美味しいフローズンヨーグルトケーキ
ハストゥーレの不安感はまだ落ち着かない為、細心の注意を払いながら買い出しに出掛けて無事に帰宅。
そしてさっそくケーキ作りに取り掛かる事にした。
「ご主人様、ヨーグルトケーキを作るのですよね」
「うん、まずは何もしないヨーグルトで作ってみようかな」
ずらりと並ぶ食材を見てから、芽依は作業を始める。
エプロンをして手を洗い、いざ!と開始するが、とことん料理スキルを持たない残念さをここでも発揮する。
「…………あ」
砕いているビスケットが飛び散り、ほぼ床に落下。
「………………ああ」
溶かしたバターを混ぜ合わせる時に、固まった生地がボールから飛び出す。
「……………………あ!!」
固めるためのゼラチンを溶かしている時、零してコンロの火を消す。
ベタベタになるので、慌ててハストゥーレが後片付けをした。
「……………………ご主人様、私が作っても宜しい、ですか?」
「……是非にお願い致します……」
大人しくヨーグルトを手渡す芽依に、穏やかに微笑んだハストゥーレが頷いた。
「はい、喜んで」
そうして、芽依が作るよりも何倍も良い手際で言われた通りにヨーグルトケーキを作ってくれるハストゥーレ。
甘さの分量などは、今はとりあえずこれくらいだろうか?と目分量ではあるが食べられない味にはならないだろう。
たまたま用事があり立ち寄ったフェンネルにケーキを冷やしてもらい、時短を手に入れた芽依はケーキを切り分けて3人で味見をする事に。
「………………あ、美味しい」
「ごめんね、冷やしすぎたよね。所々シャリシャリしてる」
「フェンネルさん、私のもう少し凍らせてくれるかな?」
「え?凍らせちゃうの?」
「うん………………うん!フローズンケーキ!美味しい!!ほら、あーん」
「………………あ、本当だ。これいいねぇ、溶けたあとは食感が変わってプルンプルン。これはこれでいいかも」
「はい、ハス君もあーん」
「は…………はい」
「………………………………女子力ぅぅぅ」
芽依の差し出したケーキを食べたハストゥーレは、髪が落ちないように抑えながら小さな口を開き、芽依のフォークに刺さるヨーグルトケーキを食べた。
目を伏せて、口に手を当てモグモグする姿はまさに美少女かと言う程の女子力の塊だ。
そんな姿に打ちのめされる、性別女性の芽依は完全に敗北している。
「今回のカナンクルのケーキ?」
「うん。でもこれだけじゃ味気ないよね」
「………………二層にしてはいかがでしょうか?別のお味のヨーグルトケーキを重ねて」
「いいね、輪切りにしたフルーツを間と上に入れたら華やかにならないかな?」
2人がじっとケーキを眺めながら案を出す。
ヨーグルトは果物と相性いいしね、とフェンネルが言うと、ハストゥーレも頷いていて。
顔を突合せて、ヨーグルトケーキのレシピを話し合う2人は、やっぱり私の天使に違いない……と満足そうに何度も頷いた。
こうして、ヨーグルトケーキの上にイチゴ味のヨーグルトケーキを合わせる事が決まった。
一番上と、間に様々な輪切りのフルーツを入れ、切り分けると断面が美しい層になる。
これを3人で試作して、当日までに限定300個を作る事に成功するのだ。
ちなみに、芽依の大切なもう1人の天使用にはぶどう尽くしのケーキが別に作られていて、特別感が漂っている。
ハストゥーレは小さく頬を膨らませた後、はっ!としたように戻ったのだが、そのぶどう尽くしのケーキを見る眼差しは可愛らしいハストゥーレなりに必死に険しくしているようで、それがまた可愛いとフェンネルの腰を折る勢いで締め付けておいた。
販売用はこちらのデザインで決定。
次に、路地裏に住む方たちへの無料配布の分だ。
1人あたりホテルのケーキバイキングのような小さなケーキなのだが、その量はかなり多い。
シロアリによる食糧難で死者は出ているのだが、今回はカシュベルだけでなく、その他の街にも配布する為1年前よりも数が多いのだ。
ヨーグルトの消費はかなりのものになるが、そのヨーグルトの在庫は箱庭から溢れ備蓄部屋にも並んでいた。
カテリーデンでの販売頻度がグッと下がったからなのだ。
こうしてアリステアへの差し入れにも最近登場する温かトロトロヨーグルトは、フローズンヨーグルトケーキに変貌してカナンクルケーキとなったのだった。
「やば、美味しすぎてフォーク止まらないんだけど。私フローズン派」
「僕はどっちも好きだなぁ」
「………………私も、フローズン好きです」
「メイちゃんに合わせたでしょ。今合わせたでしょ!!」
「そ、そんな事はありません……」
「顔そらした!」
「違います!」
「……………………仲良しかわゆい。酒5杯はいける」




