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極寒の中での戦闘


 噛み付かれ服が破れ腕が見える。

 真っ白な雪にパタパタと鮮血が落ちたが、それを見る余裕は無かった。

 まだ張り付いているシロアリを手で払いのけると無事に体から離れたのだが、ゾロゾロと芽依に近付いてくるのが視界の端に入ってくる。

急いで立ち上がろうとするが震える手足に力が中々入らなかった。

 すぐさま走りよって来たメディトークによって抱えられ、立ち上がったフェンネルに渡される。


「ごめん!」


『頼むぞフェンネル』


「うん!」


 花雪であるフェンネルが今一番の安全な場所と捉えていたメディトークは、芽依を最初から預け守りに徹していた。


「芽依ちゃん、戻るのは難しいからここで防戦、寒いから僕なら離れないでいて」


「…………ん」


 あの魔術の折り重なった陣は指定した人物の体感温度を保つもので、凍りつく寒さに維持されている芽依の庭の中で唯一暖かな場所だった。

 既にマイナス気温、芽依はガクガクと震えフェンネルの傍に寄り添うが温まる気配は微塵もない。

 

 そんな中でも動きを鈍くした蟻達はなおも芽依を狙い進軍するし、移民の民が集まる魔術陣の中にも蟻は沢山入り込み中は阿鼻叫喚と化している。

 広がる様々な魔術が交差し、攻撃や防御が繰り返されシロアリが吹き飛んでいるが、同じだけ仲間にも被害が出ている。

 移民の民が居ない場所では遠くに運ぶだけのシロアリが牙を向き高ランクの人外者に歯向かうのだ。

 意識の無くなった幻獣ならいざ知らず、しっかりと統率の取れた幻獣がだ。


「もう本当に……冗談じゃないよっ……!」


 芽依を片手に抱えたまま、氷の結晶で出来た剣を作り出し集まるシロアリを蹴散らしていくと、突然芽依を強く抱き締め上空に退避した。


「うっ…………」


 急激な上昇に息を詰め、真っ白な息が吐き出される。

 耳や鼻が赤くなる所ではない、すでに手足の感覚はなくなってきていて震えが止まらない。


「メイちゃん……メイちゃん!」


 意識が遠のきそうになる度に何度も芽依を呼ぶフェンネル。

 しかし、5体の隊長蟻が来たことにより退避した上空の寒さは地上の比ではない。

 雪を操る人外者のフェンネルに寒さはあまり関係ない為そこまでの理解が追いついていなかったのだろう。

 ガクリと頭が垂れた芽依の体が危険信号を放ちフェンネルの心臓に強い痛みを与えた。

 グッ……と小さく声を上げてから慌ててフェンネルは隊長蟻を踏み潰す勢いで下降し、芽依が汚れないようにしっかりと抱えたまま魔術陣へと急いだ。

 その間も、強い痛みがフェンネルを襲う。


「フェンネル様!ご主人様は如何しましたか!?」


「ぐ……っハス……く……寒さで……」


「!かしこまりました!変わります!!」


「っ………………やっぱり駄目、か……離れたら……シロアリの前に……メイちゃん死んじゃう……」


「すぐに保温いたします!」


「おねが…………」


 魔術陣に戻る様子を見ていたハストゥーレがすぐに受け取り保温魔術を重ねがけして芽依の体を温める。

 どさり……とフェンネルが倒れたのをメディトークは見ていたが、他の移民の民を守っていて駆けつける事は出来ない。

 

 攻撃をしてこない人外者には無視を決め込んでいるらしいシロアリは、倒れているフェンネルをスルーしたからこそメディトークも駆けつけなかったのだが。


「ご主人様!気を確かに!!」


「………………ハス……く?」


「はい!!良かった、意識が戻りました……」


「………………ふぇ……ね……?」


「大丈夫でございます。フェンネル様もこちらに…………転がっております」


「大丈夫……心配しないで」


 心臓を抑えて蹲るフェンネルをハストゥーレはなんと説明すれば……と慌てて転がっております、と伝え、フェンネルも震えながら手を振り無事を伝える。

 そんなこちらもある意味瀕死な状態な芽依達。

 だが、ここには女王蟻が既に到着していて本当の戦場になっていた。


 応援に来ていた騎士の大半は傷付きながらもシロアリ討伐をしている。

 兵隊蟻はまだいいのだ。数は多いが吹き飛ばす事は可能。

 だが、隊長蟻が来ると魔術により時間が止められ多大な被害となる。

 この場に集められた移民の民達の半数が既に喰われ女王の腹に収められてしまった。

 幸いにもユキヒラは無事であるし、怪我はしているがミチルも存命している。


 途中、気付かないうちに合流していたゼノとチサメの2人は表立って戦ってくれている。

 流石片翼とでも言うのか、チサメはとても強かった。

 繰り出される特殊な魔術を駆使して沢山の隊長蟻を倒していく。

 それを遠目に芽依が見た時だった。


 強かった。

 強くて隊長蟻を沢山倒していた。

 だからこそ、女王蟻に目をつけられたのだ。


「ああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「チサメ!!」


 兵隊蟻に囲まれ払い除けている最中に、2体の隊長蟻に同時に魔術を掛けられた。

 その一瞬の隙に女王蟻によってチサメの体は持ち上げられる。

 自分より数倍大きな女王蟻の顔の目の前まで持ち上げられ、真っ黒な瞳に見つめられたチサメは体が動いた瞬間魔術を繰り出す。

 しかし、首を傾げるようにその魔術を避けた女王蟻が無惨にもチサメの左足をもぎ取った。


 血飛沫が飛び、ゼノの顔にべチャリとかかる。

 引き裂かれた痛みに喉から血が出る程叫んだチサメの足はまるで珍味を食べるようにシロアリの口に放り込まれるのを目を見開いて叫ぶチサメが見ていた。



「…………な………………な…………」


 芽依はあまりにも残忍な様子に声を詰まらせハストゥーレの服を掴む。

 女王蟻………………あまりにも酷すぎる。

 そのまま腕、右足と千切り口に放り込むのを何も出来ず見るしか無かった。


 まだ比較的新しく来たばかりの移民の民だろう、失禁し芽依の斜め後ろで座り込んでいる。

 そんな女性に伴侶である男性の人外者が立つように声を荒げているのをまるでBGMかのように通り過ぎていった。


 チサメを食べ終わった女王蟻はブルリと身震いして雄叫びをあげた。

 片翼である彼女は、他の移民の民よりも栄養価が高かったのだろう。

 ドクリドクリと心臓が脈打つのを地面を通じて感じる。

 その不快感に吐き気がした時だった。


 女王の腹部がポコリと動いた。


 

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