミットの手のひらの上で踊らされる』


「それも行き過ぎたら魅了に近い呪いになりかねないんだ……だからねメイちゃん、あまりシュミットには会わないでね。彼の言葉を真っ直ぐに聞いちゃだめだよ」


 芽依の両手を握って話すフェンネルに眉を下げて頷いた。

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