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シロアリの弊害は世界を揺るがす


 地面に座り込み、ほっと息を吐き出す。

 シロアリが去ってから少しの休憩とばかりに座ったら疲れているので立ち上がるのが億劫なのだ。

 眺めた庭は、もう悲惨な事になっていてもう一度土から育てなくてはいけない状況。

 芽依達でさえ、復旧にだいぶ時間が掛かるだろう。


 そして、至る所に倒れている人たち。

 騎士だったり人外者だったり、移民の民だったり。

 その傍らで泣く人もいれば、粛々と片付けや亡くなった騎士を運んでいる人達もいる。


 沢山の人達が亡くなった。

 餌として見られる移民の民を必死に守ってくれた騎士や人外者が。

 そして、移民の民も。

 半数程が命を落とし、泣く伴侶や、逆に人外者の伴侶を亡くして片翼となった移民の民が呆然と座り込んでいたり。


 この惨状の中、落ち着いて座っているのは極少数だろう。


 怪我をしているがミチルは無事だ。

 ユキヒラもショックを受けているが大丈夫。

 こうした人外者の襲撃は芽依にとって初めての事だが、この世界では事故に合ったくらいの頻度で世界各地様々な事件が起こる。

 だからだろうか、心を痛めていても、騎士やブランシェット達は顔を歪めながらも後始末をするのだ。


「………………人外者達の争い、こんなに凄まじいんだね」


『まあこんなもんだろ、こっちに被害がない場合はな…………くそ、庭やり直しじゃねぇか』


「………………あ、メディさん足は!?」


『足……?あるぞ』


「弾け飛びませんでした……?」


『生えるだろ、足くらい』


「生えないよ!?」


 プラプラと足を動かすメディトークに、フェンネルを見ると苦笑している。

 昆虫型の幻獣には再生能力持ちも多いが、中位の幻獣の再生スピードではないようだ。


「…………はぁ、メイちゃん無事で安心してお腹すいちゃった……プリン食べたい」


「私も」


「………………私も食べたいです」


『冷蔵庫にあるぞ』


「「プリンの神様ありがとう」」


『拝むんじゃねぇ』


 メディトークに拝む芽依とフェンネル。

 そんな様子を今、芽依の庭に到着したアリステアとセルジオ、シャルドネが見て脱力した。


「……………………何をしているのだ」


「アリステア様……お疲れ様です」


「ああ…………無事で良かった…………とは言えない状況だな」


 周りを見てアリステアは息を吐き出す。

 悲しげに伏せた目で胸元に片手を置き、亡くなった騎士たちが安置された場所に向かって頭を下げた。

 

 アリステアはこの領地の指揮する立場にいる。

 彼が居なくなっては困る為、このような最前線で戦うことを常日頃から避けなくてはいけなかった。

 強い力があっても、どうしても現場に駆け付けるのは様々な処理が終わってからになってしまう。

 それにアリステアも心を痛めているのだが、どうしようも無いこともある。

 国やドラムストの戦争やそれに類似する事、突発的な事以外はアリステアが表立って戦うことはあまりない。


「移民の民が残ったのは……7人か」


「良くここまで残りましたね……正直全滅に近い状態になってもおかしくなかったですから」


 シャルドネの言葉にぞわりと体が震えた。

 それに気付きアリステアは眉を下げる。


「…………すまないな、我々は別の処理や他の街にも行く必要があったのだ。皆がメイの庭に居ることはどうしても出来なかった」


「…………わかってます。アリステア様が守るのはここだけじゃありませんから」


「予想以上にスピードが早かった事と、シロアリが力を蓄えていました。ドラムストに来る前に移民の民を多く食べたのではと思います」


「………………ん?シロアリが移民の民を喰うのは前回で分かっているが、力が増すのか?」


 アリステアが首を傾げて聞くと、シャルドネはスイッ……と顔を背けた。

 明らかに教えません、の様子だがアリステアの知らない情報である。

 フワフワと重なり揺れる服を掴み聞くが顔を向けてはくれなかった。


「……え?シャルドネ?」


「激しい対価をいただきますよ?」


「激しい?!」




 7人、ミカを入れて8人の移民の民が残った。

 これは、前回のシロアリの時ひとつの領地に居た移民の民を全滅させることの方が多かったシロアリを考えると、被害はとても少ないものとなった。

 移民の民がどれだけ生き残れるか、これは今後の復興にも関わるのだが、なにより国としての戦力が大幅に下がる事も意味している。


 実際、前回のシロアリの時の話。

 シロアリ進行に巻き込まれた国の移民の民が全滅した。

 その国は大きく、また移民の民も沢山抱え軍事力としても他より頭を1つ抜けた存在だったのだが、シロアリによる被害が甚大であった。

 庭の全滅で採取量が大幅に減り、更に大飢饉に直面した時、移民の民が不在の国は簡単に他国に滅ぼされたのだ。

 大きな国が、だ。


 食材を求めた他国、その国は3人の移民の民がシロアリから逃げ切る事ができた。

 その違いだけで、人外者の強い協力が有るか無いかの差が、この国の命運を分けたのだ。

 過去のシロアリの時、これが原因で潰された国や領地は1つ、2つではない。


 だから、アリステアは強く頼んだのだ。

 最強に近い雪の力を持つフェンネルの庭で皆を守り、後のドラムスト再建に豊穣と収穫の強い祝福があるメディトークと芽依の援助を。


 このシロアリの災害は、今もそうだが後の大飢饉に物凄い影響を及ぼすのだ。


 








 

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