アリステアからの呼び出し
カナンクルもあと数日で迎える。
今日は雪が降っていなくて、暖かな日差しがある過ごしやすい日だ。
そんな過ごしやすい日に、領主館では問題が起こっていたのだが、庭に来ている芽依は知る由もない。
今日もまだまだ落ち込んでいるハストゥーレの傍で作業中の芽依を慌てて駆け込んできた騎士によって、その事実が知らされたのだった。
ピンポーンピンポーンピンポーンピピピピピンポーンピンポーンピンポーンピピピンポーン
「…………いや、連打しすぎじゃない?」
庭に響く訪問の合図に芽依は顔を上げる。
ハストゥーレも同じように顔を上げて首を傾げた。
「………………誰でしょうか、見てきます」
「あ、フェンネルさんが行ってくれたみたいだよ」
あまりの連打に気になったのか血が着いたエプロンを着用中のメディトークも出てきて向かっていった。
ハストゥーレを連れて歩いて行くと、そこには慌てた様子の騎士が3人いてフェンネルと何か話しをしているようだ。皆顔色が悪い。
「えーっと、ちょっと待ってよ。少し落ち着いてくれる?」
「落ち着いていられません!食い尽くされてしまいます!!あぁぁぁ!移民の民の方ぁぁぁぁぁ!!見つけたぁぁぁぁ」
「……………………はい?」
ぐりん!と顔をこちらに向ける騎士達に見覚えはない。
お使い要員として来たのだろうか?気になるであろう庭の様子すら見ることなく、フェンネルに詰め寄っていた3人の騎士が芽依を見つけ、血走った目を向けてくる。
ビクリと体を揺らすと、ハストゥーレがピリピリしはじめて前に出てきた。
「………………ハス君大丈夫だよー大丈夫だよー」
落ち着かせるように目の前の背中を撫でてから、顔を出した。
「あの、なんですか?」
「領主様より今すぐ来てくれとの事でございます!!お願いいたします!お願いいたします!!」
何度も頭を下げる3人の騎士にメディトークはフェンネルを見た。
『ここはいいからよ、2人はメイについて行ってやれ』
「うん、なんか深刻な感じかな」
「転移門で行きますので…………みなさんどうします?一緒にきますか?」
「いえ!我々は歩きで領主館に戻ります。移民の民の方はいち早く領主様の元へお願いいたします!!」
「は…………はい」
あまりの迫力に、2、3回頷きメディトークを見上げると、メディトークはフェンネルに何かを話していた。
フェンネルも頷いて答えているので、何かあるのだろうか。
「……じゃあ、メイちゃん。領主館に行こっか」
「うん、わかった」
「ご主人様……あの……」
不安そうに芽依の服をチョイ……と引っ張ったハストゥーレに笑いかけると、フェンネルが芽依の手を取り優しく握る。
「ハス君行くよ。ほら、メイちゃん離して」
「あ…………はい」
しゅんとするハストゥーレは置いていかれると思っているようだが、フェンネルが首を傾げてハストゥーレを見ている。
「…………ハス君なに俯いてるの?早く行こうよ……もしかしてハス君、僕に手を引いて欲しいの?流石にハス君でも男と手を繋ぐのは嫌なんだけどなぁ」
渋々逆の手を差し出すフェンネルに目を見開いたハストゥーレは、数回瞬きをしてからフェンネルの手をパチンと小さく叩いてから、空いている芽依の手を掴んだ。
「あー、叩いた!」
「わ、私だって、フェンネル様と手を繋ぎたい訳ではありません!」
「メイちゃんとは繋ぎたいって言うの?」
「そんなのは当たりま……え…………」
何を言いかけたのか気付いたハストゥーレは、語尾を小さくしながら顔を熟れたリンゴのように真っ赤にした。
「………………ふぅぅん、繋ぎたかったんだ」
「あらやだ、可愛らしい可愛らしい」
『…………お前ら、遊んでないではよ行け』
3人の頭を優しく足で叩いたメディトークに、へへっ!と笑った芽依とフェンネルは転移門まで歩き出した。
「なんの用だろうね?」
「さぁ、あの騎士たち何言ってるかさっぱり分からなかったんだよねぇ」
「うーん、困ったねぇ」
結局、真ん中に移動させられて2人に手を繋がれて歩くことになったハストゥーレは、こそばゆい感情を抱きながら、チラチラと芽依、そしてフェンネルを見ていた。
アリステアはどうやら、いつもお仕事で使う執務室にいるようだ。
相変わらず忙しそうに歩く領主館で働く皆さんを見送りながら、足早に向かっている途中、なぜか地響きを感じ始めた。
「………………あれ、なんか揺れてない?」
「うん、揺れてる」
「しかも、アリステア様の方に行くと余計に……揺れてるよね?」
「…………この揺れは」
眉を寄せてハストゥーレが呟くと、両端から見つめられた。
「…………巨人が歩く時に起きる地響きに似ております」
「……………………えぇぇぇ、領主館に来る巨人の人ってギルベルト様しか知らないんだけど」
それはそれで面倒そうだぞ、と思いながら執務室についた芽依はノックをするが聞こえていないのだろう、返事は無い。
「………………開けていいのかな」
「いいんじゃないかなぁ」
フェンネルの肯定を聞いてから、すみません、開けます……と心の中で謝罪した後開けると、そこには予想外の惨状があり、芽依は膝から崩れ落ちたのだった。




