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炎猿の討伐

本日2回目の更新です


 話を聞くと、1番現実的なのは炎猿の討伐なのだとか。

 しかし、呪いをかけ捕食を企む炎猿は身を潜めるのが物凄く上手いのだそうだ。

 散々ギャギャ!と騒ぎ鳴くくせに、相手の喉元を食いちぎる時は静かに神経を尖らせる。


「炎猿に縄張りはないからウロウロ移動はするけれど、今回は捕食対象がいるから近くに居るはずだよ」


『そこで、だ。探すには時間が惜しい。だから、今回は炙り出すぞ』


「炙り出す……?」


「囮、だよ」


 フェンネルが笑って言った事に、芽依はヒュ!と息を飲んだ。






 マリアージュの様子を見ても、安全面から考えて遅くても3日後までには炎猿を捕まえたいと言うメディトーク。

 命の危機に瀕しているので、それに反対はないのだが、問題は誰が囮をするかである。


「…………私、かな?」


 女が好みと言うなら、移民の民で女の芽依は格好の餌食である。

 困惑しながら聞くと、可愛い奴隷2人から凄まじい反感を買う。


「そんなの許すはずがないでしょ!」


「そんな危険な事!いけません!!」


『お前じゃあぶねぇから、どっちかに女装させればいいじゃねぇか』


「そうだよ!じょそ…………う?」


「私達が……ですか?」


『他に誰がやんだよ。アリステアでも巻き込むか?』


突如出てきた領主の名前にギョッとしたのはマリアージュだけのようだ。

目を見開きメディトークを見るが、周りは口を噤んでフェンネルとハストゥーレを見ている。

メディトークの提案通りにするには、2人しか対応が出来ない。

フェンネルとハストゥーレを見てから、芽依はハストゥーレを見る。

その眼差しに何かを感じたのか、ハストゥーレは手を握りしめてからメディトークを見た。


「私が、囮を致します」



 ハストゥーレが死地に行くような決死の表情で答えた。

 その言葉を聞き、フェンネルがキラキラとした瞳で見た時に役割が確定したのだった。





「………………ねえ3人とも、今回手を貸してくれてありがとう。私の我儘だったのに」


「ご主人様の願いを叶える為に私達がいるのです。そのようなご心配などされずとも良いのです」


「そうそ、メイちゃんはしたい事をすればいいんだよ。あとは僕達に手伝ってって言えば良いだけだよ」


『…………それに、対価は貰うしな』


 前を歩くメディトークの言葉は芽依には届かず、後に芽依を悩ませる対価を頂く事になるのだった。



 そうして、急遽用意したハストゥーレ用の女装セットを身にまとい、囮作戦開始の日となった。


「………………似合うよ、ハス君」


 うんうん、と頷く芽依に、照れたように笑う美少女。

 人間の女性にしては身長は高すぎるが、出来上がった美少女っぷりにそんな小さな事はどうでもいいだろう。

 お淑やかなレースの施されたペチコートが、スカートの裾から見えてとても可愛らしい。

 マフラーをつけて首筋の奴隷紋を隠し、唾の広い帽子で顔を隠す。

 背中の羽は短時間なら消す事が出来るらしく、今は緑の美しい羽は姿を消していた。


 芽依の隣にはマリアージュもいて、芽依に同意するように何度も頷いている。

 しかし、その動きに引っ張られて体がグラリと揺れた。

 自分の重さを支えきれず揺れたマリアージュの体は、また芽依の方に倒れギュッと目を瞑ると、肩に大きな手が当てられた。

恐る恐る目を開けると、目の前に居る芽依を背中から抱きしめるようにフェンネルが抱え込み、片手でマリアージュの肩に手を当てて体を支えてくれたのだ。


「す…………すみません」


 美しい花雪に支えられ、嬉しいやら重さが恥ずかしいやらでマリアージュは顔を真っ赤にした。

 芽依はこっそり、結婚式前の大事な時期にフェンネルにハストゥーレという極上の人外者を前にして気持ちが揺れないか、実は心配だったりする。

 2人を見た夫婦やカップルが、性別関係なく2人に恋をして喧嘩する姿を沢山見てきたからだ。

 中には破局してストーカーみたいになった事例もある。


「メイちゃん怪我は無い?」


「怪我をする事なんてなにもないよ」


 蕩けるようなフェンネルの笑みを真正面からみたマリアージュは、顔を真っ赤にしたまま固まった。

 

『…………魅了かかってんぞ』


「何もしてないよ。かかってくれるならメイちゃんにいくらでもかけるのになぁ」


 後ろから芽依の頬に手を当ててため息を漏らすフェンネル。

主人に害なす魔術は試行されない為、フェンネルの魅了は芽依には効かないのだ。

 後ろから抱き締めたまま頭に頬を擦り付けるフェンネルに、メディトークは襟首を掴んで引き剥がした。


「そんなのなくても好きだよ?」


「……………………もう、ほんっとに」


『………………お前なぁ』


 ヘナヘナと座り込んだフェンネルを哀れみの眼差しで見るメディトーク。

 あれ?と首を傾げる芽依と、そんなメディトーク達をマリアージュは赤らんだ顔のまま見ていた。


「…………凄い、人外者の方複数とそんなに仲良くて」


 ぽそり……と呟いたマリアージュは羨ましそうに芽依を見た。

 婚約者は人外者だが、その人外者から友人関係を広げることが出来なかったマリアージュ。

 そういう人間は珍しくないため仕方ないのだが、マリアージュはどこか人外者との知り合いを増やしたいと漠然と思っていたようだ。


「じゃあ、とりあえず囮作戦やってみる?」


「ハス君、無理しないでね。何かあったら直ぐに戻ってくるんだよ」

 

 そう言って二アの羽を持たせる芽依。

 それに驚き首を横に振ったハストゥーレは羽を芽依に返そうと奮闘する。


「い……いけません、これはあの人外者の……」


「うん、でもお守り代わりに。なんかあったら使って、私少年に死ぬ気で謝るから……それとも、大根様渡しとく?」


「大根は今の姿に合わないんじゃないかなぁ」


 心配する芽依にフェンネルが宥めるように背中を撫でるが、眉を下げたままの芽依はしゅんと落ち込む。

 衣装調達にはキラキラと目を輝かせていたが、実際に囮として行動するとなった時、芽依は不安になったのだ。


 

「そっかぁ……そうだよね………………遠距離射撃出来る野菜が荒ぶって出来ないかな」


「メイちゃん、本当に殺傷能力高いからそれは怖いかも……」


 苦笑しながら言うフェンネルに、そう?と首を傾げた。


 こうして、女性になりきったハストゥーレが1人歩き出す。

 少し暗くなってきた夕暮れ時、周りは誰もいない囮としてはいいタイミング。

 ハストゥーレは真っ直ぐ前を向いて歩いていた。


 ギャギャ……ギャギャ……


 どこからか聞こえる甲高い不気味な笑い声にハストゥーレは気付いたが、あえて反応すること無く歩き続けた。

 芽依達は物陰からそんなハストゥーレを見ていた。


「大丈夫、でしょうか」


 小さく呟いたマリアージュに、芽依は笑いかける。


「きっと、大丈夫ですよ」


 それは不安な芽依自身にも言い聞かせる言葉だった。


 

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