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収穫祭

本日2回目の更新です


 秋も深まってきたある日の事。

 元より予定されていた収穫祭を迎える。

 去年のこの日、芽依がこの世界に現れた記念すべき日である。


『…………いいじゃねぇか』


「似合う?」


 中にフリルがある白のワンピースを着て、その上から色鮮やかな花柄の刺繍が入った薄手のワンピースを重ねて着ている。

 白地のワンピースは袖やや裾が大きく広がり、ふんだんにフリルがあしらわれていて、それ1枚でも十分清楚でいて華やかな服装である。

 その上からフリルの邪魔にならないノースリーブの華やかなワンピースを重ねる事で、生地が透明に近為に真っ白なワンピースに刺繍の花が浮き上がっているような素敵なデザインとなっていた。

 刺繍のワンピースも軽く広がるようになっていて、更にフリルがある場所よりも短い為回ると綺麗にスカートが広がるように出来ていた。


 短くなった髪は結えない為、幅広のカチューシャをした芽依は、実年齢よりも更に幼く見える。


「…………かわいい……」

 

 フェンネルが両手を口元に当てて頬を染めている。

 そんなフェンネルの服装は、いつもの白シャツにだぽっとした緩いパンツ姿であるが、華やかな外見にはシンプルの方がよく映える。

 フェンネルの隣には同じ格好をしたハストゥーレがいて、やはりこちらも芽依を見て感極まっている。


 この2人の最近の変化と言えば、暑い時期から妙なこだわりが出来ているようで、首筋が出る服を好むようになっていた。

 奴隷紋が見えてしまう服装、特にフェンネルは犯罪奴隷の奴隷紋である。

 疑惑な目で見られたり、白であるハストゥーレや、外見で惑わせるフェンネルが邪な目で見られている経緯もあるのに、2人は嬉しそうに奴隷紋をさらけ出すのだ。


 何度か話をした所、これは芽依の所有印だから嬉しい意外にはないの。と頬を赤らめる2人に芽依は絶句した。


 満足している事を無理やり止めることも出来ないので、それ以上は何も言わなかったが、街に視察に行ったり、領主館内を歩く度に周りのフェンネルたちを見る視線に敏感になってしまう芽依なのだった。


「可愛い、メイちゃん可愛い」


「………………素敵です、ご主人様」


 着飾った芽依も可愛らしいのだが、普段着並な服装の2人の華やかさには負けるよ……と芽依は苦笑した。

 ちなみに、メディトークにはピンクの蝶ネクタイをして満足したのだった。


「収穫祭かぁ」


『最初の挨拶や祝詞なんかは堅苦しいが、それが終われば大した事はねぇぞ』


「祝詞……アリステア様の祝詞素敵なんだよなぁ」


「むっ!!」


「………………素敵」


 あからさまに頬を膨らませるフェンネルと、しゅんと眉を下げるハストゥーレ。


 (なにこの可愛いの集まり)

 

 そんな目の保養をしていたのだが、収穫祭の場所では更なる喜びが待ち受けているのだった。



 

 移動はアリステア達と一緒にみんなでカシュベルへと向かう。

 転移を使って行くのだが、この収穫祭は庭関連や販売者への祝福が強い為、関係者は参加する事が多い。

 収穫祭であるから、作らなくても買い手が収穫として手に入れるという意味合いだと祝福が受けやすくなるのだとか。


 その為参加人数はかなり多く、通路を塞ぐように練り歩き祭壇のある場所まで行くには時間と体力も消耗するし、領民の負担も倍増する。

 他の領地では気にせず練り歩く場所も多いのだが、ドラムストの領主アリステアはどちらも我慢すること無く過ごせるようにと配慮が成されていた。

 小さな子供や足腰の悪い高齢者がアリステア達の移動の為の長い列の間、隅で頭を下げ続けることは負担になるだろうからと、アリステアが領主として来てからすぐに無くした法案なのだった。


「おお、凄い」


「…………シロアリ被害があったからからこそ、今回はいつも以上に華やかにしてあるのだ」


 通常よりも飾り付け等が豪華になり広場を輝かせていた。

 冷たく澄み切った秋の空気に乗せられてたまに遠くから小さな幻獣たちがピューっと吹き飛ばされているのに目を見開いたが、毎年の光景らしく季節の風物詩のようなものらしい。

 たまに飾りにバフン!とぶつかって転がっている。


「………………あ」


 飛んできた薄い水色の見た事ない物体を手でわ静かみにすると、アリステアがギョッとし、セルジオが頭を抑えた。


「…………素手で掴むな」


「大根様出すべきでした?」


「メイちゃん、大根様出したら死んじゃうよ……」


 ハストゥーレがメイの手から回収した、そのモコモコした薄い青色のヤツ。

 耳が付いていて、ピコピコと動き忙しなく周りを見ている。


「…………ああ、なんだスメラギかぁ……もうこんな丸くなったの?早いねぇ」


 フェンネルがハストゥーレの手の中を見て言うと、芽依は首を傾げた。


「スメラギって木にいる……リスみたいなやつじゃ……」


「うん、木にいる小さいヤツ。冬に向けて脂肪を溜め込んで丸くなるんだよ」


「…………体積おかしいでしょ」


 スラリとした体躯に頬が異様に出ているスメラギなのだが、今はただのモコモコとしたボール状のなにかだ。

 また強い風が吹き、スメラギは風に乗って空高く舞い上がった。


「………………不思議な生き物だなぁ」


 そう呟いてから、芽依は近くにいるアリステアを見た。

 サラサラの銀髪をひとつに結び、儀式用の服に身を包んだアリステアはいつもより硬質で近寄り難い雰囲気を醸し出しているが、芽依と目が合うと、柔らかく笑う眼差しは変わらない。


 真っ白なシワひとつ無い豪華な刺繍が襟に入ったローブに、神官のような服装をしたアリステアは、芽依がこの世界に来た時に初めて見た姿だ。

 今更ながらに思い出したのは、この世界に来て一番最初に見て認識したのは、この姿のアリステアだった。










 

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