ガラガラのカテリーデン
芽依は、ジュースを各1人1瓶渡してからカテリーデンに向かった。
あれは、フェンネルの庭の野菜から溢れ出る野菜ジュースであり、一日に何度も涙の様に溢れるのだ。
野菜不足の今は、それも十分な栄養補給とも言えて、溢れて土に流れないように芽依は箱庭を使って回収していた。
それでも流れて土に還る野菜ジュースを見ていると、これって栄養あるよね……?と干からびた土にバシャリと掛けた芽依の奇行に驚いたハストゥーレは目をぱちくりとしていたのだった。
そんな野菜ジュースを少年含むあの場にいた数十人に分け与えた芽依。
それだけあげても、フェンネルの庭からは冷てぇぇぇ……命の水だぁぁぁ……と涙を流す様にダバダバと吐き出してくれるので本数が減っている感じがしない。
それ程在庫を抱えている。
「………………メイちゃん」
「なぁに?」
「君が優しいのはわかるけど、あまりむやみにあげたりしないでね?」
フェンネルが言いずらそうに芽依に話すと、メディトークの上に戻った芽依は、目を丸くしてフェンネルを見た。
「…………ごめんなさい、先にあげて良いか聞けば良かったね」
「いや、それはメイちゃんの物だからいいんだけど……」
ゴニョゴニョと言い渋るフェンネルに首を傾げると、ハストゥーレも眉を下げて芽依を見ていた。
おや?と首を傾げると、メディトークが振り向き芽依を見る。
『お前がしたのは、等価交換がないものだ。それは、相手に好意がある場合にしかしないと言っただろう』
「………………………………あぁ!等価交換!」
「忘れてたの?」
「い、いや……覚えているよ」
目を泳がせる芽依をじとりと見る。
「………………忘れてたでしょ。僕達には幾らでも愛をくれていいけど、そこらの人にはだめだよ。そこらの人達と僕達を同じように扱わないでよね?」
「す……すみませんでした」
本日の目的地であるカテリーデンに着いた。
人があまりいないのだろうか、この時期のカテリーデンは外気の暑さと人の熱気で入口から既にもわりとした暑さが立ち込めていると聞いたのだが、からりとした暑さしか感じなかった。
「………………メディトーク様」
『今日は販売ではなく視察に来た』
「伺っております、どうぞ」
カテリーデンの職員は頭を下げて、中へと促した。
いつもは、沢山あるブースが全て埋まり人が溢れるくらいにカテリーデンにいるのに、ブースの半分も販売員は居らず閑散としていた。
勿論野菜は無く、主に肉や乳製品があるだけで見に来ている客たちも首を横に振るだけでブースの前を通り過ぎて行った。
「………………うーん、見事に肉肉肉だねぇ」
「そうですね、これではカテリーデンの運営自体が難しくなりかねません」
『布製品なんかの方は変わりねぇのか?』
「はい、そちらは変わりありません」
一緒に来てくれた職員に聞くメディトーク。
場所によっては今まで通りの販売をしているようだが、食に関する販売は想定内の変化であると話してくれた。
シロアリ駆除が終わったあと、庭の壊滅の情報はすぐにドラムスト中に連絡されていた為、予想は付いていたらしい。
来る客達も、野菜がないのは分かっているのだが家にいても落ち着かなくなって来ていて、仕事が終わったらふらりと立ち寄る人も多いのだとか。
まだ暴動などは起きていないとの事だ。
「ドラムストの住人は好戦的ではあるけれどマナーには煩い人が多いんだよね」
『むしろこれから騒ぐのは貴族連中だと思うぞ』
「1ヶ月以上たったからねぇ乾燥野菜にして保存してないなら難しいよね」
「……………………かん、そう?」
フェンネルが不思議そうに首を傾げると、芽依は小さく、あ……と呟いた。
「……………………そうか、保存の魔法があるから乾燥野菜の概念ない?」
「うん、まず、それがわからないかな」
一般家庭では、備蓄しても良くて1ヶ月程らしい。
だが、貴族では少なくとも半年分程の備蓄は必ずあるのだとか。
良心的な貴族であれば、領民が食べ物をなくし心を痛め配給を個人的にする人も居るらしいのだが、殆どは保身に回ってしまう。
それも仕方がない事なのだろうが、一番の問題は半年が経ち備蓄が無くなった後だという。
庭に押し入り食糧を奪う低俗な貴族も居るらしく、芽依は頭が痛くなる一方だ。
前回のシロアリ被害の時は、必死に庭の復旧をしていて、やっと良くなりそうな兆しが見えた頃に貴族が土足で踏み荒らしていく事が多々あったらしい。
「……………………もし庭に来たら大根様をお見舞いしよう」
「うん、遠慮はいらないと思うよ」




