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シロアリ進行の本当の目的


 歓喜に震える女王蟻の異変に気付いたのは誰も居ないようだ。

 それもそうだろう、今はみんな自分が死なない為に必死なのだ。

 しかも、チサメが無惨な殺され方をしたばかり、恐怖が最高潮に達している移民の民達はパニックどころではない。

 いつ自分がそうなるのかと動けなくなって居る人達が大半だ。

 いくら慣れてきても、戦いの中で育った訳では無い一般人である芽依達移民の民に、この状況に慣れて動けと言うには少し酷というものだ。


 しかし、自ら動かないと死ぬしかないのも事実。

 ハストゥーレに守られ、命の危機を脱した事で息を整えながら立ち上がったフェンネルも復活。

 ハストゥーレと2人がかりで兵隊蟻を倒しつつ、近づく隊長蟻を見つけたらそちら優先で討伐をする2人。

 そんな2人に守られながら芽依は女王蟻を見る。その腹部を。

 

「………………なに、ハス君……今……なんか」


「ご主人様?如何しましたか?」


「今、お腹がポコってしなかった?女王蟻」


「申し訳ございません、見ておりませんでした……」


 困惑しながら謝るハストゥーレだったが、メディトークはバッと振り向き芽依を見る。


『…………腹が動いただと?』


「うん、見間違いかな、ポコンって……」


『……………………あぁ、くそっ!!繁殖期かよ!!だから栄養をとってたって訳か!』


 ズシン!と近付く隊長蟻を蹴り飛ばしたメディトークはその隊長蟻を女王蟻目掛けて吹き飛ばすと、女王蟻は足で受け止め地面に落とす。

 腹目掛けて飛ばしたのだが、かすりもしなかったのだ。


「は、繁殖期……?」


『蟻を含む昆虫型の幻獣には繁殖期があるヤツも少なくねぇ!子に栄養を与えたくても土から思うように栄養を取れねぇから出てきたんだろうよ!見てみろ!食う度にガリガリだった身体は肉付いて……腹が膨れてきてやがる』


「チサメは片翼だ、良い栄養分とされたって訳か」


 隣に現れたゼノが舌打ち混じりに言う。

 チサメと一緒にいたゼノの心情は計り知れない……と芽依はゼノを見上げたが、イライラとした様子しか見受けられなかった。


「じゃあ、前回のも繁殖期だったって訳かよ」


「あの時に生まれたのがあの女王蟻って事かなぁ」


「今までシロアリの繁殖期などでこんな事無かった筈でしょ?なのに繁殖期だなんて……」


 メロディアとユキヒラも合流。

 少なくなってきた移民の民は出来るだけ集まっているのか、ミチルも別の人と一緒にいるのが見える。


「……ディメンティール様の祝福が無いからでは……ありませんか?あの方の力は多方面に多大な影響がありましたので」


『十分ありえるな。アイツの土の栄養を送る恩恵が足りなくて、以前は取っても無くならない栄養が枯渇したんじゃねぇか』


「繁殖期の一番栄養が必要な時に足りなくて歩き回って栄養補給してたって訳かなぁ?……でも、それでメイちゃんを狙うのはいい迷惑だよ」


 フェンネルは目を眇めて女王蟻を見る。

 動く度に揺れ出てきた腹をかばいながら歩く姿にギリリ……と歯噛みすると、芽依達より女王蟻に近いミチル達に狙いを定めたようだ。

 兵隊蟻と、隊長蟻が一斉に近付いたことで、まだ30代程の男性の移民の民がパニックを起こしミチルの腕を掴んだ。


「きゃあ!」


「ミチル!!」

 

「ミチルさん!!」


 すでに負傷しているミチルは引っ張られるままに体を兵隊蟻の群れに投げ込まれた。

 ミチルが襲われているあいだに逃げようとしたのだろう、振り返り今度は芽依達の方に一目散に走り出したが、そんな男を見ている余裕はないのだ。

 

 噛み付かれる痛みと体を這う小さな蟻の感触に、ミチルはゾワゾワと振るえ悲鳴を上げた。

 絶望するレニアスの叫びを聴きながら、芽依はも同じく叫ぶ。

 すると、輝く力強い味方真っ白に輝く大根様がくるりと回り、凄まじいスピードでミチルに向かって飛びかかっていった。


 今は見ることのない、太く長い素晴らしい白さの大根様である。


 そんな大根がミチルの傍に付いた時、大回転をしてシロアリを吹き飛ばし、3体の隊長蟻を大根は大きく振りかぶって特大ホームランをかました。

芽依の庭から3体の隊長蟻が勢い良く吹き飛ばされた。


「場外ホームラァァァン」


「………………なんだあの大根……」


 ゼノがポカンと口を開けていると、周囲からシロアリを排除した大根はすごい速さで桂剥きを自らして体積を減らし、ほぼ布切れとなったミチルの服の代わりに薄っぺらな桂剥き大根は体にふわりと寄り添った。


「…………いや、なんだあれ」


「大根……の、筈です」


「ご主人様の大根は素敵です!」


「ハス君……そんなキラッキラな目で見てくる君が尊いよ……」


「……うん、メイちゃんの大根だからね」


『奴隷2人、お前らまでお花畑な頭どうにかしろよ、その花毟り取るぞ』


 体積を減らした大根は瑞々しさを全面に出しながらミチルの隣で守るように佇んでいた。


『…………レニアスの仕事だろうよ』


「あらぁ、泣いてない?レニアス」


「…………ご自愛ください」


『ぶふっ……ご自愛くださいってお前……やめろ』


「なんか……余裕だねぇ」


 戦闘中の筈がここだけほんわかとしている。

 だが、芽依の隣に来た男の存在にフェンネルの目は鋭くなった。

 そして、すぐに芽依を抱き上げる。


「あ…………」


「メイちゃんの隣に立たないで。あの子みたいにメイちゃんをシロアリの中に入れたら僕が君を殺すからね」


「ご主人様、フェンネル様、こちらに」


 ミチルのように生贄のように芽依を扱うつもりだったのか小さく声を上げた男性だったが、キラリと輝くフェンネルに口を閉ざす。

 いや、美しさに反論出来なかったのが正しい。


 ミチルは鉄壁の防御、大根様に守られ無事。

 それを見た女王蟻は足を踏み鳴らし奇声を発した。

 悔しがっているのか、体を揺すり足を鳴らすのを、隊長蟻より一回り大きなシロアリがなだめている様子に芽依は眉を寄せた。


「………………あんな大きいのいた?」


「進化したのです、ご主人様」


『ありゃ、王だな…………隊長蟻の中の一匹だけがなるヤツで、最後の出産の時王と力を合わせて沢山の子と次の女王蟻を産むんだ』


「なら、あの蟻潰した方がいいんだね」


「んー、そうじゃないの。あの王を倒しても隊長蟻からまた王が生まれるんだよ」


「えー、蟻めんど」


『悪かったな』


「メディさんはただのスパダリ」


「メディトーク様、貴方様はシロアリとは違ます!」 


「そうだよ!素敵なプリンの神様だよ!」


『最後おかしいだろ』


「………………お前らこんな時に良く愉快な話してられるな」


 呆れるゼノは女王蟻を見た。


「………………まわりも潰れてるし、チサメの弔い合戦でもするか」


 ゼノの小さなつぶやきに芽依は静かに頷きフェンネルの髪を無意識に握りしめた。



 

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