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攻防戦


 ズシリ……と音を立て痩せてカラカラになってきている土を踏みしめあるく女王蟻は真っ白で、土を踏む足だけがカラカラになった土がつきハラハラと落として歩いている。

 小さな兵隊蟻達は女王を見上げて指示を待っているようだ。


 グルルルルルゥゥゥゥゥ

 キュエェェェェ!!!


 言葉にならない声が響き芽依は耳を抑えた。

 キィーーんと耳が痛み目を細めると、兵隊蟻の半数は庭に散らばり栄養補給とばかりに牙を突き立て、残りの半分と隊長蟻が一斉に移民の民たちが集まるフェンネルの庭に向かってきた。

 フェンネルの魔法陣がぶわりと飛散すると一気に寒さが身を指す。

 雪が降り出したかと上を見ると様々な花の形をした雪の結晶がハラハラと落ちてきた。

 フェンネル以外に雪属性のブランシェットや、その他の雪属性人外者は少し離れた場所で体調蟻の足止めをしているのだが、鈍る動きの中でも必死に栄養補給をする。


 吹雪がおき、地面を凍らせると、足でガンガンと蹴りつけ氷を崩す。

 土の栄養を守ることは出来るが、土が冷え切り結局すぐに何かを育てるのは無理だろう。

 辺りを冷やすことによって、見るからに蟻の動きは鈍くなる。

 寒さに弱いのは確かなようだが、それでも動けない訳では無いようだ。


「……………………このままではジリ貧ですわね」


「ブランシェット、これは中々に骨が折れるな」 


「ええ、でもここには守るものが沢山ありますもの……」 


 同じく雪の眷属の人外者が髪をなびかせて集団で動く蟻を薙ぎ払う。

 小さな蟻達は足をパッ!と開いた状態で仰向けに吹き飛ばされている。

 魔術で飛ばされているのだが、その防御力は高く傷1つない。

 これがシロアリの厄介なところなのだ。


 魔術で吹き飛ばしても水で水没させても、ビクともしないのだ。

 火は畑を伝い大火事になるので使えず、土魔術は栄養を吸い取るため逆効果。

 凍らせるのが今唯一の対抗手段となるのだが、それも時間稼ぎにしかならないのだ。


「……マズイですわね」


 既にシロアリの大軍により芽依の庭は端から順番に喰われていて、上手いのか女王が身震いしている。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!いやぁぁ!!」


 凍らせたり吹き飛ばしたりしていると、移民の民の甘い香りが広がりブランシェットは振り向くと、足にしがみつき凄まじい勢いでシロアリに群がられている女性が悲鳴を上げた。

 こんな時なのに、人外者のサガなのか甘い香りに喉を鳴らした。

 








 ブランシェットの方と数を分けたシロアリ達は、ゾロゾロと芽依達に狙いを定めて凄まじい速さで迫ってきた。

 フェンネルによって抱き上げられている芽依は真っ白な蟻の群れがギラギラと目を輝かせて迫る姿を見ると、ゾワゾワと体が振るえた。

 

「………………なにあれ、気持ちわる……」


「あれがシロアリだよ。防御力がすごく高いの。でもあの小ささに油断したら駄目だよ…………一瞬で喰いつくされるからね」


 ギュッと指先に力が入るフェンネルを見てから頷く。

 フェンネルの言う喰いつくすのは、物理的に骨すら残さず喰うのだ、バリバリと。

 そのおかげで前回の進行の時、溢れる程の兵隊蟻から隊長蟻に進化した蟻は沢山いて、ソイツらも後ろから狙いを定めている。


「ひ…………ひぃぃぃ!!」


 1人の移民の民が叫び自分の伴侶にしがみついた。

 臨戦態勢だったその人外者は火事場の馬鹿力に一瞬驚きシロアリから視線をそらす、その一瞬を、隊長蟻は見逃さなかった。

 兵隊蟻を鷲掴み、そこ目掛けて投げ飛ばしたのだ。


「投げた!?」


 目を見開き言うと、大量のシロアリが一点集中してくる、ある意味大砲のような威力だ。

 そのシロアリに押されて体がひしゃげ人外者は遠くに吹き飛び、悲鳴を上げた移民の民は一瞬で群がられ貪られる。

 血飛沫が飛び散り、無惨にも噛み砕く鈍い音が聞こえた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!いやぁぁ!!」


 バキッと骨を折る音が聞こえ青ざめ、芽依は振るえフェンネルにしがみつくと、一瞬で蟻達を凍らせたフェンネルは険しい顔で後ろから続く第2陣の砲弾を睨みつける。

 

 他の移民の民もフェンネルのように伴侶に抱き上げられ巨大な魔術の壁を作り蟻砲弾を跳ね返そうとするが、連続で来る蟻に次第にヒビが入ってくる。まさに、絶望的な光景だ。


 抱えられる移民の民達は顔を青ざめ前の蟻と、喰われ瀕死の状態の女性を見る。

 吹き飛ばされた人外者の伴侶はすぐさまひしゃげた顔のまま走りより抱きあげようとするが、既に腹部の大半は無く少しでも持ち上げると体が離れてしまいそうだ。

 息があるのが奇跡的の状態である。


 無理やり小さな一匹の蟻が入り込み、ミチルに飛びかかった。

 いち早く気付いた伴侶のレニアスとハストゥーレがその蟻を倒した事でミチルは助かったのだが、一匹入った壁の穴から体を無理やりねじ込みまた一匹、二匹と入ってくる。


 ピクピクと触感を動かし1番狙いやすい移民の民を一瞬で探しているようだ。


 そして、一番端にいるまだ10代だろう少年に一斉に飛びかかり、2人の人外者と騎士を1人巻き添えにして真っ白な塊を作った。


「…………な、なんで…………なんであんな簡単に……」


『簡単じゃねぇよ……ありゃ、強い土の気配がする。土の栄養を取ることでレベルを上げるのは勿論だが、何匹かレアが居るんじゃねぇか……俺たちの力やスピードを阻害してやがる』


「見ている限り、数秒ではありますが動きを止めて完全に無防備の状態を作っているようです。これにより……シロアリよりも位の高い人外者を倒すことが可能としています」


 ハストゥーレの言葉に眉を寄せる。

 事実、20人以上いた移民の民は少しずつ喰われているようだ。

 至る所で悲鳴が響き、人外者達はむせ返る血の匂いに酔い始めていた。


「…………っクソ」


 すぐ近くの青い髪の男性が頭を抑えながら首を振る。

 甘ったるい香りが広がり喰いたい欲求が膨らんでいるようだ。

 しかし、シロアリのように一緒に食い尽くす訳にはいかない。


「っ……メイちゃん!」 


「わっ!」


 芽依に向かって飛びかかる兵隊蟻。

 その後ろには隊長蟻がいて、その蟻の右足が怪しげな動きをする。

 ステップで下がり回避したフェンネルが急に止まり小さく声を上げる。


「っ…………コイツか」


 体が動かない。

 そのたった一瞬で芽依の前には数百匹の蟻の大軍が集まりフェンネルごと吹き飛ばされた。

 

 フェンネルが作った魔法陣からかなり離れた場所に飛ばされ、抱き締められて居たはずの芽依はいつの間にかフェンネルとの間に無数の蟻が侵入して2人に噛み付き離れた場所に着地させられたのだ。


 芽依の甘く芳醇な香りが辺りに漂い出す。

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