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配給用の野菜の用意

本日2回目の更新です


 温かさが更に強まり、食材の偏りによって体調不良者が最近増えてきたらしい。

 街での些細な言い争いから取っ組み合いになるような騒ぎも増え、ほんの少しの些細な理由で我慢が効かない人達が増えて来ていた。

 キラキラしていた街の空気が、淀んでいる。

 

 街に一切出てない芽依は、そんな話を人伝で聴きながら、庭の状態を確認してアリステアに報告を続けていたある日の事、ある頼み事をされた。


「配給用の野菜、ですか」


「ああ、既にあれから1ヶ月が過ぎている。家庭での備蓄が底をついた人達が多いのだ」


「それは……そうですね。特に野菜は痛みやすいですから、保存用に加工していても限度も有りますし…あ、魔術で保存は出来るんでしたね」


「ああ、だが保存する場所が限られているからな、あまり置けないのだ」


「納得です」


 素直に頷く、その通りだろう。

 店先から野菜が消えて3週間が経つ。

 家庭での備蓄も限界が来る時期だ。


「備蓄部屋の庭はまだ収穫可能なので提供出来ます。元々の備蓄もまだ有りますから……ドラムストの備蓄はもう……?」


「いや、まだある事あるのだが、肉や魚も含めての備蓄の為野菜だけを大量に備蓄していた訳ではなくてだな」


「今後足りなくなる可能性があると言う事ですね……そうですよね、提供は出来ても補填はされてないですから」


「ああ、メイにばかり負担を掛けて申し訳無いのだが頼めるだろうか」


 困ったように頼むアリステアに芽依は微笑む。

 アリステアから芽依への直接的なお願いは、あまりないからだ。

 同じ屋根の下に住み、色々な相談にも乗ってくれるアリステアの頼みだ、勿論頷く以外ない。

 立場的に表立って芽依の傍に付けない時もあるが、彼も彼なりに芽依を気にかけている。

 それが分かるからこそ、芽依も出来る限りの手助けをしたいのだ。


「勿論です。必要な野菜があれば個別に教えてください。足りないようなら作りますので」


「ああ…………備蓄部屋の庭が無事で本当に良かった、メイありがとう」


「いいえ、今まで助けられましたからこれからは恩返しをしなくてはいけませんからね」


「………………そうして貰えるだけの事はしていないのだがな、メイについてはこちらの不備も多いではないか」


「それは仕方ない事じゃないですか」


 時にこの世界の常識的なことでも、芽依に寄り添い柔軟に考えてくれる。

 最初は特殊な立ち位置の芽依に戸惑いも多かっただろうに、アリステアは芽依に最大限の気遣いを見せてくれていたのだ。

 そんな相手のあまりしない頼みを無下にするほど芽依も酷い人ではない。


「出来る限り手を貸しますので、遠慮しないで言ってくださいね。私は言われなくてはわからないです。察する事は、この世界では難しいので」


「…………ああ、いつもありがとう」


 素直にお礼を言ってくれるアリステアが領主で、ドラムストは幸せだなと笑った。




 芽依が頼まれた食材の種類に指定はなかった。

 作る料理は雑炊らしく、出来たらそれに合うものだと嬉しいと言われ、メディトークと相談する旨を伝えてから庭に向かった芽依。


 その途中、定期連絡の為に訪れていた移民の民とその伴侶に遭遇した。

 シロアリによって減らされた移民の民の希少性が跳ね上がっていて、以前にもまして横柄な態度で歩いている様子だ。

 そんな彼は、芽依を見て不機嫌そうに顔を歪めた。


「………………お前はいいな、庭があるからさぞかし食材を溜め込んでるんだろ?なぁ、分けてくれよ、腹減ってんだよこっちはよ」


 あの緊急会議の時に突っかかってきた移民の民と、人外者の伴侶である。

 上手く逃げおおせた彼らも、今では空腹を抱えるただの1人になっていた。

 珍しく1人きりの芽依に抑止する人が居ないからか、男性は言いたい放題である。

 

 確かに芽依には蓄えがあり、空腹も感じてはいない。

 しかし、それは庭持ちである事もそうだが庭の復旧作業を余儀なくされる今、空腹で動けない状態になる訳にはいかない事も加味されている。

 だから、芽依だけじゃない庭持ちも食材がない人はアリステアから個別に配給がされ空腹を間逃れているのだ。


 しかたないだろう、作物を作る人が潰れては本末転倒だ。


 それは領主館で働く人達も。

 芽依達の世界での遙か過去のように領主が私腹を肥やして領民が苦渋を舐める生活に嫌気がさし……と言った具合になりそうではあるのだが、あくせくと働き庭の改善の為の手助けや、領民の為の政策を常に発案し、実行しているアリステアを悪く言う人はあまり居ない。


 事実、すでに街では争い事が頻発し始めているため、騎士達の巡回回数や人数を増やす対応をいち早く行っていた。

 その騎士に相談などをすると、アリステアまで話が行き、出来ることは実行される。


 そんな領民に寄り添ったアリステアだからこそ、空腹に喘ぐ事になっても歯を食いしばり我慢するのだ。

 時期に良くなると信じて。


 だが、それでも今はまだシロアリから1ヶ月、回復の目処が立っていないため不安は拭いきれない。


「配給がされてるはずですよね?」


「街中ではな。だが俺は移民の民だぞ?行けるかよ!」

 

「……………………なんで行かないの?お腹すいてるんですよね?」


「だから!移民の民なんだよ!!偉いやつがなんで街で配給扱いなんだよ!」


 当然のように言うその人に思わず首を傾げる。

 この人は何を言っているのだろう。

 しかし、それはすぐに何故かわかった。

 隣にいる人外者の伴侶が当然だとでも言うように頷いているからだ。


 なるほど、彼の教えが移民の民の男性の認識をそうさせたんだなと芽依は頷いた。


「移民の民は別に偉くないですよ」


「……………………は?なんだと?」


 2人のやり取りに仕事中の人達が足を止める。

 芽依の存在は既に領主館で働く人達に認識されつつあるのだ。

 どうした?大丈夫か?とチラチラ見ているのを感じながらも道を譲らない相手が居るから動く事も出来ない。


「私達は別の所から来ただけの一般人に過ぎないじゃないですか。人外者っていう強いひとが伴侶になったってだけで自分が偉い訳でもないし、強い力は伴侶のおかげ。領主館に来てアリステア様に取り成して貰えるのも国の保護下にいるからだけど、その対価を渡している以上は働いている状態と変わらないだろうから、なんの特別感もないじゃないですか?一般人が働いているだけだと思うんですけど……」


 事実、今の芽依はフェンネルやハストゥーレの特別であり、メディトークも少なからず似た様な感情を持っているだろうが、この世界から見た芽依は特別でもなんでもない移民の民の1人に過ぎない。

 他より食材を豊富に作る事の出来る移民の民と言うのが一番の評価ではないだろうか。


 そんな芽依だからこそ、彼の言う特別に頷けなかった。


「……………………まあ、そう思いたいのならご自由に」


 面倒事に巻き込まれたくない、言いすぎたなぁ……と思いながら頭を下げた。

 芽依だって、この3週間疲れていない訳じゃない。

 無駄に体力を減らしたくないと、通り過ぎようとした時、芽依の腕が掴まれた。


「あんたは違うだろうがな、俺の伴侶は特別だ。あんたみたいな一般の移民の民とガーディアを一緒にするな」


 ガーディアとはこの移民の民の名前だろう。

 違う世界から来た移民の民だから、名前の感じが違うのも頷ける。


「………………どうでもいいですけど、絡んでこないで……」


「はい、火に油を注ぐような事は言わないようにね」


 疲れた芽依のうっかりした本音がペロリと出てしまった瞬間、芽依の背後から両肩に手が乗った。








 

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