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シロアリ駆除から1週間


 あれから1週間が経った。

 芽依の庭から収穫された食材の一定数は既にアリステアに納品済みである。

 これは有事の際に決められた量を納品する、芽依が国に保護される条件である。


 それを提供しても、まだ芽依の備蓄庫には沢山の食べ物があり、肉やチーズ等の乳製品もある。

 フェンネルの雪の下野菜は奇跡的に無事で、芽依達の食料は問題なく確保されていた。


 しかし、庭の再生には時間がかかり、1週間がたっても広大な庭の潤沢だった土は1割も戻ってはいなかった。


「………………不安になる」


 カラカラに干からびている土。

 全てでは無く、1箇所を重点的に栄養を入れ備蓄部屋の土を混ぜ空気が入るように柔らかく掻き混ぜる。

 少量ずつ水を含ませ、湿り気を出そうとするが、それも難しいようだ

 それを繰り返す事1週間、まだ改善は見られていない。


「メディさん、土作りってこんなに時間が掛かるものなの?」


『いや、通常なら1週間もあれば良い土が出来てる。野菜なんかを植えだす時期だな』


「じゃあどうして……」


「あのねメイちゃん、土って中に微生物や小さな虫型の幻獣がいるんだけど、それも栄養の一種だから全部シロアリが栄養として吸収してるんだ。薬液とかを与え、通常はその微生物や小さな幻獣が養分を一気に増やす役割があるんだけど、それが居ないから上手く栄養が行き渡らないんだよ」


『お前んとこの土を混ぜ込んでるからこれから増えるだろうが、圧倒的に数が足りねぇ。だから時間が掛かるんだ』

 

 同じ土でもフェンネルの土は性質が違いすぎる。

 もしフェンネルの土を混ぜたら、寒すぎる土に栄養の無い土は勝てずに全てが冷たい土に変わるようだ。

 そうなったら芽依の庭ではなくなるし、何より手入れはフェンネルにしか出来なくなる。

  地道に土を起こしていくしかないようだ。


「これ、ドラムスト全域なんだよね……野菜、大丈夫なのかな」


「………………だから、大飢饉になるんだよ」


「ちょっとナメてたわ、私」


 はぁ……と息を吐き出して顔を覆った芽依の横にしゃがんでいたハストゥーレが心配そうに芽依を見つめる。

 そんなハストゥーレに気付いた芽依は眉を下げ困ったように笑った。


「………………大丈夫、ハス君やフェンネルさん、メディさんのご飯は私が確実に確保するから、ひもじい思いはさせないからね」


「ご主人様……」


 任せろ、と笑う芽依に思わず頬を染めるハストゥーレの可愛さに癒された芽依は、何とかしないとなぁ……と土を撫でた。


 芽依の備蓄部屋では、まだ元気に作物は作り続けている。

 その為確保は出来るだろうが、周りの状況を無視して自分たちだけ……という訳にもいかないだろう。

 困ったなぁ……と頬杖をつきながらサラサラの土を触った。




 1週間、それは個人で備蓄している家庭はまだ食料も残っているだろう。

 だが、これが2週間や3週間となったら話が変わってくるのだ。

 1週間がたった今、土の改善にまだまだ時間が掛かる。

 さらに作物を作るには更なる時間を要するだろう。


 だが、肝心の肥料が不足していて土の改善に時間が掛かる。

 これはもう、堂々巡りではないか。


 



「もう!飲まないとやってられなーい!!」


 酒瓶片手に芽依は叫ぶ。

 テーブルには貴重になるだろう食材で作られたおつまみがあるのだが、座った目をした芽依がメディトークの横でブツブツと言い続けていた為追加で作ってくれたのだ。

 曰く、頑張ってる私にご褒美を……ご褒美を……

 これに一緒に参戦したフェンネルの為の牛乳プリンもテーブルに置いてあるあたり、2人の執念を感じる。


「あんなに頑張って作っていた庭が一瞬で!果樹も増やし始めていたのに……全滅なんて!!ニア君の好きなぶどうまで潰されて!ゆるせない!クソ蟻め!!」


『クソ蟻……』


「貴方はスパダリ蟻」


 ガブガブと流し込むように酒を呷る芽依の隣には、まだ地獄を見ていないフェンネルが静かにプリンを嗜んでいた。


「プリプリに大きくなる野菜が出来る土だったのに……」


 目を座らせ、だが目元を酒で染まり出した芽依を見たハストゥーレが水を差し出す。


「ご主人様、少しお水を飲んで下さいませんか……?」 


 冷えたグラスに入った水は、水滴を流しハストゥーレの腕に流れる。

 それを見た芽依は、首を横に振った。


「わたし、きょうは……お酒さん」


『あ、こりゃダメだな』


 ふわん……と酔いが回った芽依はゆっくりとフェンネルを見る。

 最後の一口を大事に食べたフェンネルは、テーブルにある別のプリンをロックオンした時だった。


 真っ白なフェンネルの腕を掴む。

 ん?と首を傾げて芽依を見た瞬間、ビクンと肩が跳ねた。


「………………わたしのおもち」


「違う違う違う違う!メイちゃん!」


「いただきまーす…………あぐ」


「いったぁぁぁ!メイちゃん痛い!痛い!本当なんで本気噛みしてくるの!?ちょっ……乗り上げないで、ねーえぇー」


 またもやフェンネルの腰に乗り上げ馬乗りになった芽依を下ろそうと奮闘するのだが、今回は残念な事に腹部のシャツが捲れていた。

 真っ白で弾力のある腹部を見た芽依は、手を置きヤワヤワと触る。


「ちょ……ちょっと……」


『こらメイ、セクハラやめ……』


「はんぺん……?」


『ブフッ』


「僕あんな柔らかい平べったいものじゃないからね!?」


「………………ちがう?あーー」


「こらぁぁ!口開けないの!!」


 フェンネルがここに住むようになって、数回酒盛りは行われてきた。

 その度にフェンネルは芽依に噛みつかれるのだが、それでもフェンネルは必ず芽依の隣に座る。

 芽依の酒の被害者第1号であり、一番の被害者である。


 ちなみに、メディトークは気付いたら珍味と足をかじられていて、ハストゥーレはフェンネルに遮られまだ被害なしである。

 ハストゥーレは、それに寂しさを感じていたりする。


 






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