ミカ ④
ミカがドラムストから移動して数ヶ月、やっと街中を見て周り慣れてきたのだが、本格的なシロアリの弊害がマール公国にも訪れていて、ミカは今までにない経験をしていた。
ほぼ野菜を他国から輸入していたマール公国は、シロアリ進行から外れていたにも関わらず、貧困を極めていた。
マール公国も自力で野菜を作っていればこんな事にはならなかったのだが、昔からディメンティールの能力にあぐらをかき、何も考えずに過ごしてきたから今になってツケが来ているのだが、パーシヴァルや現王は、それが悪いなど思ってはいない。
それによって困るのは公国民なのに。
そんな現状を見て、そして日に日に減っていく品数に、高騰していく野菜達。
しかも、魚介類意外輸入というマールブルクは、肉類も高騰していて稀に見る飢饉に見舞われていた。
「………………まだ入荷しないの?」
「この間も言ったが、再入荷は目処が経ってないよ」
「………………また来ます」
肩を落として来た道を戻るミカ。
マール公国に来てから、その生活がガラリと変わった。
アウローラ任せだった仕事に対しても庭に対しても。
一切手を貸さず、ただ素敵な男性を追いかけなんでも手に入ると盲目的に感じていたあの頃の自分を殴ってやりたいと思う。
マール公国に来て3ヶ月弱、ドラムストがとても栄えていて物流に明るい場所だったと今ならわかる。
街に出て買い物にいけば商品が所狭しと並んでいたが、この国はどうだろうか。
シロアリ被害がない時でも、野菜は少なく鮮度も落ちているのに価格がありえないくらいに高い。
野菜の市場価格等知らなかったから、高い!と感じていたが、アウローラがドラムストの4倍ほどの値段だと教えてくれて愕然とした。
それくらい、ドラムストとの違いは歴然であった。
輸入に頼り入る野菜の品質がいい物は先に王城に届けられ、それから市場に流れるので鮮度が落ちているのだ。
これについては、無知なミカでも首を捻った。
最初から仕分けして市場に流せば新鮮な野菜を提供出来るし、ミカだって美味しいご飯が食べたいのだ。
鮮度が落ちると傷むのも早く食べられなくなる物も出てくる。
これは、ダメでは無いか……
ミカは住んでみてあまりにも違いすぎる販売について頭を痛めている。
アリステアに言われた庭の改善がもし出来たとして、これが変わらなくては国民は何も変わらないではないか。
「アウローラ、アウローラ!」
この国では移民の民も自由に行動している。
この国に根付く人外者の位が低く、人数が少ないからだ。
わざわざ移民の民に手を出して大物を引き当てたくはないのだ。
勿論、自衛は必要ではあるが。
ミカは急いで帰宅しアウローラに声を掛ける。
ひょっこりと顔を出したアウローラは、エプロンをして長く揺蕩う髪を緩く結んでいた。
「ミカおかえりなさい」
「ねぇ!野菜の入荷未定って!前回も前々回も言われたんだよ!もうずっと魚ばっかり!やんなっちゃうぅぅ!!」
「ミカ……まだ食べれるだけいいのよ」
「わかってる!わかってるけど、パーシヴァル様何もしないじゃない!アリステア様はあんなに動いているのに!」
定期的に連絡をするアウローラにちょこちょこ話かけるようになってきたミカ。
少しずつ常識を学んでいってはいるが、やはり今までの積み重なった生活の中の考えを直ぐに変えるのはなかなか難しい。
それに、シロアリ被害があったドラムストより野菜不足に陥っているマール公国に不満があったのだ。
そんなマール公国に、2年間居なくてはいけないのだ。
なんて事だろう……と悲しみにくれるがミカには自力でドラムストに帰るという選択肢は残されていない。
「…………ミカ、このまま入荷を待つのは得策とは言えません。庭の改善に務めるべきです」
「でも!……それにはアウローラは、行けないじゃない」
「ええ、ですからミカ、貴方が頼りですよ」
「…………………………分かった」
しゅんとしながら返事を返したミカ。
アウローラの庭も例に漏れずシロアリの被害によって全滅していた。
元々あった野菜の備蓄はすでに食べ尽くしていて、庭はセイシルリードから肥料を買ったが、肝心の土がない。
これではいつまで経っても回復などしないと、アウローラも頭を抱えていた時に、アリステアから指示が下された。
芽依の新しい土をメディトーク監修の元復旧作業に入るように、との事にアウローラはあの時の恐怖を思い出しガタガタと震えていた。
ミカもアウローラも、十分すぎる処罰が下されているのは、今の二人を見て明らかだった。
ミカは、悲しげな表情のまま静かに部屋に戻っていった。
そんな背中を見ていたアウローラはちいさく息を着く。
あの事が起きてから、ミカは落ち込み様々な事を考えるようになった。
まだまだ見当外れな事を言ったり、不意に人外者の男性に目を奪われたりするが、それも数を減らしてきている。
まだ分からない子供に、こんな大役をこなせないと今でも思ってはいるのだが、少しはミカの考えも変わると良いな……とアウローラは思っている。
そんなミカは、翌日から精力的に動きだした。
大好きなミニスカートを脱ぎ、動きやすいパンツ姿で街中を駆け回り庭を見て回っている。
そんな変わりようにアウローラは目を丸くしていたのだった。




