緊急会議 3
あれから会議の話しは続くが、芽依は膝に両手を置き交差する話を黙って聞いていた。
国に属するアリステアは、領民を守るためにも芽依やメディトーク、フェンネルにハストゥーレの協力は不可欠だと強く芽依に話した。
それは理解しているし、芽依だっていつもお世話になっているのだ。
手助けしたい気持ちもあるが、自分やフェンネルに苛立ち突っかかる人を助けるために力を貸すのは嫌だなと思ってしまうのも、芽依の本音なのである。
しかし、国に保護された時から芽依とて歯車のひとつになったのだ。
アリステアの命令は覆せない。
わかってる。だから今は、これ以上のわがままは言わない。
「………………メイちゃん」
「……………………」
心配そうなフェンネルの声に芽依は笑みだけを返した。
多分、私が1番怒っているのは私が蔑まれたからじゃない、と芽依は心で呟く。
フェンネルを物のように扱うからだ。
今までも嫌で嫌で仕方なかった。
まるで見世物のように見られ、短時間の奴隷交換の提示をされ……
そんな感情が、ここに来て爆発したのだ。
この緊急会議という最悪な場所の最悪なタイミングで。
黙って話を聞きながら数回深呼吸する芽依は次第に冷静になり落ち着いてくる。
今は自分の怒りに身を任せて好き勝手に話す場合ではない。
人の生死に関わる今、自分の感情に流されて簡単に決断するものではないのだ。
しかも、ここは縦社会でもある。
芽依1人が足並みを崩す訳にはいかない。
目を閉じゆっくりと息を吐ききってから目を開けた。
「前回の時を鑑みて4日後から5日後に来る予想なのだが、確実なものではない。それを踏まえてシロアリ対策をしたいとおもう。街に来てからどれくらい滞在するかもわからないからな、できる限りの準備をしておきたい」
「準備はいつもの害獣対策かしら……シロアリに効くものは発売されてはいるけれども……高いのよねぇ」
「今回対策にかかる費用はこちらで持つから最大限の事をしてほしい」
メロディアの困惑にアリステアはすぐに返事を返すと、笑顔で頷いた。
『じゃあ、前もって用意する薬品なんかを一覧にして各庭に配っちまう方がいいんじゃねぇか?庭の範囲によって使う量や内容はセイシルリードに聞きゃなんとかなるだろ』
「収穫も急がないといけないのよね……広ければ広い程間に合わなくならないかしら?」
ミチルの疑問はもっともで、それにはセルジオも小さく頷く。
「それは手分けして収穫するしかないな。ここには人手もあるだろ。害獣対策に庭持ちは動かないとならない。収穫は別のヤツがやるしかないな」
「………………庭に他人を入れるのは嫌だけど……仕方ないわね」
メロディアとユキヒラは渋々頷く。
この場にいる庭持ちは芽依とメロディアたちしかいないからだ。
「え!?俺達が収穫するの!?」
「他に誰がいる。それとも守られるだけで何もしないつもりか?」
セルジオは呆れたように言うと、眉を寄せて嫌そうにする移民の民たち。
伴侶により大切にされた移民の民達は多少わがままにもなっているようだ。
ミチルはユキヒラに何やらコソコソと話掛けている。
…………枝豆の有無のようだ。
そんな1部ホンワカした話をしている横では殺伐とした会話が続いていた。
「今こそ皆で頑張らないといけない時ですもの、嫌だなんて仰らないわよね?」
「でも…………庭仕事なんて……汚れるし……」
「大丈夫よ、私がやるから心配することはないわ」
「………………収穫は手作業よ、魔術はだめ。私の庭は繊細なの」
「え!?………………じゃあ、無理だわ手が荒れるじゃない」
ごねだす移民の民や人外者相手にシャルドネは物凄い笑みを浮かべた。
そして、用意されているカップで紅茶を1口飲んでからわざとガチャリと音を立てて置く。
今まで音を立ててコップを置くような無作法をしている所を見たことが無かったから芽依は少しだけ目を見開いた。
「先程も言っていましたが今は有事です。個人的な感情での判断は後に影響しますよ。今後は飢饉になります。その為の備蓄です。あなた達は食事をせずともよろしいのですね?」
先程芽依に文句を言ったことで備蓄提供を契約範囲内しかしないと言ったばかりだ。
それを思い出し、うっ……と人外者は言葉を詰まる。
「あなた達新しい移民の民の皆さんは飢饉を経験していないからわからないでしょうが、本当にね飢饉は酷いものなのよ。おばあちゃんはね、またあの地獄が起きるのかと思うと……だからね。出来ることはして、手助けしあいましょうね。ほら、等価交換、自分からも動かなきゃねぇ」
ヒサメは眉を下げながら言うと、芽依を見た。
「お庭を持っているのは2人かしら?そうしたら半分に別れて収穫した方がいいかしらね?」
『こっちは気にしなくて大丈夫だ』
「大丈夫なのか?大変だろう」
ヒサメとゼノが芽依達を心配するが、まだ冷たい笑みを浮かべるフェンネルが返事を返す。
「メイちゃんは箱庭持ちだから僕達以外は誰もいらないよ。今頃収穫も全部終わってるんじゃないかな」
『…………ハス君がいるからね』
静かに話した芽依は、あれから初めて口を開く。
アリステアは芽依を見て眉を下げた。
「……………………メイ」
「はい」
「……………………すまない、こちらの頼みをすべてきかせる様なことになってしまって」
「平時じゃないのはちゃんと理解しているつもりです。こちらこそすみませんでした。会議も時間のロスになるようなことをしてしまって。収穫は多分終わってますし、明日以降に実ったものもすぐに収穫していきます。対策も私たちで何とかしますので、メロディアさん達をお願いします」
「……………………ああ、ありがとう」
「大丈夫です」
大丈夫、ただ、飢饉が終わった後あの人達に売るかどうかは芽依のひいてはメディトークそしてフェンネルの意向に沿われるだろう。
メロディア達の庭もそれなりの広さではあるが、移民の民と人外者全ての手助けはいらないとメロディアから断りを受ける。
こうして、メロディアの庭の手伝いは比較的やる気を出してくれている人を厳選し、それ以外の人達は領民の庭の手伝いとシロアリ対策の準備に取り掛かった。
もう、猶予は残されていないのだ。




