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収穫祭のダンスは激しめが決まり事


 祝詞が終わったらあとは皆で話をしたりご飯を食べたり。

 そして、低く響く鐘の音がなると踊り出すのだが、これが中々に激しいものらしい。

 知らない他人とも踊るのだが、明るいうちは可愛らしくスカートを翻し2人1組で手を重ねたり離したり繋いだり、そうして踊るのだが夜に向かってその踊りは格闘に近くなる。

 なぜ戦うのだ、と言われても伝統としか言いようが無いのだが、芽依はそれを半信半疑で聞きつつ夜に来るであろう衝撃に心を諌めていた。


 この風習から明るい時は女子供が多く、夜に向け人外者や休日の騎士、そしてシャリダンの人達が嬉々として参加するのだそうだ。

 それはそれは楽しそうに獰猛な笑みで。


 ごぉぉぉぉぉぉん


 一の鐘が響き渡ったのは祝祭の祝詞が終わって少ししてからだった。

 芽依は久しぶりに庭以外の会話だとシャルドネ達と話していて、いざ食べようかという時の事だった。

 1回、低く響く鐘が鳴った。

 これが収穫祭のダンスタイムのお知らせなのだ。

 芽依は出鼻をくじかれた気分ではあったが、せっかくのダンスなので是非とも参加しようと決めていた。


「メイさん、是非初めてのダンスを一緒に踊って頂けませんか」


 手を差し出し微笑むシャルドネに微笑み返して手を重ねた。

 まずはドラムストに長くいてダンスにも慣れているだろうシャルドネの誘いに乗ることにした芽依。

 主人の決定は絶対なので、フェンネルやハストゥーレはここでの反論はしない。

 芽依はフェンネル達の方を見て笑った。


「ダンスに行ってくる、次は一緒に踊ろうね。あと、不届き者が来たら吹き飛ばしていいからね、遠慮はいらないよ」


 笑顔で爽やかに過激な事を言う芽依にシャルドネは目をぱちくりとして、フェンネルとハストゥーレは幸せそうに目元を細める。


「はいご主人様」


「行ってらっしゃいメイちゃん……シャルドネ、メイちゃんを頼むね」


「…………ええ、勿論ですよ」


 芽依に対して驚く程に穏やかな笑みを向ける二人。

 今まで奴隷が主人に向ける顔を幾度となく見てきたが、これ程に幸せそうに微笑む奴隷が居ただろうか。

 どれも瞳の中に苛烈な炎を燃やす反抗的な者か、全てを諦めた者か。

 それか、無表情な白の奴隷かである。


「…………メイさんは凄いですね」


「何がですか?」


「いえ、素敵な人だなと思っただけですよ」


「!…………シャルドネさんの笑顔も胸がぎゅぎゅっとされる程にお美しいです……」


 ダンスをする広場に向かいながら話をしている二人の雰囲気は穏やかである。

 明るい華やかな音が鳴り出し、それに合わせて踊り出す。

 勿論ステップなど分からないのだが、今回はある程度は自由にダンスが可能なのでシャルドネに教えて貰いながら実地訓練となった。

 

 中央でダンスをする男女、回る度に女性のスカートが花のように広がったり閉じたりと華やかな様子が広がっている。

 そんな中でチェックの半ズボンを履きサスペンダーをしている少年を発見した。

 オフホワイトのフリルたっぷりのブラウスに金髪は少し伸びたのか黒のリボンで纏めていた。

 それがまた可愛すぎて、片手がフリーな芽依は直ぐに鼻を抑えてしゃがみこみたい衝動を抑える。


「メイさん?どうかしましたか?」


「あそこに可愛すぎる少年が踊っています!たまりません!!」


 目をギンギンにしてニアを見る芽依は、既に可愛さでノックダウンである。

 ハイソックスに革靴の可愛い格好は、ちゃんと収穫祭に合わせたコーディネートでチェックも似合うと呟く。


「メイさん、今は私との時間ですのでこちらを見て下さいませんか?」


 頬に手を当てられ芽依の視線をシャルドネに向けられる。

 その時、フェンネルが誰かを吹き飛ばした様な気がしたけれど、きっと気のせいだろう。


「…………すみません、失礼な事をしました」


「ふふ、メイさんは素直ですね」


「誠実に対応してくれる人には私も素直に返しますよ」


「おや、私は欲望に忠実な人外者ですよ?優しくしていて貴方を食べてしまうかもしれません」


「その時は私が食べ返しちゃいますよ…………いや、実際食べていますね」


 真顔になってシャルドネの足を見た芽依にキョトンとしてから、声を上げて笑った。

 そして顔を近づけ、耳元で囁く。


「貴方に食べて貰えるのなら、本望ですね。どうぞお好きなだけ食べて頂いてよろしいのですよ」


「っ…………色気が爆発しています……」


 顔を真っ赤に染めて耳を抑える芽依を見て、満足そうに微笑んだシャルドネは、丁度曲が終わり足を止めた。


「お相手ありがとうございました」


「こ、こちらこそ……」


 あの怪しくも色気が溢れていたシャルドネはなりを潜めて今はいつものフワフワと笑っている通常仕様だ。

 しかし、顔を染めていた芽依を見たフェンネルとハストゥーレは不満だったようで2人して頬を膨らませている。

 最近の2人は似てきていた。


 そして気になるのがフェンネルの斜め後ろに積み上げられた屍モドキだ。

 ピクピクしている男女関係ない屍モドキの山は、人間、人外者関係なく重なり中々の高さを誇っている。


「………………これ、どうしたの?」


「不届き者を懲らしめていただけだよ」


「不届き者出すぎでしょ」


 無法地帯か……と呟いた芽依の隣にそそそ……と近付いてきたハストゥーレ。

 服の端をちまっと摘み、眉を下げて芽依を見る。


「ご主人様……あの、お顔が赤かったようですが如何されたのでしょうか……」


「ハス君が興味を持って聞いてくれた!」 


「私の事をいつでも食べてよろしいのですよ、と話していたのですよ」


「メイちゃんは僕たちのなんだから、シャルドネは割り込まないように」


 キツめに声を掛けているつもりのフェンネルだったが、祝祭用衣装に周囲がキラキラと輝きを放っていて怖さ半減である。


 (…………愛されてる、私)


 うんうんと頷く芽依は、自画自賛なんかじゃなく客観的に見ても奴隷2人からの愛情メーターは振り切っていると思っている。

 可愛いは正義なので、それもよろしいと頷いた時だった。

 遠くから小走りで近づいてくる可愛いの塊に芽依は崩れ落ちたのだった。



  

 夜になるにつれ鐘の音が増えていき、参加者へ戦闘のお知らせも含まれている。

 

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