状況把握 2
近くの領地はドラムストより悪化傾向らしく、死者も増えてきているようだ。
そこに、他国から輸入して生活しているマール公国からの救援要請も来ていてセルジオは冗談では無いと吐き捨てている。
(…………ミカちゃんは大丈夫だろうか、ちゃんと食べているのかな)
そんな事を一瞬頭に過ぎったが、今は忘れようと小さく頭を振った。
「そうだアリステア、こちらから不穏な動きが聞かれているよ」
「なんだろうか」
「ペントランに住む貴族から何かきな臭い動きがあるみたいだ。まだ確認段階だから確実では無いけれど、近々何かあるかもしれないから覚悟しておいた方が良いかもしれない」
オルフェーヴルが思い出したように話し出した内容にアリステアは眉を寄せる。
「…………そうか、動くとは思っていたが」
「もう、切って来ようか?」
爽やかに笑って言いきったオルフェーヴルに芽依は紅茶を吹き出しそうになる。
まさかいつも爽やかそうな人からそんな苛烈な言葉が……と思っていたら、セルジオが横目で見て一言。
「…………こいつは考えるのが面倒になったら切って終わらせようとするぞ」
「…………お、おおぅ」
そういえば、戻り呪の時も許可なく手紙を切っていたオルフェーヴル。
元々そういう気質なのだろう。
人外者も色々居るんだなと、今更ながらにしみじみと感じてしまった。
「…………まあ、そちらはもう少し調べてからにしよう。メイ、こういう場合被害に遭うのは庭持ちが多い。外出時は気をつけるようにな」
「分かりました」
眉を寄せて頷く芽依を見て、アリステアも頷く。
問題が山積みである。
庭復興だけではないんだなぁ……と息を吐き出す芽依。
芽依は、他の庭持ちよりも手札が多い。
人外者を複数人その庭に招き入れていることも、その人外者達は心から芽依を信頼し対価なしで手を貸してくれる。
それは芽依にとっては勿論、アリステア達ドラムストから見ても素晴らしい恩恵である。
人外者とはいえ奴隷であれば反抗心があったり、力を秘匿して尽くさない人外者も勿論いる。
それを人間が看破する事は難しいのだ。
虎視眈々と奴隷期間を終わらせ主人を殺す人外者もいる程である。
だから、芽依達の関係はとても珍しいものだった。
今の芽依の地位はただの移民の民にすぎない。
そこに付随する箱庭や備蓄部屋、そしてそばに居る3人の人外者との信頼関係からくる関係性によって、その価値をはね上げている事を芽依は知らない。
だからこそ、領主館に住んでいて伴侶が居ない芽依に頼ってしまっているアリステア。
後々何かの地位を確立した方が良いだろうか……と常日頃から考え始めている。
今回の食事では、ドラムスト内外の話を中心に様々な有益情報を意見交換した。
そこには芽依も知っていい情報なのか?と耳を塞いでやり過ごそうとして、セルジオにバリッと手を離させられた場面もある。
また、ファーレン以外の国にも多大なシロアリ被害が出ていて、ドラムスト領を守る為に早急な残り移民の民の人数を伝えられたようだ。
「………………そうだ、最近ゼノさんを街で見かけました」
「ゼノ殿が?そうか……」
「ドラムストに永住するのでしょうか…………あの移民の民が亡くなったから離れるかと思っていましたが」
「………………あの、伴侶ではないんですよね?片翼って言っていましたし」
「友人の伴侶のようだ。友人が亡くなってから代わりにとそばに居たようだぞ」
「……そうなんですね」
様々な人外者がいる。
簡単に移民の民を食料として殺す人もいれば、友人の伴侶だからと友人を亡くしても守る人外者。
最初に身の回りの世話をしてくれた女性が言っていた事を思い出す。
全ての人外者が優しい訳では無いし、笑って対応し、背中を向けた瞬間切られる事もある。
その人間とは違う感性や、不可解な言動も踏まえて人外者と人間との違いは沢山有るのだなと日々学ぶことが多いのであった。
「…………あと、大事な話なのだがな……」
真剣な雰囲気で話し出したアリステアを全員が見る。
「今年控えていた祭典などがシロアリ被害によってほぼ中止となっているのだが、来月末にある豊穣と収穫に関わる収穫祭だけは辞めれないのだ」
「…………それはそうですね、今の状況ではむしろ執り行わなくては来年以降の収穫に大きな影響を受けますからね」
「ああ…………それに、他領の領主が参加したいとの要請が次々に来ている……他国からもだ」
そのアリステアのため息と共に話された内容に全員が口を閉ざした。
すでに季節は秋、むし暑い夏は庭の復興で過ぎ去り、芽依がこの世界に来た時の季節が巡ってきたのだ。
もうすぐ、この世界に来て1年が経つ。




