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花嫁の憂鬱


 その出会いは偶然だった。

 たまたま壊れたハストゥーレの髪飾りを新調しようかと、カテリーデンに行った帰りの事である。

 顔色の悪い女性が前から歩いてきた。

 芽依はいち早くその女性に気付き、体調が悪いのかと少し見ているが、ふらついたりなどはしていなく、足取りはしっかりしている。


 黒髪がサラリとしていて手入れが行き届いている綺麗で可愛らしい人。

 そう、人間だった。

 この世界での人間はカテリーデンの常連以外は貴族とのエンカウントが高い。

 芽依は心配と同時に少しの警戒をする。


 何故か、目を離せないからだ。


 それは芽依だけでなく、メディトークやフェンネル、ハストゥーレも同じで思わず目線を向けてしまう。


「………………ふぅ」


 小さく息を吐き出した女性は、あんなにしっかり歩いていたのに突然バランスを崩した。

 ちょうど隣に来たタイミングだった為、芽依側に倒れ込む女性を思わず支えようと手を伸ばした時だった。


「うん?!」


 倒れ込んだ女性を支えきれず、芽依も一緒に地面に倒れた。


「………………えぇ?」


 芽依は呆然と自分の膝に体を乗せている女性を見る。

 はぁ……と熱い息を吐き出した女性は、ハッと顔を上げて芽依を見た瞬間、さらに顔を青ざめる。


「ご、ごめんなさい!!今……よける、わ……」


 地面に手を付き眉を寄せながら体を起こす女性を座ったまた見つめる。

 その女性は細身の方で、全身手入れをしているのだろうなとわかるほどに綺麗だった。

 しかし、一つだけそんな外見に似合わないものがある。


「……………………重かった」


 芽依が思わず呟いた言葉にカッ!と顔を赤くさせる女性。

 俯きプルプルと震えている女性を見上げていると、隣に一緒にしゃがんでいたハストゥーレが首を傾げて芽依を見る。


「………………重い、ですか?」


 そう繰り返した時、真っ赤な顔の女性は顔を上げて芽依を見た。

 うるりと涙目の女性を見て、しまった!なんて不躾な言い方を!とギクリと体を強ばらせた時、またしゃがみ込んだ女性が芽依の手をギュッと握った。


「お…………重いですよね!そうですよね!私……私!!」


 急に泣き出した女性に芽依はパッチリと目を見開いて女性を見たのだった。



 

 彼女は、偶然あるものに出会ったのだという。

 それは赤く、手足が長い猿だった。

 夜道を歩く女性の後ろから突如現れた猿は、女性の背中に乗り上がり、ギャギャギャギャ!!とけたたましく鳴いたのだ。


 その猿は女性の顔を覗き込み、くにぃ……と笑って言った。


 [なるほどなるほど、体重か。今の貴様の大切なものは体重か。ならばやろう、もっとやろう]


 そういやらしく笑いながら猿は話したのだと言う。

 何かしたのだろうか、女性は急激な目眩を感じてふらついた時、また高笑いをしながら離れていった。


「………………なに、なんだったの……」


 頭に手を当ててフラフラする体を何とか保ちながら帰宅する事にした女性。

 そこで、既に体の異変はあったのだ。

 何時もよりも体が重くだるいのだ。

 その異変が決定的になったのは、帰宅してからだった。

 母を見て安堵した女性がふらつき母が支えた時、今の芽依と同じく支えられずに倒れたのだ。

 2人は顔を見合せて無言になった。


 重い体をなんとか起こしたのだが、女性は顔を青ざめていた。


「………………私、もしかして……重い?」


「………………重いわ」


 親子2人で顔を見合せた後、引き攣る顔でリビングへと目を向ける。


「…………うそ……うそうそ……」


「一体何があったの?!何かあったんでしょ?!」


「わからない!……あ…………幻獣……幻獣にあった!ギャギャって笑う 幻獣で…………そうだ、体重がどうのって……」


「幻獣?どんな?!」


「わからないわ!だって、肩に捕まって後ろにいたんだから!」


「わからなかったら、対処の使用が……」


「教会に、行くしかないのかな……」


 下唇を噛んで呟いたその女性は大粒の涙を流し瞳に貯める。

 女性は、時間がないのだ。

 2人はまたリビングへと目を向ける、飾ってあるウエディングドレスを思って情緒不安定になった女性は泣き出したのだった。




「本当に急だったんです。いきなり背後から来て、だから赤い色に長い手足しかわからなかった」


 芽依の腕を掴んだまま泣き出すという困った状況にアタフタしつつ、何かありそうだぞ、と話を聞いてみた芽依。

 長くなりそうなので、近くで飲み物を飲みながら話そうじゃないかと芽依は極力安心して貰えるように気を付けて笑った。

 庭で話を聞こうかとも思ったが、小ぶりだがワサワサと育ち出している庭を見て驚かないはずも無いだろうから、それはさすがにしなかった。


「手足が長い赤いヤツ」


「その幻獣に会ってからいきなり体が重くなったんです…………あの、聞いても良いんでしょうか」


 おずおずと、芽依ではなくメディトークやフェンネル、ハストゥーレを見ながら聞く。

 カテリーデンに来た事のある女性、マリアージュは勿論芽依を知っていた。

 そのそばに居る3人の人外者もだ。

 だからこそ、マリアージュは疑いもしないで芽依の後に着いていたのだ。


 そんな人外者を引連れた芽依に聞くということは、対価が発生する。

 話の内容が大きければ大きい程、その支払いは莫大なものになる為マリアージュはかなり怯えながらも聞いたのだ。


「え?分かるなら理由知った方が良くないですか?出来たら問題解決もしたいですよね」


「メイちゃん違うよ。支払いの話だと思う」

 

「……………………あ、あぁーあ、なるほど?」


「また忘れてたでしょ。メイちゃんは本当に安く請け負いすぎだし、周りと一緒にしないで僕達をちゃんと大事にして!」


「してるよ、勿論。だからそんな不安そうな顔しないの。ハス君もだよ」


 フェンネルの逆隣に座るハストゥーレも眉が下がりしゅんとしている。

 犬だったら足の間にしっぽを入れていそうだ。


「まあ、対価は話を聞いてからにしようよ。本当に解決するかもわからないし」


 なぜか放っておけない不思議な雰囲気を纏うマリアージュは、ホッ……と笑って数回頷いた。




 

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