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閑話 フェンネルの素敵な一日の始まり

本日2回目の更新です


 秋も深まってきた今日、寒さに震えながらフェンネルは起床した。

 欠伸をひとつ落として体を起こす。

 雪の属性を持つフェンネルだが、起床時の寒さは格別好きでは無い。

 ボーッとして頭が働かないのもいつもの事で、出来たら寝ていたいが、自分一人では無いこの場所でフェンネルだけがゆっくりしていい訳では無い。

 その為、フェンネルは寒くなればなるほど起床時間を早くして、暫し1人の時間を持ってから動く様になった。


 昔から1人だったフェンネルは、この暖かく居心地の良い場所にムズムズしてしまう。

 大切に思っていた冬牡丹のソユーズとも、一緒に住むなんてした事は無かったし、そもそも一緒にいてくれたソユーズは友人である。

 芽依達のように常に寄り添い大切にされてきた訳ではないのだ。


 だから、暖かな真綿で包まれ大切にされる今が起きたら夢だったのではないか?と思ってしまう事がある。

 これは、ハストゥーレも同様で同じ立場になった2人は、たまに体を寄せ合い今の状況が現実かを確認し合っているのを、メディトークは知っていた。


「……………………フェンネル様、朝でございます」


 珍しくリビングに来ないフェンネルを呼びに来たハストゥーレが扉越しに声をかけてくる。

 緩慢な動きで扉を見てから小さく返事をすると、少しの間を置いてからフェンネルの扉は開かれた。


「失礼致します。フェンネル様如何されましたか?」


「…………どうもしないよ?」


「そう、ですか?何時もとご様子が違ったので」


「あらま、心配させちゃった?大丈夫だよ」


 布団から体を起こしているフェンネルが微笑み答えたのだが、ハストゥーレの表情は晴れない。

 困ったな……と笑ったフェンネルは立ち上がり、寝巻き代わりに来ていた浴衣に似ている服の帯を外した。

 前がはだけ、振り返ったフェンネルが見たのは、指で隠しているが、ガッツリ見ている芽依の姿である。


「…………え?メイちゃん?!なんでこんな朝早くに?!」


「今日は朝ごはん一緒にと思って……」


 そう言いながらも、はんぺんと言ったフェンネルの体をガッツリ見る芽依。

 慌てて体を隠したフェンネルに小さな舌打ちが聞こえた。


「メイちゃんのえっち」


「フェンネルさんは私のだから、見ても問題ないと判断しました」


「淑女の振る舞いじゃないよ!もぅ!」


 そう言いながらもスルスルと着替えを始めるフェンネルを、チラチラどころかしっかりがっつり見る芽依は、痴女以外の何者でもないのだが、生憎注意する人はこの場には居なかったのだった。


 実はこの時、芽依はフェンネルの脇腹を確認していた。

 シロアリによって攻撃を受けたフェンネルは、肉がえぐれ、蟻の持つ毒もその身に受けていた為に傷の治りが遅かったのだ。

 今は傷が塞がってはいるが、痛々しい傷跡はのこっている。

 回復はしてきているので、その跡もいずれ消えると領主館にいる医療班から聞かされた芽依は安堵したが、やはり時々引き攣るのか脇腹を触る様子が見られる。

 あの時芽依が無意識に触れたえぐれた脇腹には痛みが走っていたのだが、フェンネルは今後それを芽依に伝えることはないだろう。

 今も心配そうにわき腹に視線を向けている芽依に気付いているのだが、あえてフェンネルはそれを指摘はしない。

 何時までも、芽依がフェンネルに意識を向ける時を見逃さないように、気をかけ貰えるようにフェンネルも芽依に意識を向けるのだ。


「はい、準備できたよ」


 こうして、家族となった芽依達に大切にされているフェンネルは微笑む。

 喜びの花を撒き散らし、それが大気中に溶け込むと何かの魔術に反応して朝の光の中キラキラと星屑が弾ける。


 その日、星屑が弾けると同時に森で3つの魔術が同時に発動されていた。

 それは、何かを捕縛する為の魔術で、空に光の輪が広がる。

 毎日様々な魔術が試行される中、今日もフェンネルは穏やかな1日の始まりににんまりと口の端を持ち上げたのだった。



 

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