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疲れた体にひと時の晩餐を


 シロアリから3ヶ月弱がたち、芽依の広大な庭の半分迄が復旧を終えていた。

 その間、アリステアからの定期的な配給がなされていて、路地裏に身を寄せている人達は早い段階で命を散らしてしまった人もいたが、通常生活をしている人達は奇跡的に死者0人をキープしていた。

 

 だが、ドラムスト以外ではこうはいかないようだ。

 ファーレンの他領土や他国からは既に死者が出ているとの報告が成されているようで、ドラムスト死者0人を聞き、アリステアへの食料支援の話も来ていて眉をひそめていた。

 

 とはいえ、自領ですらまだまだ復旧段階であるドラムスト。

 これから数年単位で庭の復旧作業をする事を考えたら、勿論今すぐの食料支援は難しい。

 そんなことをしたらドラムストの領民から死者が出かねないし、不満が高まるだろう。

 今もギリギリの状態を維持しているのだから。


 そんなドラムストの状況をアリステアから聞いた芽依達。

 今日は疲れきったアリステア達の為に、芽依は暖かな食事を用意していた。

 今ではなかなか手に入らない豊富な食材を使ったメディトーク特性の料理である。


「………………私達だけがこんな豪勢な料理を食べてもいいのだろうか」


 食卓に並ぶ料理を見たアリステアが困惑と喜びを綯い交ぜにした表情で芽依を見た。

 疲れ切っているのはアリステアだけではなく、セルジオやシャルドネ達にも疲れを色濃くさせている。


「………………アリステア様はファーリアとドラムストの窓口でいて、領民の皆さんを守る大事な人ですからね。疲れた時くらいゆっくり温まって美味しいご飯を食べるべきですよ。勿論セルジオさん達もです」


「それを言うにはお前もじゃないのか?」


 静かに赤紫の眼鏡を掛け直し、少し崩れた髪を直したセルジオが息を吐き出した。

 キッキリ着ているジャケットを椅子の背もたれに掛けたセルジオは、テーブルに並ぶ料理を見る。


「………………ほぅ、美味そうだな」

 

「お疲れの皆さんの為に、歯が要らない飲み込みメニューにしてもらいました」


「なんだそれは」


 シチューや、ホロホロに煮込まれた牛肉の甘辛煮、カラフル野菜のテリーヌに何故か小籠包。

 他にもキッシュやパン等所狭しと料理が乗っていた。

 そして、芽依リクエストのフォカッチャもドドンと置いてあった。

 フォカッチャ大好きである。


 今回、みんなで集まり料理を囲むのには、シロアリ駆除から一気に忙しくなり皆が夜遅くまで仕事詰めであった事と、様々なお互いの話し合いの場を作れなかった為である。

 それぞれが得意とする場所を持ち、それぞれの話はしっかりとアリステアには通しているのだが、その情報量が多く全員での把握が上手くされてい箇所があるかの確認も含まれている。


 特に、アリステアには毎日のように新しい情報が舞い込みパンク寸前だろうとブランシェットが呟いていたのを芽依が聞き付け、ならば久々のご飯にして話をしようとなった。


 今回の参加者は、いつものメンバーと更にオルフェーヴルがいる。

 その珍しい人に芽依はパチパチと瞬きした。


「俺も参加していいのか?」


 困ったように笑うオルフェーヴルに、アリステアは頷く。


「勿論だ、オルフェーヴルからの話も聞かせて欲しいと思っていた所だったのだ」 


「そうか、じゃあ参加させてもらうよ」


 用意されていた空席を引き、オルフェーヴルは座る。

 こうして、久方ぶりの夕食会が開催された。











「………………ん?!……肉汁が……うまいな、なんだこれは」


「ん?小籠包、こっちには無かったですか?」 


「小籠包……いや、ないな。」


 丸い大皿に置かれたレンゲに1つずつ載せられている小籠包。

 それを不思議そうに持ち眺めていたセルジオ。

 1口で食べるのだろうか……と、口に含み噛んだ瞬間弾けでる小籠包の肉汁に目を見開いていた。

 熱さと旨みの爆弾に思わず口元を覆ったセルジオにニヤニヤと笑ってしまう。


 今回も、勿論作れない芽依は全てメディトーク任せであり、しかも小籠包は作り方も分からない。

 だが、自分が食べたい為に無理を言った芽依の話を良く聞いていたメディトークは、こんな料理と伝えられた後、少し悩んでから迷いなく料理を作り出した。

 

「………………なんなのこのスパダリ蟻、いつもありがとうございます」


 そんな料理を食べたセルジオは、やはりいつもの料理評論家となり、調味料や作り方をブツブツと頭の中で展開している。

 いつか作ってくれるのだろうか。


「…………メイ、最近庭はどうだ?」


 セルジオをニヤニヤ見ていた芽依は、アリステアに呼ばれて顔を向ける。

 暖かな食べ物を皆で食べ初めてホッとしたのか、いつもより穏やかな表情をしている様子に芽依も笑った。


「そうですね、今は庭の半分が復旧してます。まだ土が使える状態になったばかりですから植えるのはこれからなんですけれど、このままでいけば2週間後には全種類じゃないですけど収穫が可能になりそうです」


「それは……本当なのか?随分早いんだな」


 オルフェーヴルがシチューを食べる手を止めて聞いてきた。

 それはそれは驚いた顔をしている。


「はい、やっぱり生きている土を混ぜ込んだのが良かったみたいです」


「………………ん?土は全滅だったのだろう?」


「………………あー、いえ。私の備蓄場所に作っていた庭は何故か無事だったので、そこから移植したんです」 


「そんな奇跡的な事があったのか…………」


 素直に驚くオルフェーヴルに芽依は困った様に頷いた。

 これは、他の人達が野菜が作れると分かり芽依の元に駆け込まない為に口外禁止となった内容であった。

 チラリとアリステアを見て、頷くのを確認してから話した芽依だったが、隣に座るセルジオの長い足が芽依の足に軽く触れ注意を促してきた。


「えーっと、それでですね。私たちの作り直した土をメロディアさんの庭の一角に預けています。土の活性化を見る為に試験的にですけど、これが上手くいったら、私達の庭と同時にまずはメロディアさんの土の復活をと思いまして」


「なるほど、メイの土を混ぜても問題は無さそうか?」


「メディさんに確認済みです。出来たての土でまだ何も作っていないので、変な癖もないから大丈夫だろうとの事でした」


「そうか、メロディアの土も回復してくれると良いな」


 土にも作成者の癖が着くらしく、すでに作物を作っている土では相性があるのだとか。

 それを無視して土を移植すると、作物が育たなくなったりするらしい。

 例えばフェンネルの土を芽依の土に混ぜ込むと、芽依の土が冷え込み作物が凍りついたり、芽依の土を他人の土に混ぜたら突然変異の暴れる作物が出来上がる可能性があるのだとか。

 だから、庭関係の販売元にはまっさらな土が沢山用意されていて、新しく作る庭の為に販売されるのだが、そちらもシロアリ被害にあっているので現在セイシルリード達販売者は取り寄せ中らしい。

 なので、芽依の土は起死回生の一手になっているのだ。


 (何故に私の土で暴れる作物になるのよ。原因は大根様なのか?奇跡のごぼう様なのか?)


 元々育てていた芽依の土を芽依の庭に移植する分には問題はないようだ。

 また、新しい土での野菜はまだ作って居ないため、薄まってギリいけるんじゃないか……とのメディトークの見解であるらしい。


「………………どうにか上手くいってくれたら嬉しいな」


 力無く笑うアリステアに、芽依は慌てた様に牛乳プリンをアリステアの口の中にスプーンでねじ込んだ。



 

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