白の奴隷と白の奴隷と犯罪奴隷
今回この場にいるのは、アリステアにギルベルト、アリステア付きの騎士が2人に芽依とフェンネルにハストゥーレ。
そして、見た事のない女性である。
その女性にも首に奴隷紋があり、それはハストゥーレと同じく白だった。
このギルベルトは、白の奴隷をハストゥーレ含めて4人所持していたようだ。
基本的に一番のお気に入りだったハストゥーレを連れ歩いていたが、今は芽依のものとなったので別の白を連れ歩いているらしい。
クッションに埋まるように座る芽依の両隣に座るフェンネルとハストゥーレ。
何も言われずとも甲斐甲斐しく芽依の世話をするハストゥーレに、ギルベルトは口をとざす。
白の奴隷は無垢であって従順。
逆を言えば、命令をしなければ動くことは無い。
だが、これはどうだろうか。
目の前にいるハストゥーレは自ら動き、主人である芽依にお伺いをたて、嬉しそうに笑っている。
口の端を上げて美しく微笑む以前とは違うハストゥーレの姿は、収穫祭でも見たはずなのに、長い事そばに居たはずのハストゥーレが知らない人のようだ。
「…………ギルベルト、座ったらどうだ」
「……ああ、そうだな」
靴を脱いで、わざわざハストゥーレの隣に座った。
長い髪を今日は解いていたハストゥーレの髪を踏み座るギルベルトは、黙って芽依を見ていて気付いてはいないようだ。
「………………ねぇ、ハス君の髪、踏んでるんだけど」
引っ張られる髪に小さく眉を寄せたハストゥーレに気付いたフェンネルが注意を促すと、芽依はすぐさまギルベルトの足元を見る。
「ギルベルト様!足を上げて!!」
「あ……ああ」
くわっ!と目を見開き声を上げた芽依に、ギルベルトは押されたように足を浮かす。
膝立ちになって、ハストゥーレの髪を回収した芽依は、すぐに髪の確認をした。
綺麗でサラサラな髪があの重さに踏まれたら傷付くかもしれないし、頭皮にダメージがいきそうだ。
髪を見た後、頭を確認する芽依にハストゥーレは顔を赤らめる。
「ご主人様、あの、大丈夫です」
「まって、ちゃんと見てから」
「いえ……あの……」
「芽依ちゃん、僕も見る」
フェンネルも参戦。
実は、フェンネルとメディトークも含めてツヤサラなハストゥーレのロングを守ろうと、日々ヘアケアをしているのだ。
お陰で美しいロングヘアは動くだけでツヤが煌めく。
スーパーロングヘアにしてツヤサラを維持すると意気込んでいるのは芽依だけではないのだ。
「………………うん、大丈夫だね。仕方ない、結ぼうか」
髪に触れながら言うと、すぐさま櫛やゴムを出すフェンネルはサクサクとハストゥーレの髪を結ぶ。
自分の髪は芽依にさせるが、ハストゥーレの髪は最近メディトークとフェンネル交互になってきている。
「…………よし、ロング三つ編み」
「かっわよ!!」
崩れ落ちそうになりながらフェンネルの肩を叩く芽依は、立ち尽くしている女性を見上げた。
「お姉さんも座って、疲れちゃいますよ」
淡く微笑んでいる女性は一切言葉を発しない。
ギルベルトと共にいたハストゥーレでさえ、ギルベルトのご乱心から芽依を守り話をしていたのに。
その少しの自由もギルベルトから事前に許可を与えられていたからなのだが。
この女性は、そんな許可は一切ないようだ。
「…………座れ」
「畏まりました」
ギルベルトからの許可が出て、やっと座ったのはギルベルトの斜め後ろだった。
芽依はフェンネルと顔を見合わせるが、これが通常の白の奴隷なのだろう。
ハストゥーレとは全然違う、これが、白。
差し出された軽食や飲み物に微笑み頭を下げるだけの女性が不憫に思う。食事すら、許可が必要なのだ。
芽依は自分の大好きな白の奴隷を見ると、珍しく暖かな紅茶を両手で持ち、冷ましながら飲む可愛らしい姿に悶えた。
具沢山のサンドイッチをハストゥーレの口元に持って行くと、コクリと紅茶を飲み込んでから芽依を見た。
ちなみに、サンドイッチは何故かフェンネルが持って来ていたのだが、多分メディトークの仕業だろう。
あのイケてる蟻はやるヤツなのだ。
ハストゥーレは、サンドイッチを受け取るのではなく、芽依の手に手を添えて口をつけた。
「どこで覚えてきているの!そんな高等テクニック!!フェンネルさん?!」
「僕じゃないよ?!あれ絶対天然だって!ハス君が言われてやるなら絶対真っ赤になってるはずだもん!」
「……………………たしかに」
「お前たちは本当に仲が良いな」
同じ白を持つ奴隷なのに、こんなに2人は違う。
さらに、そんな奴隷の傍には騒がしくも笑顔が弾ける犯罪奴隷がいる。
普段は虐げられ、体罰すら日常的に起こる犯罪者として位置付けられる奴隷が、主人と戯れているのだ。
ドラムストでは見慣れたこの光景に、ギルベルトは夢でも見ているような感覚に襲われた。
「……………………これは、いつものこと、なんだな。ハストゥーレがあんな表情をするなんて」
「メイはハストゥーレもフェンネル様も、奴隷ではなく家族として接している。メディトークもいるあの場所は、2人には居心地の良い居場所になっているみたいだ」




