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シロアリの侵入


 シロアリの進行は思ったよりも早く予定より一日早い到着となった。

 最初に襲われたガヤとシャリダン。

 ここは庭と言うより家庭菜園が多く、家の周りが黒く埋め尽くされ、家から出れなくなった人達は窓からその様子を見ていた。

 果敢に戦いを挑み、ある一角では壮絶なバトルも行われてはいるが、それ以外は家庭菜園に釘付けである。


 このシロアリはどうやらあまり魔術は使わないらしい。

 基本的な攻撃は噛み付くや、細い足で踏み潰す等の打撃が多く地道に食らいついてくる。

 ただし、栄養になり得ないこの世界の人達が相手だと沢山の短い足をファイティングポーズかまして戦うのだが、リーチの短さによりあまりダメージは少なく逆に蹴られ吹き飛ばされるようだ。


 しかし相手は大群の為、足をすくわれ転倒させられたら最後。

 白い波となり、運ばれ遠くに連れていかれるのだ。

 移民の民が居ない時のシロアリは攻撃的では無く、穏やかにこの世界の人達を遠ざけ自分たちは土に牙を突き立て栄養を摂取する事だけに集中していた。


「………………野菜たちが一瞬で」


「もう土は……使えないな」


 小さな家庭菜園では国からの援助は受けられず、対策のためのお金を使い渋った人達も多かった。

 何故か、それはほぼ壊滅状態になるとわかっている小さな家庭菜園を手放し備蓄にお金を回したからだ。

 落ち着いたらまた家庭菜園を始める、だけど今は生き残ることを優先させたのだ。


 それでも丹精込めて育てたものを一瞬で壊された悲しみは強い。

 シャリダンの高齢者達は家の中にシロアリが居ないのを確認してから追加で作った餅の在庫を頭の中で計算した。

 餅はとても優秀な備蓄食料である。

 シャリダンの人たちは特に食べなれているから、これからの飢饉をなんとか乗り越えようと奮闘するだろう。



「………………あの子は大丈夫かね」

 

「だれ?」


「ほら、餅つき大会にきてたあの子……多分移民の民だよ、じいさん」

 

「…………そうか、移民の民か」


「頑張って生き残ってくれるといいね……」


 シャリダンの住人は高齢者が多いが、その殆どが元騎士だったりと戦いに特化した人達ばかりである。

 肉体的にも精神的にも鍛え上げられた年寄り集団はこの危機的状況もどこか楽しそうに野営飯だな!と言う人すらいる。

 この尋常ではない精神力の塊の年寄り達はこれからの飢饉では多少殺伐としつつも笑い飛ばして生活をするだろう。

 そう、彼らには狩りという食料確保ができるからだ。


 逆にガヤはカテリーデン等の買い物でじっくり吟味し食料を買い生活をする慎ましく清貧な人達であった。

 勿論狩りなどは出来ず今後の絶望を思って青ざめる。


 ゾロゾロと移動するシロアリはスピードを早めて次の街へと進行を開始。

 波打ち離れていく姿を見送ったシャリダンの住人は家庭菜園の土を触って深いため息を吐き出したのだった。




 シャリダンとガヤを襲ったシロアリはかなりの距離があるはずのカシュベルに5分もかからず到着した。

 遠くからせまる白い波を確認した瞬間、町中に低く響く渋い鐘の音がなる。

 それは領主館にも届き、別空間であるにもかかわらず庭が密集している芽依たちにも聞こえたのだ。

 空間を分けているのに、なぜかシロアリは庭の密集する場所を見つけるらしい。


 庭の密集地は勿論ここだけじゃなく、ドラムスト全土に散りばめられる庭全てを喰らい尽くして行くため、領主館やカシュベルから近い場所はこの鐘が聞こえる。


 芽依達移民の民は円になりフェンネルの庭の雪を踏み固まっている。

 その周りには伴侶達人外者が守り、騎士たちが庭に散りばめられ警護に着いていた。


 他の庭、特に広い場所には数人の騎士が守備に着くが、あまり期待はできないようだ。

 ただ、移民の民が集まる芽依の庭は別である。

 様々な攻撃や守備に特化した騎士が集まり庭より移民の民たちを守る為にいる。


『…………来るな』


 メディトークが真っ直ぐ前を見ながら言うと、ドーム状に張られた結界にばすん……ばすん……と何かが体当たりする音が聞こえ始めた。


「ご主人様…………私達がお守りいたしますから……」


「…………うん」


 不穏な様子は芽依だけじゃなくて皆にも伝わり緊張が膨らむ。

 ユキヒラはメロディアに腕を抱きしめられているが、2人の眼差しは鋭い。

 ミチルは不安そうにしてはいるのだが、レニアスが守るように抱きしめていた。

 どちらも仲良さそうで、通常ならほっこりする場面なのだが、今は命の危機である。

 芽依も力を入れ手を握りしめた。


 ふわりと風が吹き、地面に魔法陣が浮かぶ。

 それはフェンネルが発動したもので、この魔法陣の中に居る人以外の体感温度を下げ動きを鈍らせた。

 

「………………効いている……のかな」


 集団で体当たりしている為、結界に小さなヒビが入り、底に隊長アリが凄まじい音を立てて隙間を開けた。

 小さな蟻達は体をねじ込み侵入を開始する。


「…………入ってきた」


「メイちゃん、抱っこさせて」


 両手を伸ばして言うフェンネルに頷き素直に抱き上げられると、腕に座るよう抱えられた。


 ゾロゾロと現れたシロアリ達は狙いをすますように当たりを見渡す。

 広々とした庭にか、集まる移民の民にか、歓喜した女王は地上に上がってから初めて甲高い雄叫びをあげたのだった。

 

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