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新しい土、入荷のお知らせ

本日2回目の更新です


 ハストゥーレ希望の、ホタテたっぷりアツアツシチューは無事に完成。

 勿論メディトークが作ったものだが、暫定食用に前もって準備していた為、暖かく美味しいシチューを食べる事が出来て芽依はホクホクであった。

ハストゥーレは目を輝かせて美味しいと頬に手を当て、まだ完全復活ではないフェンネルは目を細めてシチューを眺めながら食べていた。

2人とも満足したようで嬉しいなぁ、と食べている芽依の斜め後ろにはメディトークがエプロン姿にお玉を持っておかわりに控えている姿がお馴染みになっているのが和むのだ。


 あのパンツの妖精によって吹き飛ばされた店、そこにはフェンネルへのお土産ゼリーがあり、悔しい思いをした。

 後にリベンジをしよう、必ず!と心に誓った芽依は、次いつ行けるのだろうか、と思いを馳せる。


 ちなみに、領民にはアリステアからの配給となり、寒空の下巨大な鍋に用意されたシチューを皆で食べたのだそうだ。

 その野菜の半分は芽依からの提供で、巨大な鍋にはゴロゴロとした新鮮な野菜が入っていた。

 食べ終わり、なくなったら下から湧き出るように新しいシチューが溢れる程に出てきて、領民はゴクリ……と喉を鳴らして食べていたという。

 全ての街に用意されたシチューの配給の量は凄まじく多いのだが、それを賄えるほどの野菜と肉を提供しているには訳があった。


 シロアリ被害からすでに半年弱、そろそろカナンクルもやってくる。

 今年1年、収穫祭以外の行事という行事がほぼ中止になり領民の疲弊と鬱憤がピークに達している。

 まだ復興には時間が掛かるのにギスギスとした雰囲気が蔓延っていて、小さないざこざは毎日起きているそうだ。

 複数人で庭に襲撃を企む人も現れ始めているのだとか。


 そんな中の暫定食、今回は沢山の人からシチューの準備が出来ないと言われていて、アリステアは全ての街で配給を決定した。

 その野菜の準備にアリステアが頭を下げたのだ。


 シロアリ被害が起きてからアリステアは常に芽依に頭を下げていた。

 もっと、気楽に頼んでも構わないのに、アリステアは毎回律儀に頭を下げる。

 申し訳なさそうに、言いずらそうに。


 だから、早くこんな状態が終わるように、アリステアの負担を減らすように芽依は言われたより3倍の野菜を無理やり渡し、土の復興にさらに力を入れたのだった。



「本当ですか……セイシルリードさん!」


「ええ、大変お待たせ致しました。新しい土の販売が開始になります。量も十分用意出来ていますから、もう心配はいりません」


 疲れが滲むセイシルリードの髪が以前にも増して白みが混ざったような気がするが、疲れの中に確かに充実感と達成感を感じる笑みをうかべている。


「お嬢さん、新しい土は…………いりませんね」


 チラリと見た庭の様子に微笑み頷く。

 それでは、と渡されたのが何かの種だった。


「これは?」


「甘花という食べれる花です。甘みがあり、食事の際の飾りとしてもよく使われます。こちらは良く慣らされた土を使う事で味に深みが出たり、甘さが強くなったりと、甘花の味が変わります。今の庭ではなかなか育てる事は難しいので、是非お嬢さんの庭で育ててもらえませんか?」


 料理の飾りになる、となればカナンクルに使うのではないだろうか。

 芽依はそれを預かり頷いた。


「わかりました、沢山育てますね」


「是非お願い致します」


 笑って頭を下げたセイシルリードに頷いた芽依は、他にも土の状態を良くする為に肥料を買ったり、メディトークと相談して新しく家畜を買ったりと、それなりの出費をしつつ新しい作物などを作る為の必要経費を払った。


「くぅ…………手痛い出費……シロアリめ……」


 芽依を含めてこの半年ほど、カテリーデンを含む野菜の個人売買を禁止されている。

 そして作物を駄目にした事、土の復興、更には新しい作物の販売と出費が思いの外多い。

 芽依の場合は、一定数アリステアが買取となる事と、他にも肉や乳製品を売れるので多少の収入はある。


 しかし、大体の庭はそんなに複数の作物は作らず野菜だけや、肉だけの方が多い。

 中には多少複数作っている人もいるが、被害で出た損害金や復興資金に苦渋を飲まされる人も少なくないのだ。


「それを考えたら破格の値段だよね」


『期間は限定されるがな』


「それでもだよ。私の庭の土だって沢山ある訳じゃないからね。分けれて数人でしょう、そんな時に新しい土だもの。みんなこぞって買うでしょう」


『まあな、それで復興が進むならいい事尽くめだ。他の領地や国にも満遍なく用意してるらしいからな、もう暫くしたらドラムストへの無理な催促も減るだろうよ』


 セイシルリードとの売買を終わらせて庭に戻る時、2人は土の販売開始に安堵して話をしていた。

 微生物や小さな幻獣が生まれない問題はこれで解決出来そうだとメディトークを見上げて笑うと、口端だけを持ち上げて笑ってくれた。


「イッケメーン」


『当たり前だろ』


「ぶふ……」


 肯定されて、思わず笑ってしまう芽依の後頭部を、スパァンと叩かれた。

 音の割に衝撃は少なく、思わず痛い!と言ってしまい、うふふと笑って誤魔化したのだった。




 土が入荷したことによって、庭持ち全てに伝えられ、皆がこぞって買い求めていた。

 これにより、土の状態が変わりだし、あれだけ時間が掛かった復興が一気に進むことになる。

 勿論完全に土の状態を戻し作物を以前と同じにするには、それなりの年月が掛かる。

 それは芽依も同じなのだが、それでも他の領地よりも群を抜いて復興スピードはドラムストが早いのは来年以降、誰が見ても明らかだった。

 



 

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